第2話 え、俺が主人公の代わりに!?


「なるほど、事情はわかりました……」



 王立冒険者学校の校長のリンダ・リーダと、クラス担任であるメイリーナ・タンニーンと野次馬に囲まれながら、あなたは事情を説明した。



 性別転換したミカエラ当人はぐずっており、あなたが貸した上着を握りしめては、立ち尽くす。



「こちらの部屋は封鎖しましょう。学校の方で調査します。ミカエラ。あなたには辛いでしょうけど、しばらくの間、その姿で過ごしてもらわないといけないわ……。かなり強固な呪いで、私の手でも解けなかった」



「は、はい……」



 校長のリンダは御年六十歳のレベル8の賢者で、世界最高峰の魔法職であることをあなたは知っている。

 この世界のトップ層でレベル8。上限は10。そしてゲームのラスボスを倒すのに推奨されるレベルは10である。

 あなたは内心頭を抱えていた。



「モブと言いましたか。あなたも昨日今日の話で申し訳ありませんが部屋を移ってもらいます。新しい部屋はメイリーナが後ほど案内しましょう。本日の授業も二人は休んでよいです。では頼みましたよ、メイリーナ」



「はっ! お任せください」



 赤毛の隻眼剣士が勇ましく答える。



「はいっ、みなさんも授業があるでしょう。早く部屋に戻りなさい」



 リンダの一声で野次馬は退散する。リンダは転移魔法で移動し、残されたあなたとミカエラは、大人しくメイリーナに着いて行った。



「いつまで泣いてるんだ! 女だろう!」



「僕、おどごでず……」



「今は女だ! とっとと歩け!」



「うゔぅ……」



 性別が転換した途端に態度が豹変するさまにあなたは困惑する。前世では見かけることが少なくなったハラスメントを見て、あなたは思わずミカエラのフォローに回った。



 肩に手を回してあなたはミカエラを抱き寄せる。

 ミカエラは安心したのかあなたの胸に頭を傾けた。



 不意にあなたの視界に、タンクトップからはみ出たミカエラの白まんじゅう2つが映り込む。形を変えては、あなたの体に触れるそれを見て、あなたの愚息ち〇ぽもつい反応する。



 ちくしょう、襲われたいのかこいつ……!? 

 あなたがそう思っていると、前を歩いていたメイリーナが信じられないものを見る目つきで固まっていた。



 大口を広げ、顔を真っ赤にし、メイリーナは手をわなわなと震わせている。



「むむむ胸をおお押しつけぇ……!? うら……なななんて、は、破廉恥な……!」



 どうもメイリーナには、あなたの行為が前世で言うところのおっぱいの押しつけに見えるらしい。

 指摘されたことで気恥ずかしくなったあなたはミカエラから少し距離を空けた。ミカエラに抱いた、よこしまな気持ちもあなたはついでに晴らそうとする。



 ミカエラが少し残念そうに上目遣いしている……気がした。


 

「まったく、軟弱ものめ……!」



 震えるミカエラの肩をぽんぽんと叩きながらあなたは進んだ。



⬜︎



「これからどうしよう……」



 これからどうしよう。あなたもそう思う。

 寮の食堂で、椅子にかけながら落ち込む目の前の元男子をあなたは眺めた。



「もうずうっと、このままなのかな……」



 はい、そのままです。というしかなかった。

 原作では結局解呪されず、モブ・アイカータは女性のままであった。

 そもそも戻る手立てがあるならあなたもここまで苦悩していない。


 

「ずうっと、ずうっと、女の子に負けまいと頑張ってきたのに、女の子になっちゃうなんて……」



 原作でも、主人公のミカエラは伝説的冒険者である母親の背を追いかけんと幼い頃から修練を積んでいた。英雄ランズ、英雄ダークに憧れ、自身もそうあらんと肉体を追い込んでいた。



 その結果、物語開始時点でミカエラのレベルは2。一年生女子の上位層と同一で、一年生男子では抜きん出た実力を有している。

 無論、あなたのレベルは1である。



 ――なあ、ミカエラ。



「うん?」



 ――女の子になったとしてもさ、やることは変わんないんじゃないか?

 


「……え?」



 ミカエラがあなたをまっすぐ見つめる。

 指を組んだあなたは、落ち着き払った声で告げた。



 ――ミカエラは冒険者として、偉業を成し遂げたい。お母さんを超えたい。それは、男でも、女でもできることだろう? 違うかな? くよくよしてる暇なんてないって。



「……」



――英雄になりたいなら、こんなとこで立ち止まっちゃいけない。一緒に頑張って行こうぜ。



「……うん。そうだよ、ね。モブくんの、言うとおりだね」



 ――だろ?



