第20話

「何で隠すんだ?」


 やましいステータスでもあるのか?

 いや、やましいステータスってなんだ。


「いやぁ……えっと、その……ですね?」


「そんな見られたくないのか?」


「あの……はい、できれば」


 エルフィはプレートを抱くように隠してしまう。


 見せたくないものを無理やり見るのは気が引けてしまうが。

 これから共に戦う仲間としてちゃんと力量は把握しておきたい。

 

 何とか見せて貰えるよう、俺は少し脳内で言葉を編んだ。

 

「ステータスはパーティでの戦い方に関わる。一番良い形で戦えるようにお互い把握しておいた方が良いんだが、どうしても駄目か?」


「うぅ……アレンのくせに丁寧な説得しないで下さい……!」


 確かに、アレンなら言葉で説得する事などありえないか。

 昔と今であまり急激に態度が変化すると危険か?


 いや今更だな。


「でも、締め上げて無理やり奪われるよりはましですね……」


 エルフィは観念して息を吐きつつ、おそるおそる俺に確認する。


「あの、怒らないでくださいね?」


「ステータスじゃ怒らねぇよ」


 ステータスはそいつ自身が努力してきた証だ。

 そこに何を言う事もない。


 そもそも怒るステータスって何なんだよ。


「絶対ですよ? 絶対怒らないで下さいね?」


「だから怒らねぇって」


「……はい、どうぞ」


 パンドラの箱を開けるかのようにエルフィはぎゅっと目をつぶり、ステータスの書かれたプレートを表にした。


 ステータス


  名前:エルフィ

  レベル:19


  力:《F》287 

  耐久:《F》212 

  器用:《E》346 

  敏捷:《E》347 

  魔力:《E》 364 

  回復力:《F》246 


  スキル:

  『妨害のオブストラクション

  スキルレベル:10

  『身体強化チャージ

  スキルレベル:14

  『支援ギフトアブソリュート

  スキルレベル:936



「『支援』レベル963!?」


 バグってんのか!?


 だがこれなら確かにあの馬鹿げた性能にも納得がいく。


 だけど何をどうしたらこんなことになるんだよ。


「ほう……面白いな」


 俺たち二人のステータスを見たバシレイオスは口を開く。


「アレン、レベルの法則は知っているか?」


「多少はな。でもこんなのは見たことねぇよ」


 レベルというものは、設定では魔物を倒し、その魂を吸う事で強くなるというものだったはず。

 特定のスキルだけ伸びるなんてのは見たことがない。


「1匹の魔物を協力して倒した場合、その魂はより殺意と貢献度の高い者へ吸収されていく」


「つまり……『支援』がほとんど吸ったってことか……?」


「恐らくな」


「でもエルフィ自身に吸われるものじゃないのか? 何で『支援』にだけ……?」


 エルフィが貢献したという事ならエルフィのレベルが上がっているはず。

 今までのレベルを見ていないから詳しい値は分からないが。そこまで上がっているようには見えない。


「殺意の有無だ。『支援』をかけたエルフィに殺意は無い。だが殺生に対する貢献度は高かった。そのためスキルレベルに魂の大半が吸収されていたのだろう」


 要は、殺意の無いエルフィの代わりに『支援』が成長した……ということか。

 この世界の判断基準によると俺の貢献度は塵にも等しいらしい。


「なるほど……それにしても詳しいな。バシレイオス」


「私の専門分野だからな。この特性はかなり使えるのだ」


 少し自慢げにバシレイオスは言う。

 だがすぐに興味はこの特異なスキルの成り立ちに移っていった。


「とはいえ、一つのスキルレベルがこんなにも突出して上がるなんて事はそうそう無い。一体どんな使い方をしていたんだ?」


「えっと……その、あはは」


 乾いた笑いを浮かべるエルフィ。


 その所以はブラック企業も震える程の過酷な労働だからな。


 だが皮肉なものだ。


 『赤龍の牙』は『支援』に頼り続けていた。

 その結果、ダンジョン最深部まで行っても本人達のレベルは中の下止まり。

 奴隷のように扱っていたエルフィの『支援』だけがありえない成長を遂げていた。


 ゲームの中でエルフィは初期に主人公の仲間になる。が、『支援』も中途半端な性能でわざわざ一人分の枠を使う必要もないと感じるキャラだった。


 それは『他では強いのに仲間になった瞬間に弱くなる』というゲーム特有の仕様だったのだろうが。

 主人公についていない時はこんなバグみたいな性能になってたのか。


 確かにそれくらいないと、あの『赤龍の牙』の状況は生まれないだろう。


 これを使い続ければ上がるレベルも上がらない。

 その代わり『支援』を使えば誰でもこの世界の最強の存在になる事ができるが。


 まぁ……『支援』は最終手段のチートお助けスキルという事にしよう。


「……エルフィ」


「ひっ……」


 『支援』の凶悪な仕様を前に声を低くした俺を見て、エルフィは怯えて縮こまる。


「これからはあまり支援を使わずに戦うぞ」


「……え? 殴らないんですか?」


 だが続く俺の言葉にエルフィは全身の緊張が解け、きょとんと疑問を俺に投げかけた。


「殴らねぇよ。怒らないって言っただろ」


「そんなものは聞き出すための建前で見たら豹変するのかと……」


「そんなことはしない」


 いい加減この信用の無さにも慣れてきた。

 これもアレンの罪だ。

 これからも潔く受けるとしよう。


「……何か感動しました。そろそろちゃんとアレンを信用しないとですね……」


 エルフィは目を丸くしてこちらを見つめてくる。案外、最低だった信頼も少しは回復してきているのだろうか。


 だがすぐに腕を組み、エルフィは難しい顔をし始めた。


「でも、支援が無くなったら私『一瞬足が速くなって煙吹くだけの女の子』になっちゃいますよ?」


「……たしかにそうだな」


 それを見てバシレイオスが咳払いをする。


「フフ、丁度良いものがあるぞ」


 少し上機嫌になったか?


 俺の感慨をよそにバシレイオスは手を叩く。

 すると今度は机の上に本が並べられた。


「これは我が謹製の魔術書だ! このいずれかを君達二人に一つずつ進呈しよう!」

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