腕力逆転世界転生記 ~主人公の代わりに主人公する羽目になったモブの記録~
つくもいつき
プロローグ
第1話 TSしたのはまさかの原作主人公
あなたはこの世界が生前遊び尽くしたゲーム『腕力逆転世界で成り上がり! 〜実は屈服したい女性たち〜』と酷似した世界であることを知っている。
十八禁ゲームであるが、ゲーム内容はターン制戦略RPGとダンジョン探索要素、トレハン要素が組み合わさり、システム部分で高い評価を受け、ついには十八禁要素を取り除いて移植もされた名作ゲームである。
グラフィックやエロ面、シナリオはどうか?
安心してほしい。出てくるキャラクターたちは軒並みエロスの権化であり、自由度の高いシナリオ、豊富なサブクエスト、多彩な敗北CG、三十を超えるエンディング数と、意味のわからないレベルで開発陣の情熱が注ぎ込まれていた。
そんな十八禁ゲームの世界に、あなたはどうやら異世界転生を果たしたらしい。生前やりこんだゲームの世界に転生したことにあなたも最初は喜んだが、自分が転生した人物が誰であるかわかった瞬間、あなたは落ち込んだ。
あなたが転生した人物はモブ・アイカータ。
原作主人公と同じクラスの男であり、恋愛の相談相手。ヒロインたちの好きなものや好感度を教えてくれる友人枠。
そして物語開始直後に淫魔に呪われて、性別転換を果たす人物であった。
⬜︎
十八歳を迎えたあなたは王立冒険者学校の門戸を叩いた。
教室に入り、あなたは自席を探す。
自席の後ろの席にはすでに先客がいた。
「初めまして。――君も男の子?」
――初めまして。うん、俺も男だよ。モブ・アイカータ。この街の商家出身。これからよろしく。
「僕はミカエラ・ヒーロイック。アスモ地方から来たんだ。もしかして寮で同室の子?」
――うん。わけあって、今日引越しだけど。
「よかった! 会えて嬉しいよ。よろしくね。僕だけ教室に先に来て、少し気まずかったんだ。――え? あはは、ほら視線がね……」
そのミカエラの発言を聞いたか否や、教室中の視線が散り散りになる。
腕力逆転世界である
反面男性はとある理由でレベルが上がりにくく、庇護される対象として見られがちだった。
クラスでの男女比率は2対8もあり、教室内はほぼ女性。女性陣がどことなくそわそわしているのがあなたにも伝わった。
今後パーティを組むにあたって彼女らが男性と組みたがってるのは原作でも描かれていた。オタサーの姫ならぬ、パーティの王子。
この世界の男性陣とは違い、性的に見られることに忌避感がないあなたはこの状況を楽しんでいた。
だがそれも今日までの楽しみであることをあなたは知っている。
くそっ! あなたは内心で吠えた。
「モブくん? どうかした?」
――なんでもないさ、なんでも……。
最後の晩餐のようなものである。明日からはあの女性陣に混じって生きていくことにあなたは
ああ、童貞をからかう悪女ムーブをやってみたかった……。
今この瞬間はそれができることに気づき、あなたはおもむろにシャツをまくってお腹をチラ見せした。
顔を真っ赤にする子、鼻血を吹き出す子、目を手で塞ぐも指の間からチラ見する子たちを見て、あなたは少しだけ満足した。
⬜︎
「もー、今日は本当にびっくりしたよ……。都会の子って進んでるんだね」
――すまんて。
入学式が終わり、明日以降の授業説明を受けた後、あなたを含め、生徒たちは各自寮の自室に戻った。
あなたが荷解きするなか、ミカエラがあなたに話しかけてきた。すっとベッドから降り立つと、ミカエラはあなたの隣に立った。頭頂部に手を水平にかざし、ミカエラはあなたと身長を比べ出した。
「こう見ると、モブくん背高いなあ。僕も結構高いけど敵わないや」
ミカエラのすらりと腰まで伸びた銀髪がはためく。蒼色の瞳があなたの目を覗きこんだ。
前世基準で、タンクトップと短パンで部屋をうろつくミカエラはこの世界の女子には劇薬であろう。おまけに美人ときたものだ。
物語が進むにつれてミカエラのそういった無防備な面に惹かれて、ヒロインたちがスケベを働いていくのがこのゲームの根幹であった。
原作主人公と並んだあなたはお世辞をしれと返した。
――ミカエラもスタイルいいね。結構鍛えてる?
