第4話
少し遠くから足音が聞こえた。
ヒロイン……ではないな。足音が多い。
どうやら足音の主達は丁度崖の下に来ているようでそこで足音が止まった。
俺は様子を見に下を覗いた。
「今日はここで張るぞ。全員を集合させろ」
「はい!」
崖下の少し開けた場所に人が集まっている。
「いや多すぎだろ……?」
まるで軍隊のような数だ。
班ごとに別れ、それぞれが列を作っている。
おそらく奴隷商の奴らだろう。
ストーリーではヒロインが奴隷商に捕まったという事にしか触れていなかった。
このゲームの奴隷商がこんなに本気を出しているとは。
「お前らよく聞け!」
列の前に立った男が大声で話し始めた。
「ここは都市の近くだ。どいつもこいつも育ちのいい奴ばかり。いい商品になる!」
話し始めたのは人拐いについて。
ここを人の狩り場にしているようだ。
「捕まえた班には報酬として、奴隷の中で好きな奴を1人与えてやる! 誰一人見逃すな!」
「うおおおおおおおおお!!!」
男の叫びに呼応して部下たちが叫んでいる。
報酬に気合が入っているのか……下衆な奴らだ。
「では配置につけ!」
その言葉と同時に列が別れて山に広がっていく。
まずいな。
もしヒロインが彼らに捕らえられたとして、そこからヒロインを助け出すのは至難の業だ。
こいつらよりも先にヒロインを見つけておきたい。
とりあえず山の入口でヒロインを待つか。
できれば山に入る前に話をつけたい。
少なくとも山に入る事は阻止しないと。
………
走って乱れた息を整えつつ、俺は山道の入り口付近に辿り着いた。
「やっとついた……」
張り詰めた緊張を解き、俺は山道の入口が見える場所に腰を下ろす。
既にこの山には奴隷商達が目を光らせながら山を練り歩いていた。
そのどれに見つかっても山に居る全ての奴隷商が敵に回ることになる。
正直軍隊のような数を1人で相手取るのは御免被りたい。
「やっぱ既に来てるか」
入り口にはもう奴隷商が陣取っていた。
俺が他の奴らをかわすのに手間取っている間に来ていたらしい。
まだ陽は落ちていない。
ヒロインストーリーで来ていたのは確か夜中だったはずだ。
それまでは大人しくしておこう。
「ったくたりーぜ。この時間から夜中までずっと見てなきゃいけねーんだぜ? きつ過ぎるっつの」
俺が座っていると山道の入り口付近を見張る奴隷商達の話し声が聞こえてきた。
雑談らしい。余り聞く意味もないか。
「でも奴隷が1人ただで手に入るんだぞ? それ考えたら耐えられるだろ」
「何言ってるんだ? 俺達が奴隷を貰っても維持費を出せねぇじゃねぇか。少しは頭使えって。良いように俺達を使うための餌なんだよ」
「まぁ確かに?」
そう言った男はそこではっとして続けた。
「でもそれなら一晩使って捨てればいいんじゃねぇの? それで十分だろ」
「は?」
それを聞いたもう片方が瞬きして、数瞬考え納得したように頷く。
「…………なるほどな。その発想は無かった。下衆さではお前の足元にも及ばねぇわ」
「だろ? ひれ伏せよ」
「調子に乗るな。皮肉だぞ」
お互いの目が剣呑になり、腰に携えた剣に手をかけた。
「……お、おい。……後ろ!」
しかし片方が怯えて指を差した瞬間。
彼らの足元の地面が斬り裂かれた。
(何だ……!?)
地割れのようなその跡は2人の足元に迫り、後少しずれていれば彼らも切り裂かれていただろう。
切り裂かれた地面の元を辿ると、そこには長身の男が居た。
「やめろ貴様ら。2人とも奴隷として連れて行かれたいのか?」
強い。
一目で分かる程に動きが洗練されている。他の奴隷商よりも圧倒的な力を持っているのは確かだろう。
俺でもアレンの素の力で勝てるかどうか。
あんなに強い奴が居るとは思わなかった。
「班長!? いえ! 仕事はきっちりやらせてもらいます!」
さっきまで崩していた背筋を伸ばし、良い姿勢で返事をする2人。
怯えているようだ。
それを見て長身の男は剣を抜き、2人の首の皮を薄く切った。
「いいか? 俺達はミスをすれば奴隷として上の奴に売られるんだ。奴隷になって首枷つけたまま一生を終えたくなければ黙って働け」
「は……はい!」
恐怖で動く事もできないのか2人はその場で返事をするしかない。
「俺は少し辺りを見てくる。俺達に以外にも何か居そうだ」
「分かりました!」
長身の男は剣をしまうとどこかへ行ってしまった。
「はぁ……」
緊張の糸が解けた2人はその場に弱々しく腰を下ろした。
片方がうつむきながら口を開く。
「あいつ……どこから聞いてたんだよ」
「やめとけ。悪口言ったらどこからでも飛んでくるかもしれないぞ」
「流石にどこからでもは無いだろ……?」
それは俺も流石に無いと思うが、長身の男は辺りを見ると言っていた。
周囲を警戒されたら俺も見つかるかもしれない。
少し移動するか。
俺はそう思い立ち上がる。
行くべき場所は奴隷商から見つからず、山道の入口が常に見える場所だ。
「『
背後からのその声が聞こえた瞬間、反射的に俺は横へ飛んだ。
甲高い音が俺の体の横を通り過ぎる。
先程まで居た位置を見ると、巨大な亀裂が走っている。
死角からのスキル詠唱だ。
避けていなければ死んでいた。
(あっぶねぇな!?)
振り返ると、木の上から長身の男が見下ろしてきていた。
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