第二章 あなたと男友達

第10話 世の仕組みに怒れる男


 慰労会の翌日。暦上は週末であり、学校は休みである。

 


 あなたは朝八時の冒険者学校の窓口開場と共にダンジョン攻略の申請書を提出した。単身で初級ダンジョン『獣の森』に潜り、一時間ほどあなたは狩場を巡っていた。

 


 あぁあああっ! マジでムカつくぜぇええええっ!!! クソッ、クソッ、クソッ!!



 さらに30分が経過し、あなたはレベルアップの光に包まれる。

 レベルアップの境界値ギリギリのところまで落ちていた経験値を取り返し、あなたはレベル2に戻ってきた。



 あなたはやっと落ち着いた。

 立ち止まってあなたは大きく息を吸う。

 獣たちの返り血に塗れた外套をあなたは翻す。あなたはその場を後にした。

 


⬜︎



 昼前。あなたが寝室のベッドで枕に顔を突っ伏して寝ていると、近くで呼び鈴がなる音をあなたは聞いた。



「モブくん、いる〜? あ、空いてる……。お、お邪魔しまーす」



 どうやら勝手に入ってくるらしい。

 あなたは、体勢を変えずそのまま枕に顔を埋めた。客人があなたの寝室を開ける。

 あなたは振り向きもせず、軽く手をあげるだけで返事を済ませた。



「ど、どうしたの? 具合でも悪い?」



 ミカエラが心配してあなたの側に近寄ってくる。

 あなたは突っ伏したまま答えた。



 ――別に。人生に絶望しただけだよ。



「すっごい大ごと!? だ、大丈夫!?」



 ミカエラがしゃがみこみ、ベッドの縁に両手を置いてあなたを覗きこんだ。

 あなたはミカエラのほうに顔を傾ける。

 顎をシーツに乗っけているミカエラをあなたは眺めた。



 休みにも関わらずミカエラは制服を着用していた。

 澄んだ蒼色の瞳とあなたの瞳が邂逅する。

 あなたは上半身を起こして、ベッドの縁に座り直した。



 ――心配してくれてありがと。やなことがあってね、ちょっとふてくされてたんだ。もう大丈夫。

 


「ほんとに? よかったぁ〜」



 にへらとミカエラが相好を崩す。屈んだままあなたを見上げていた。

 ちょうど届く位置にあったミカエラの頭に、あなたは手を置いた。

 ぽんぽんとミカエラの銀髪をあなたははたいた。



「わっぷ」



 ――すまん、ちょうどいいとこにあった。



「もぉ〜やめてよぉ〜」



 ――ごめんごめん。で、なんか用でもあった?



「えっとね、今日この後暇? その、よかったらさ……。街に一緒にお買い物に行かない?」



⬜︎



 夢精。

 あなたは石作りの街道をミカエラと歩きながら、この男特有の生理現象への対抗策を考えていた。

 


 ゲームでは男性キャラクターが一定の性欲値を超えたまま就寝すると発生する事象である。発生すると経験値がランダム割合分引かれ、それがレベルアップ境界値を下回るとレベルダウンになる。



 このマイナスイベントが常に付き纏うため男性キャラクターは使いづらいというのが、ゲーム内評価であった。

 あなたもその見解に同意している。



 あなたは性欲値には気を配って生活していたが、名声値と周囲の好感度があがった結果、女性陣(主にマリー)のアプローチが激しくなり、性欲値の管理が難しくなってしまっていた。



 また、夢を見た際にエッチな夢だった場合、性欲値は上昇する。

 その上昇値もランダムであり、今回は最大値を引いてしまったらしい。

 あなたはパーティメンバーたちを並べて後ろからあひんあひんさせる至福の夢を見て、結果夢精した。夢の中のあなたは、一人あたり5回は発射していた。



 クソ女神、マジでいい加減にしろよ……。あなたは内心で憤っていた。



 夢精を完全に防ぐ手立てはあるのだろうか?

 その答えが、これから向かう先にあった。

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