第5話

「誰かと思えば冒険者様じゃないか。しかも最上位パーティ『赤龍の牙』のリーダー、アレン」


「よく知ってるな」


「有名だからな。で……普段ダンジョンにしか行かない引きこもりがここで何をしている?」


「人探しだよ」


 木の上から剣を向けてくる長身の男に俺は素直に答えた。


 別に隠す意味もない。


 話をする気があるって事は、発見即確保という訳ではないようだ。もしかしたら敵意が無い事を見せれば見逃してくれることもあるかもしれない。

 向こうだって最強と言われている『赤龍のきば』のメンバーとは戦いたくないはず。


 だが、あまり弱気だと襲われる。

 必要なのは強気な態度だ。


「ほう……そうか」


 俺の答えを聞いた男が腰を落とす。


(……っ!)


 俺は反応して構えようとするが。

 その時にはもう組み伏せられていた。


「冒険者には力とスキルがある。しかも『赤龍の牙』のアレンとくればかなり買い手もつくだろうな」 


 戦う気しかなかった。


 男は俺を地面に倒し、腕を押さえて俺の動きを封じる。


 速い。

 少なくとも見てから反応するのは難しい。


 だが、力はアレンよりも少し低い程度だ。

 腐ってもアレンは冒険者。中堅程度の力はある。

 隙を見れば抜け出すことはできるだろう。


 俺は隙を伺いつつ口を開いた。


「俺を売る気か?」


「お前に恨みがあるやつは多い。恨みを晴らしたい奴がさぞ値を釣り上げてくれるだろうよ」


 うーん確かに。想像できる。

 もし俺が奴隷として捕まったらと思うと……背筋が寒くなるな。


「じゃあ捕まるわけには行かねぇな……!」


 俺は地面を全力で押して体をよじる。

 そして上に乗る男を振り落とし立ち上がった。


 案外、簡単に拘束から逃れられた。

 アレンは普段ダンジョンの魔物を相手にしていた分、人間相手ならそこそこやれるのかもしれない。


 拘束を解かれた男は事も無げに距離を取る。アレンならこの程度できて当然というような態度だ。


「お前の格好、ただここを通ろうとしていたわけじゃないな」


「だからなんだよ」


「単刀直入に聞く。俺達を潰しに来たのか?」


「そうだって言ったら?」


 このセリフ言ってみたかったんだよな。

 ただ、今はその余韻に浸れるほどの余裕は無い。


「やるしかないな」


 俺の言葉を聞いた男は剣の切っ先をこちらへ向けて来た。


「そうかよ。だがあいにく別に俺はお前らに用はねぇ。人拐いだったか? 見逃してやるよ」


 正直俺は戦いたくなかった。

 まだ俺はアレンのステータスを完全に把握できていない。

 勝てなくはないだろうがギリギリの戦いになりそうだ。

 それに痛いのは嫌だ。


 できれば穏便に済ませたいのだが。


「そりゃありがたいな。だがその必要は無い」


「は?」


「俺達がお前を売り捌くからな……!!」


 戦闘は避けられないようだ。


 言いながら男が突っ込んでくると同時、周囲の草陰から別の部下の奴隷商達が飛び出してきた。


 囲まれた。


 男の無駄話は時間稼ぎだったようだ。

 その間に部下を潜ませていた。


 賢くないか……? 本当にあのゲームの登場人物かよ?


 俺は上に飛び、木を伝って彼らと距離を取った。


「チッ……やはりこの程度じゃ逃げられるか」


 男は舌打ちしながら俺を追ってくる。


 木を飛び移って逃げる俺についてこれるのは長身の男だけだ。

 しかし俺から攻勢に出る事はできない。

 今戦えばすぐに追い付かれて囲まれる。

 多勢に無勢だ。


(仕方ないか……)


 戦うしかない。


 だが今のままでは少し厳しい。

 スキルが使えれば多人数相手にも勝てるだろうが。

 そのためにはステータスを見ないといけない。


 このゲームはスキル名を言う事でスキルが発動する。


 プレイしていた時はかっこよく叫んで技を出していたものだ。

 普通にコマンドで出す設定もあったが俺は断然詠唱派だった。


 ゲームが現実となったこの世界でコマンドは見当たらない。

 男も詠唱をしてスキルを発動していたし、技名を口に出さなければならないのだろう。


 戦うならとにかくアレンのスキル名を見なければならない。


「『飛影斬ウィンドスラッシュ』!」


 背後から詠唱が聞こえてきた。

 空気を裂く甲高い音と共に斬撃が飛んでくる。


 咄嗟に避ける。

 

 回避はしたが、ギリギリだ。

 飛んできた斬撃は全力で回避したにもかかわらず俺の腕を少し斬った。


「悠長にステータスを見ている暇はくれなさそうだな……」


 なんとか隙を作ることができればいいのだが。


 そう思いつつ走っていると前方に崖が見えた。


「運が良いな!」


 俺は全力で向かい、崖下に降りたように見せかける。

 そして岸壁に捕まり張り付いた。


 いわゆる角待ちだ。


 男は崖下に降りた俺を見逃さないように急いで降りるはずだ。

 これで男が崖下へ急いだ所の不意を突く。


 足音が来た。


 男が姿を現す。


「小賢しいな」


 しかし男はこちらを向き、剣を構えて降りてきた。


 読まれていた。


「まじか!?」


「下に落ちてろ!」


 そして男は落ちる勢いのままに剣を振り下ろしてきた。


「ぐっ……!」


 俺は何とか剣で防御する。

 が、無理な体勢の防御で俺は下へ落ちてしまった。


「痛っ……結構落ちたな」


 そのまま俺は崖下へ落下し木に受け止められた。

 命に別状はないが痛いものは痛い。


 しかしステータスを見る隙は作れた。


「結果良ければ……だ」


 俺は冒険者カードを取り出しそのステータスを確認する。


 ステータス


  名前:アレン・ヨーク

  種族:人間

  レベル:22


  力:《D》434

  耐久:《E》352

  器用:《F》264

  敏捷:《E》367

  魔力:《F》283

  回復力:《E》357


  スキル:

  『威圧ドーンティング

  『剣戟強化インテンシファイ

  『雷撃剣閃ライジンググリント

  『大崩衝撃グランドディバイド


 


 平均的な冒険者といった感じだ。


 最強と言われていてもヒロインが居なければこんな程度。

 結局あのパーティーの強さはヒロインの影響によるものだ。


「悪くないな」


 しかし現状負ける気はしない。

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