「うん! なんだか、少し元気出たよ。ありがとう、モブくん」



 メンタルケアを完遂してあなたは満足する。

 真正面で揺れる美乳2つを見てあなたは眼福する。



 他愛ない話を交えながら、あなたとミカエラは今後について語り合った。担任のメイリーナが迎えに来るまで、あなたはミカエラと話し続けた。



⬜︎



 原作主人公にあてがわれるはずであった木造の平屋の中。教師寮や守衛の宿直室の近くに建てられた家で、あなたはベットの上で横になり、天井を眺めながら、今後について考えた。



 主人公ミカエラの冒険者学校入学とともに物語は開始。

 春、夏、秋、冬の各シーズンごとに十二回行動可能で、三年間同じようなことを繰り返す。



 メインクエストを進める中で淫魔王復活の兆候を察知し、三年次の冬に、復活した淫魔王を倒すというのが原作ゲーム『腕力逆転世界で成り上がり! 〜実は屈服したい女性たち〜』の大筋であった。



 淫魔王を倒すには、レベル上げに励むしかない。

 レベル10は、メインクエストを進めていく+週末行動でダンジョンアタックしていくらかの超上級ダンジョンを踏破することでようやく到達するレベルである。

 


 しかも、それは主人公たるミカエラであればの話である。



 ミカエラはスキル『女神の祝福』を持っており、男性が生まれながらに持っているスキル『女神の呪い』を無効化することができる。



 『女神の呪い』は、男性が射精行動をする度に経験値を消費するというなんとも悪魔じみたデバフスキルである。

 設定資料集によると、女神と一緒にこの世界を作った男神が下界で女遊びに勤しんだことに女神が憤怒したからとのことである。

 


 結果、男性は性欲自体は旺盛だが、レベル=暴力は女性未満という事態になっており、あなたがかつて過ごした世界と腕力関係はあべこべとなっていた。



 では、女性になったミカエラは淫魔王を倒すことはできるか?

 答えは否である。



 淫魔王は女性特効のスキル『鬼魔羅』を持っており、対峙した女性を数瞬で腰砕け状態にすることができる。長距離攻撃しようにも視界に入れたことでも発動するため、とてもじゃないが淫魔王との戦いに女性は連れて行くことはできない。戦う以前の問題である。

 


 また、女性はレベル8へは到達しやすいものの、レベル9からレベル10までの経験値テーブルが理不尽に高く設定されているため、レベル上げに向いていないという事実もあった。

 これまた設定資料集からの知識となるが、地上の女性に嫉妬した+内心強い男が好きな女神がそうなるように仕向けたためとのことである。



 つまるところ、淫魔王を安定して倒すには男性かつ、レベル10の人材が必要となる。



 あなたは盛大にため息を吐いた。

 


 かつてあなたは元の世界で本ゲームの低レベルクリアにも挑戦したやりこみゲーマーであったが、それもセーブ&ロードを使用したやりこみであり、ノーリセットでの低レベルクリアの挑戦はしたことがない。

 


 あなたにとって今のこの世界は現実なのだ。やり直しはきかない。どうしても慎重になる必要がある。



 ――ははっ。女性のアプローチをかわしつつ、性欲を抑えながら、レベル10まであげる、か……。



 無茶苦茶な難題である。

 この世界は魅力的なエロい女性に溢れており、あなたは毎日朝晩オナ◯ーするような性欲猿である。

 こんなことになるとわかっていたならオナ◯ーを節約してレベル上げに励んだのだが、もう後の祭りである。

 


 あなたはベットの上で丸まって、膝を抱えた。

 あなたは目を瞑る。

 風が荒ぶ音、鳥の声、虫のせせらぎをあなたはじっと聞き入った。

 息を殺し、あなたはひたすらに溶けこもうとする。

 十五分ほどそうした後、あなたは首を横に振った。



 ……あなたは、淫魔王が勝った後の世界を知っている。

 人類は魔物や魔族の苗床や家畜となり、女神の光も消え失せ、魔の時代の到来が描かれていた。



 あなたはゆっくりとベッドから起き上がる。

 部屋を出て、あなたは入り口の扉に手をかけた。

 外に出る。

 冷たい外気を注入するかのように、あなたは頬を開いた手で張る。

 空には青白い真ん丸月が浮かんでいる。



 ――よし。



 あなたは星空に向かって、握った拳を掲げた。






――――――――――――――――――――――


本作品を一読下さりありがとうございます!

☆評価、応援等いただけたら大変励みになります。



今回で『プロローグ』は終わりとなり、次回から『第一章 あなたとチュートリアル』に移ります。



引き続き楽しんでもらえるよう、頑張ります。



毎日 06:11 更新予定となりますので、よかったらまた見に来てください。



つくもいつき



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