第16話

 迷宮都市『アルケミス』。


 その名の通り錬金術師達の街だ。

 この世界にダンジョンが現れて間もない頃。錬金術師が集まり協力してダンジョンを攻略し始めたのが始まりとされている。

 という設定だった気がする。


 街の至る所にダンジョンの資源から造られた魔導機械が設置されており。

 ファンタジーの世界観でありながらSFのような印象があったためよく覚えている。


「誰も居ないんですね」


 ただのトンネルのような、門扉の無い門を潜りエルフィが呟く。


「そうだな」


「もし悪い人が通ろうとしていたらどうするんでしょ――かっ!?」


 突然照射された青い光にエルフィの言葉が遮られる。


「何ですか!? これ!」


 全身くまなく照らされるが。

 ただ照らされただけで特に何も無い。


 門も素通りできる。


「確か、特殊な装置で悪事を働いたらすぐに分かるようになっている……って聞いた事があるな」


 そのまま歩き、俺達は簡単に街へ入る事が出来た。


 ゲームでは街の中でプレイヤーキルや窃盗、諸々の犯罪が出来なくなっていた。

 その理由付けとしてそれぞれの街に設定があったはずだ。


 ここは錬金術師の街。

 街に入る時必ず照射される光によって悪事を働いた瞬間全て分かる。

 そのためこの街で事件は起こらない。

 と、そんな設定があったはずだ。


「でも一回悪い人を通したら悪事を未然に防ぐのは難しくないですか?」


「ああ、それは――」


 エルフィを見ると、背負っていた鞄がない。


「エルフィ、鞄は?」


「……あれ? 何で!?」


 周囲を見ると、少し遠くにエルフィの鞄を持って走っている男が居る。  


「待って私の全財産!!」


 いきなり犯罪起きてるじゃねぇか!?


 二人共一切気付かなかった。

 認識阻害系のスキルか?

 そんな事が出来るのはスキルくらいだ。


「――返せよ!」


 そんな思考をしつつも窃盗犯に向かって俺は跳躍する。


 相手は俺の間合いの中だ。

 一度の跳躍で十分追いつける。


 相手の背中を捉え、捕まえようと俺は手を伸ばす。


 だがその瞬間。


 どこからか飛んできた男が窃盗犯を取り押さえた。


「この街で悪事を働こうなど……馬鹿な者は消えないものだな」


 俺よりも先に細身の男が窃盗犯を捕まえ、流れる様に手錠をかける。


 その男は腰まで伸びる長髪を結い、ポニーテールのようにしていた。

 服は濃い青を基調とした制服を身に纏っている。胸には紋章、その紋章には見覚えがあった。


「アルケミス騎士団……」


 この街を守る騎士団だ。


 おお、本物だ。


 目の前で意思を持ち、動いている騎士を見て俺は少し感動する。


 アルケミス騎士団はかなり格好良い見た目をしているくせに、ゲーム内では特に何もしないNPCだった。

 『治安を守っている』という設定で意味も無く街を歩いているだけ。

 

 初見の時は見た目的に絶対に何かするだろうと思って期待していた。

 しかしストーリーの最後まで何も無かった。


 本当に治安を守っていたんだな。

 何故か嬉しい。


「お前が荷物の持ち主か。安心しろ、この街で解決しない悪事は無い」


 そう言って騎士の男は荷物を渡してくる。


「ありがとな」


 ゲームでは活躍を一切見ることが出来なかったが。

 現に今、彼はちゃんと活躍している。

 感慨深い。


 そう、俺が浸っていると騎士が首を傾げた。


「ん……? お前、以前何処かで……」


 そう言って顔を覗き込んできた。


「いや、気の所為か。勘違いだったようだ」


 だがすぐに距離を取って騎士は窃盗犯を抱えた。


「この街で犯罪に気を付ける必要は無い。安心して全て我々に任せてくれ。ではな、旅の者」

 

 騎士はそう言うと、屋根の上へと跳んでそのまま何処かへ行ってしまった。

 

 『気をつける必要はない』か。

 普通は『気を付けろ』って言う所だよな。


 もし何か犯罪が起きそうになれば文字通り飛んでくるのだろう。

 そして起きた瞬間に解決、もしくは未然に防ぐ。


 彼らの働きでこの街の住人は常に安心していられるのだろう。

 素晴らしい事だ。


「アレン! 荷物は無事ですか?」


 遅れて走ってきたエルフィが合流してきた。


「ああ、全部帰ってきた」


「なんか凄い人が居ましたね。どこから飛んできたんでしょう」


 早朝、まだ誰も居ない寝静まっている街をエルフィは見渡し不思議そうにしていた。


「本当にな」

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