第19話
「そういえば昨日、君達の出てきた街近くで魔人が出たと聞いたのだが。何か知っているか?」
浮ついた空気からは一転、バシレイオスの口調は重いものに変わる。
「知らせを聞いた上層の人間がひりついていてな……。こんな事態、そうそうあるものではない」
そういう反応にもなるだろう。
魔人は本来この世界に居る魔物ではない。
魔界で生まれ、現世と魔界を繋ぐ特殊な場所やダンジョンからやって来る魔物だ。
本当に何故あんな所に魔人が居たのか。
……今は考えても分からないか。
別に俺は世界を救おうとしているわけではない。ゲームのストーリーで起こるような大変な事はこの世界の主人公が何とかしてくれるだろ。
俺は俺のやるべき事をやるだけだ。
俺がそんな思考をしている間にもバシレイオスは話を続けていた。
「魔人はその巨体と膂力で力の限り破壊をし続ける。今、この瞬間も破壊活動を行っているはずだ。一刻も早く討伐しなければならない」
彼の手を見ると拳が固く握られているのが分かった。
バシレイオスは固い決意でこの事態に対処しようとしているようだ。
「よって、国中が討伐隊を編成し早急に対処しようと動いている」
そして、バシレイオスはまるで世界の危機に対処しようとしている高官のように真剣に、俺達に質問した。
「些細な事でも良い。ここに来るまでの道中、何か異変を感じなかったか?」
今、彼らは魔人について情報収集をしている段階だったのだろう。
確かに魔人は強力だ。
もし国として対処するなら軍隊を引っ張り出さなければ難しい。
冒険者に頼ったとしても確実にそれなりの被害が出る。
この世界で魔人とはそういう存在だ。
だが――
「それなら私達が倒しました!」
誇らしげに言い放つエルフィ。
言いたくてうずうずしていたらしい。
「……何!?」
ガタッ、と勢い良く立ち上がり身を乗り出すバシレイオス。
「倒したのか!? 二人で!?」
「はい!」
エルフィは胸を張り得意顔で返事をしていた。
「す、少し待っててくれ……!」
言いながらバシレイオスは慌てて奥へと走っていく。
しばらくすると落ち着いた様子で彼は戻って来た。
「……今、確認が取れた。本当に魔人は姿を消していたらしい。昨夜、稲光のような閃光と共に突然消えた……と」
「私の力で強化されたアレンのスキルです!」
しっかりと自分の功績を主張しつつめちゃくちゃ自慢している。
日本人の性として俺は自分の功績を鼻高々に説明するのはどうにも憚られてしまうが。
エルフィが全て言ってくれて助かった。
正直ここまで熱が入った人に対して、穏便に話の腰を折るにはどうしたらいいか迷っていた。
「まさか……いや、流石だな。これが最上位の冒険者だということか」
熱が抜け、バシレイオスはそのまま深い息と共に椅子へ深く腰掛ける。
「このことは方々にすぐ伝わるだろう。本当に良くやってくれた。感謝する」
「良いってことですよ!」
ギルドマスターの感謝を受けてエルフィは嬉しそうだ。
「して、君達はこれから我がギルドで活動するのか?」
「そのつもりだ」
「そうか。では我がギルドは君達を歓迎しよう。よく来てくれた」
バシレイオスは笑みを深め、こちらに握手を求めてくる。
俺も快くそれを返した。
「よろしく頼む」
「さて、君達が来てくれるのならそれなりの待遇をしなくてはな」
バシレイオスは手を離すと、椅子から立ち上がり手を叩いた。
するといくつかの書類と銀のプレートが戸棚の中から飛んでくる。
「本来なら他のギルドで最上位だった者でも、最低位のEランクから始めてもらうのが通常なのだが」
飛んできた物が机に並んでいく。
「今回は特例としてAランクから始められるようにしよう」
「本当か! 助かる!」
ギルドのランクはEからAに分けられ、Aから上は貢献度によって1から数字が増えていくシステムだ。
この数字がギルド内で最も高い者が最上位ランカーとなる。
ギルドのランクシステムはEからAに上げるまでが中々に面倒くさい。
それまでランク相応の報酬しか貰えないため、しばらくは厳しい生活だと思っていたのだが。
Aランクからなら十分な報酬を得られる。
生活苦に耐えながらクエストをこなすなんて事は無さそうで良かった。
「登録はこちらでしておくが、その際ステータスを取っておく必要がある」
バシレイオスは俺達に針を渡しつつ確認する。
「これは別に見ても見なくても良いのだが、ステータスの確認はするか?」
「もちろん」
魔人を倒したんだ。
レベルはそれなりに上がってはいるはず。
どれだけ強くなったか、かなり気になる。
「アルケミスのステータスカードは特別製だ。レベル、スキルの他にスキルレベルも分かる。他では見られぬ物だ、これからの参考にするといい」
スキルレベル。
そういえばそういうものもあった。
ゲーム中盤で解禁される、スキルを使い込めば使い込む程強くなるスキルのレベル。
最終的には二、三個のスキルに集中し他のスキルが捨てスキルになっていくものだ。
「ここに血を一滴染み込ませてくれ。君達も既にやった事があるだろう?」
バシレイオスが机に置かれた銀のプレートを指す。
ステータスカードだ。
「これ苦手なんですよね……自分で自分に針刺すの怖いんですよ」
エルフィは針を持ち、恐る恐る自分の指に近づける。
だが眉間にしわを寄せ、とてもやりにくそうにしていた。
「やってやろうか?」
「やめてください! それで指先ぐちゃぐちゃにされたの結構トラウマなんですからね!?」
俺が手を近づけると反射的にエルフィは手を引いた。
そんな事されたらそうなるか。
えぐいことするな……アレン。
しかもやった側はただのおふざけとしか見ていないタイプのいじめだ。
本当に良く耐えてきたなエルフィ……。
俺は密かにこれからもちゃんとエルフィを労わろうと決意した。
(さて、俺も見てみるか)
切り替え、俺は自身の指に針を刺す。
そして血が一滴落ちるとステータスが表示された。
ステータス
名前:アレン・ヨーク
種族:人間
レベル:25
力:《D》487 +53
耐久:《D》412 +60
器用:《F》296 +32
敏捷:《D》407 +40
魔力:《F》299 +16
回復力:《E》357 +28
スキル:
『
スキルレベル:13
『
スキルレベル:25
『
スキルレベル:12
『
スキルレベル:16
確かに上がっている。
上がっている……が。
(上がり幅……少なくないか?)
推測だが魔人とは60近くのレベル差があったはず。
それを倒してレベルが3しか上がらないのはおかしくないか?
俺がそう思っているとエルフィが声を上げた。
「……あっ!」
そしてエルフィは自分のステータスカードを隠した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます