生きたいという気分だ

「ただいま」


 とはいっても家には誰もいない、母は家の財産を持ち逃げして豪遊しているし、父に至っては国外逃亡でブラジルに行った。隕石は日本のちょうどこの街あたりに衝突するので、反対側にあるブラジルが最も生存の可能性が高いと言われているのだ。直撃した方が苦しまずに死ねると思うが。


 改めて武藤さんは良い父親だと思う。おそらくこの世の中の家庭のほとんどが僕の家庭と同じような状況に陥っているだろう。


 隕石の到達まであと数日、本来は学校の授業があるのだが、もう行く必要もないだろう。気が変わった。死ぬまでにやれることをやろう。しかし一人では寂しいな…そうだ。


『……というわけで、隕石が落ちるまでの数日間、お互いのやりたいことをやろう』


『いいね!名付けて、虚構の夏休み大作戦!楽しもう!』


 意外とすぐに承諾してもらった。それに続けてクマのスタンプが送られてきた。劇画風のなんとも言えない良さがあるスタンプだ。


 一日前とはどうも気分が違う、もう少し生きてもいいと思えている。黒澤さんの生きたい姿勢に影響されたのか、それとも武藤さんの涙か、理由はわからないけれど。

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