第14話 あなたと剣士と主従コンビと


 実習用の空き教室であなたたちはペアを組み、横並びで実技に取り組んでいた。

 一人が敷いた布の上に横たわり、もう一人が学んだ『応急手当』の作法を実演している。

 全員が、制服から実習用に用意された青色のチュニックとズボンに着替え済である。



「怪我はもういいの?」



「ああ、おかげさまで。……遅くなったけど、あの時は助かったよ。助けてくれて、本当にありがとう」



「ううん、どういたしまして」



 隣で、ミカエラが横たわったカーラに対して太もものマッサージを行っている。

 ミカエラとカーラのたわわに実った四つの果実が震える様を、あなたは視界の端で見やった。



 カーラ・ソードマン。

 かつて勇者ランズと共に旅をした稀代の大剣豪アステリア・ソードマンの子孫。

 著名な剣士を輩出してきた武勇高き一族であり、カーラは本家筋の次女である。



 身長はあなたと同じほどで、高身長。

 筋肉質な体つきで、腹筋はうっすらと割れている。

 逸話の中のアステリア同様、燃えるような真紅の長い髪をポニーテールにしており、先祖の偉業に対するカーラの憧れが表れていた。



 もう片方側では主従コンビが包帯を四苦八苦しながら巻いている。



「レン様、そのお調子です」



「むう……なかなか難しいな……」



「……ぁ、はぁん!?」



「シモン!? ……強すぎたか」



「い、いえ、お気になさらず続けてください」



 レン・リーダとシモン・サポータ。

 吊り目のレンと糸目のシモン。あなたと同じクラスの男子二名。並び立つとレンは頭ひとつ分シモンより小さく、あなたと比べると二つ分以上差があった。



 レンは学園長であるリンダ・リーダの孫であり、劇中では主人公のミカエラに敵愾心を燃やすライバルキャラとして描かれた存在である。



 波がかった短めの金髪と、ミカエラの対比のようにキャラデザインされている。

 いつも分家筋の同年代であるシモンを侍らせており、リーダの孫であることにレンは誇りを抱いている。



 原作では、レンは祖母のリンダ・リーダがスカウトしたミカエラのことを嫌悪し、事あるごとに対立していた。



 この世界では仲良くやれるとよいのだが。

あなたはそう思いながら、頭部から流血する男性講師に止血措置を続けた。



⬜︎



 授業三日目ともなると、あなたとミカエラ、カーラは『応急手当』を習得した。

 講師の出血、火傷、凍結、伏せ、毒、骨折、脆弱の状態異常を順にスキルを用いて治療していき、晴れて合格となった。

 


「ふぅ……」



「素晴らしい! 君も問題ないですね!」



 四日目の終わり際。従者シモンが講師の治療を終える。

 シモンが顎を伝う汗を拭うとともに、首の根本から一つ結いした緑髪が揺れた。安心しきったのか、シモンは両手を膝の上についてから、大きく息を吐いた。



 次に主人レンの番になった。

 あなたたちはレンの実技を、背後から見守る。

 華奢な手が懸命に講師の体を動き回る。



 スキル『応急手当』は狩人スキルなだけあって、技術と知識と信仰がものをいう。

 状態異常に対する適切な処置方法を学び、術者はそれを実践していく。

 術者は先人たちが長年紡いだ作法を守る必要があった。



 術者の行った作法が狩の神霊に認められることで、神秘性を帯び、効力を発揮するのだと、設定資料集には書かれていた。



 講師が半身を起こし、レンの手を止めさせる。



「時間です。まだまだですね」



 レンは狩の神霊のお目にかからなかったようだ。講師からそう告げられたレンは、握った拳を両膝の上で震わせていた。

 


⬜︎



 講師が授業の終了を告げ、実習用の教室から去っていった。

 残されたあなたたちは、肩を落とすレンの背を見つめていた。


 

「ここは任せてほしい。こういうのは得意なんだ」



「カーラ様……」



 カーラがあなたたちを制して前に出た。

 先週もカーラとレンはチュートリアルイベントで同じパーティを組んでいた間柄だ。

 カーラに励ます技量があるか定かではなかったが、あなたもミカエラもまずはそばで見守ることにした。



 原作のカーラを知っているあなたは、なんとなく嫌な予感を覚えた。



「レン、気にすることはない。まだ時間はある」



「……うるさい」

 


 肩を落とすレンに、カーラがかがみながら話しかけるもつっけんどんに返される。

 先行きの怪しさが増すも、気にしたそぶりなくカーラは続けた。

 


「君は、優秀な才がある。私たちはそれ以上にあるようだが、君だってひけをとってない」



「カーラさん!?」



 それ言う必要あった? あなたはドン引きした。

 隣でミカエラも変な声をあげている。



「……貴様は、俺を怒らせたいのか? 慰めたいのか?」



「? 見ての通りだ。……レン、麗しい君の悲しむ姿も、美しい。……だがわ」



「消えろっ! 消えちまえっ!!」



 レンがカーラを突き飛ばそうとするも逆に反動で尻餅をついた。体格差とレベル差の賜物である。



 こいつ余計なことしか言わねえ!! あなたは内心頭を抱えた。

 シモンと一緒にレンを引き起こそうと、あなたは膝を木床につける。あなたはレンの背を右腕で支えた。



 ――大丈夫か、リーダ?



「レン様……」



「くっそ、くっそ、馬鹿にしやがって……!」



「な、泣いてる……!?」



「カーラさんはもう口開かないで!」



 原作でもカーラは言葉選びが下手だった。

 本人は至って自信ありげに真面目にやってるところがタチが悪い。



 今までは体格と魅力のステータスの暴力で、大勢の男子に夢見させてきたのだろうが、今回ばかりは相手が悪かった。

 自尊心や向上心が強いレンには、その手法は通用しない。

 


「ちょっと、なんの騒ぎ!?」



 騒ぎを聞きつけて教室の扉を開けるものがいた。

 取り巻きを連れ、笑みを讃えて近寄る紫髪ツインテール。

 あなたはその姿を見てげんなりする。



「あらあらあら、聞き覚えのあるうるっさい金切り声がしたから誰かと思えば……。ポンコツ三人衆じゃない。クスクス」



 アリス・マーケッタ。

 先週のチュートリアルイベントでレン、シモン、カーラとパーティを組んだ女性スカウトが、あなたたちを見下した。

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