第11話 あなたの実家に買い物に行こう①
ベルゼ王国の第二都市ベリアルド。
あなたの生家もあるこの都市は、王都ベルゼと港町ビレルの中間に位置し、宿場町や交通の要衝として機能している。
四方を城壁に囲われており、人口の増加と共に王都や王立冒険者学校に近い城壁の外の北部居住区が発展していった。
あなたはその北部居住区の生まれであった。
商業街道と生活街道と二つの大通りでそこそこの規模の店を構える商人を親とし、家業の手伝いと花婿修行をしつつあなたは育った。
あなたとミカエラは露天や屋台で賑わう商業街道の入り口を旅人や商人、観光客に紛れて歩いていた。
はぐれないようにあなたとミカエラは手をつなぐ。
喧騒に負けないよう、ミカエラに大声であなたは話しかけた。
――そこの、アイカータ服飾店ってとこ! そうそう、それそれ!
あなたが指差した先に木造の二階建ての店舗があった。
軒先に店名とチュニックの絵が描かれた看板が立っている。大きな窓ごしに店内を覗くことができた。
あなたたちは人混みを抜けて店に入っていった。
⬜︎
「いらっ――兄ちゃん!?」
「ぼ、ぼっちゃん!?」
あなたがドアを開けるとドア上部に取り付けられたチャイムが鳴った。カウンターが店舗中央に設置され、壁に沿って商品棚が置かれている。
中に入ると、あなたの見知った顔があった。
あなたの弟と店を任せている従業員たち。
あなたを見かけるやいなや、弟が客をほっぽってあなたのところに来たので、あなたは弟の頬っぺたをもみくちゃにした。
――なんてかわいらしい店員だ。ほっぺも柔らかいし、弾力あるし素晴らしい。気のせいかもしれないけど、前のお客さんがいたんなら、そっちの対応終わってから来たら完璧だったな!
あなたに揉みくちゃにされながら真顔で弟は親指を立てた。
冒険者風の女性客の元に戻ると、あなたの弟は何事もなかったように、女性への接客を再開した。
「いらっしゃいませ、ぼっちゃん。本日は何用ですか?」
代わりに、給仕服を着こんだ初老の女性が朗らかにあなたに声をかけてくる。
あなたはミカエラを彼女に紹介した。
――こちらの子、ミカエラが女性ものの服を欲しがっててさ。いろいろと見繕ってもらえる? 右も左もわからない感じなんで、ある程度お任せしていいかな?
「……なるほど。わかりました、私めにお任せください。ささっ、ミカエラさん。こちらへどうぞ」
「は、はいっ」
そう言って店番の女性がミカエラを案内する。
あなたは手を振って、ミカエラを見送った。
⬜︎
「あの人って、兄ちゃんのこれ?」
――おめーまた怒られっぞ……。
店内の商談用の小さなスペースで、あなたたち兄弟は店内の様子を観察していた。
あなたの弟が、左の親指と人差し指で輪っかを作り、その間に右の人差し指を入れて前後させる。
誰でもないあなたが教えた仕草を、あなたの弟は気に入っていた。
あなたの弟のカゲ・アイカータは十一歳の少年で、五兄弟姉妹の末っ子である。
同性であるあなたの影響を多大に受けたせいか、言動がこの世界基準で過激である。
あなた同様、世間からは
エロに寛容な黒髪美少年。
まるで女性向け小説定番設定を具現化したような存在であった。
「で、エッチしたの? それとも見抜き?」
――おめーさぁ〜……。場所考えろっつーの。ここお店よ、お店。ったく、そういうんじゃありません。ただのクラスメートっす。
「オ〇猿の兄ちゃんにしては珍しいね」
――やかましいわ。冒険者になったからには、兄ちゃんももう、オ〇禁しないといけないわけ。猿は卒業したんです。
「えぇ〜〜……。あの兄ちゃんがぁ? うっそだぁ、朝起きたら出てたとかもないの?」
こいつエスパーか? あなたは末っ子の勘のよさに恐怖を覚える。
――んなわきゃないだろ。兄ちゃんは節度ある大人だからな。
嘘である。
あなたは夢精せずにすむ薬や装備、マジックアイテムがあるなら、全財産叩いても買うと決意を固めている。
原作でなかったものがこの世界にあるか?
……望みは薄いものの、あなたはあると推測していた。
なにもかもが原作どおりであるなら、あなたが女性になっているはずなのだ。ならば原作と異なるものもあるかもしれなかった。
それは今後の原作展開についても同様であったが、あなたは自分にとって都合の悪い考えはいったん思考の奥に追いやった。
頼むからいい感じになってくれ――あなたはそう願っていた。
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