第8話
「離してください!」
「ラッキーなこともあるもんだぜ。獲物が向こうから飛び込んでくるとはな」
アレンが走っている頃、エルフィは奴隷商に捕まっていた。
アレンから逃げる事だけを考えていたエルフィは奴隷商達に気付かず、彼らのど真ん中に飛び出してしまったのだった。
「枷持って来い」
エルフィを押さえる奴隷商が淡々と部下に命令する。
持ってきたのは奴隷用の首枷。
奴隷が暴れて外そうとすると、ゆっくりと刃が首を締め付ける。
そのまま暴れ続ければ喉に刃が食い込み死に至るという仕組みだ。
エルフィはこの首枷だけで一生の自由が奪われてしまう。
「やめてください……!」
全力でもがくが非力な彼女は簡単に押さえつけられてしまう。
「大人しくしてろ!」
奴隷商は怒鳴り、エルフィの首を締めた。
エルフィの意識は薄くなっていく。
しかし暗くなっていく視界の中でエルフィは力を振り絞り、呟く。
「……『
自身へのバフスキルだ。
一時的に身体能力を強化できる。
しかし効果は短く、『支援』と比べれば強化も弱い。しかも使用後は一定時間のクールタイムがある。
先程アレンに対して使っていたため簡単に捕まってしまっていたのだった。
「どいてください!」
エルフィは強化した膂力で奴隷商を跳ね除け、投げ飛ばす。
拘束が無くなり、一時の自由を取り戻した。
しかし周囲には奴隷商達。
エルフィを取り囲んでいる。
ただ逃げてもすぐに追いつかれる。
「『
煙幕を張った瞬間、エルフィは近くの奴隷商を蹴り飛ばした。
そして次々に他の奴隷商も蹴散らしていく。
「道を開けて!」
敵の視界を塞ぎ、エルフィは一人ずつ行動不能にしていった。
後衛、支援職。前衛に立って戦う者とは本来戦闘力に大きな差がある。
だが彼女は最強のパーティ赤龍の牙で唯一、自らの『支援』無しにずっと戦ってきた。
支援のスキルは自分自身に付ける事が出来ない。
できるのは中途半端な『
だからサポートとして後衛に回り支援に徹していた。
しかし彼女もまたダンジョンの最前線で生き残り、破竹の勢いで攻略をしていた事に変わりはない。
彼女はダンジョンの奥地で人を遥かに凌駕する高レベルのモンスターから自分自身を守ってきた。
その戦闘力は並の人間を遥かに超える。
だが――
「何とかしろ魔人!!!」
奴隷商の叫び声。
それに反応した魔人は弾けるような速さで動き。
次の瞬間にはエルフィをその手の下に押さえつけていた。
「あっ……ぐ!」
まるで羽虫を捕らえるかのように、素早く簡単にエルフィは拘束されてしまった。
魔人はエルフィよりも遥かにレベルが高い。前衛ではない彼女には限界があった。
「チッ……手間かけさせやがって」
言いながら奴隷商はエルフィの手を踏んだ。
「ゔあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
もう『
奴隷商が首枷を持ってくる。
「もう暴れんじゃねぇぞ」
奴隷商はエルフィの髪を鷲掴みにし、無理矢理に首を上げさせる。
もう抵抗はできない。
上からは魔人の巨大な質量に押さえつけられ、周囲には奴隷商達。
『
枷が掛けられようとする。
痛みと苦しみの中でエルフィは思う。
(……理不尽です)
ずっとパーティの中で苦しんできた。
あの街に来て最初に会ったパーティーが『赤龍の牙』。
冒険者なんて無い場所から来た私は初めて見た彼らに惹かれてしまった。
それから行動を共にして。
彼らが悪人であると気付いた時には既に私も悪人として見られるようになっていた。
『赤龍の牙』に居場所は無く、他のパーティーに行こうとしても門前払い。
他の街に行こうにも行く宛は無いし、報酬を取られていてお金も無かった。
いつの間にか私の居場所はどこにも無くなっていた。
追放されてやっと踏ん切りがついたんだ。
一文無しで街から出て最初からやり直す決断。
今までの辛い事を全部忘れて、新しい場所で楽しく生きようと思っていたのに。
アレンは何故か追ってきて。
アレンから逃げたと思えば、大量の奴隷商が行く手を遮っている。
不幸だ。
出来る事はやり尽くし、残る力は既に無い。
気力も体力も使い果たした。
(……このまま私の人生は奴隷として終わるのかな)
赤龍の牙の次は奴隷か。
あまり変わらない。
違うのは首枷の有無くらい。
そういえばアレンが言っていた事は本当だった。
機会があれば謝らないと。
――そして、奴隷商が首枷を着けようと金具を開いた。
その時だった。
「『
轟音と共にエルフィを押さえていた魔人がよろめいた。
「え……?」
エルフィの体にかかる重さが無くなる。
「誰だ!? クソッ!」
絶対的な力である魔人が飛ばされ奴隷商は動揺する。しかしそれでも絶対に逃さないという意志でエルフィの髪を掴んだ。
そして開いた首枷をエルフィの首にかける。
「『
その刹那、アレンが奴隷商を吹き飛ばした。
「まだ無事かエルフィ!?」
「アレ……ン?」
エルフィに手を差し伸べるアレン。
そんなアレンを見て、エルフィは反射的に一歩引いた。
今までのアレンにはありえない、まるで聖人のようなその行動に。
エルフィが抱いたのは感謝や安心ではなく、疑問だった。
「……どうして?」
「完全に自業自得なんだけど、いい加減傷つくぞ?」
アレンはエルフィに距離を取られ内心傷付きながらも、エルフィを強引に抱き上げる。
「謝りに来たんだよ。今までの事、全部」
そしてそのままエルフィを抱えてアレンは飛び、その場を後にした。
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