「うん。その、男だけど、前衛やりたいからさ。おかしいかな?」
――いいや。なにもおかしくないよ。男でも昔、淫魔王を倒したランズは戦士だったって聞くし、隣の大陸で魔族大戦を終結させた英雄ダークも前衛をこなす魔法戦士だった。
「ら、ランズと、ダークについて詳しいの?」
――もちろん。
「わあ……! 男の子でランズとダークについて詳しい子初めてあったよ! もしかしてランズの冒険譚も見たことあったり……? ……。えー、ほんとに!?」
そこから先は同好の士を見つけたミカエラが水を得た魚のように、二人の英雄について語った。
ゲームの設定資料を見るタイプのオタクであったあなたは英雄ランズと英雄ダークについてもちろん詳しかった。
かの英雄は他の男たちと違って、とある行為をしてもレベルが下がらないスキルを持っていた。
無論、あなたの目の前のミカエラも同様のスキルを持っているのをあなたは知っている。
この世界の男は、射精すると経験値が減る。
それがこの世界のルールであり、前世基準で男女の腕力が逆転している要因であった。
あなたも例外ではない。
いまこの世界で例外となっている男はミカエラただ一人である。
ミカエラの双肩には、世界平和がのしかかっている。当人は知る由もないが、女性ではどうにもならない問題を、ミカエラただ一人が解決できるのだ。
このゲーム、普通に進めると胸糞イベントが多発し、完全無欠のハッピーエンドを迎えるには主人公が効率的に強くなるよう立ち回る必要があった。
ハッピーエンド好きなあなたは、無論、ミカエラに強くなってもらおうとしている。
あなたは目に届く範囲の他人の不幸は放置できない性質である。この世界で出会った人たちにはできるだけ幸福でいてほしいと思ってしまっている。
知識を活用すれば、ひょっとしたらあなたは性別転換せずに済むかもしれない。だがそれをしたことで、原作から物語が大きく変わってしまう可能性がある。
原作どおり、ミカエラにメス堕ちする未来を、あなたは受け入れるつもりであった。
⬜︎
「それじゃ、おやすみモブくん」
――ああ、お休み。今日は楽しかったよ。
「うん、僕も楽しかったよ。えへへ、また明日だね」
くそっ、かわいいなこいつ。内心であなたはごちる。
お風呂の後も晩飯の後もミカエラの英雄話は続いた。嫌な顔ひとつせず、あなたは楽しそうにリアクションし続けた。メンタルケアも友人枠の務め。今後の原作イベントに向けての準備と考えれば安いものである。
あとは目を瞑り、朝を迎えたら、――あなたは女になっている。
この後の寮内でのイベント会話で判明するのだが、この部屋は淫魔の呪いがかかっており、なぜか男二人が一晩過ごすと片方が女に性別転換するという。
これまでは男の二人部屋になったことがなく、たまたま初めての男二人の入居者があなたとミカエラであり、たまたま呪いにかかった第一号があなたであった。
イベント後はこの部屋は封鎖され、主人公は離れの一軒家居住となる。
シナリオライターが変化球を投じて主人公を一人部屋にしようとしたことのシナリオ上の犠牲であると、あなたは推測していた。
ああ、もう少しオナ◯ーしとけばよかった。あなたは悔しみで泣きそうになる。
男としての最後の夜を、あなたは過ごした。
⬜︎
「きゃあああっ!」
黄色い悲鳴であなたは目を覚ました。音源は隣のベッド。あなたは濡れそぼった目尻を手の甲で拭いながら、隣を見やる。
日差しが窓から差し込み、薄明るい陽光のなかでタンクトップ越しに自身の胸をもみしだくミカエラがそこにいた。
まるで異物を目にしたかのように、手にしたかのように、ミカエラは恐る恐る豊満な胸をいじっては見つめている。
ふとミカエラと目が合う。
パンツの中でパワフルに勃起する自身の
「モブ、くん……! ど、どうしよう、僕、僕、女の子に……!」
あなたは混乱した!
――――――――――――――――――――――
本作品を一読下さりありがとうございます!
引き続き楽しんでもらえるよう、頑張ります。
応援、☆評価等いただけたら大変励みになります。
毎日 06:10 更新予定となりますので、よかったらまた見に来てください。
次回予告「え、俺が主人公の代わりに!?」
つくもいつき
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます