2-5
「……」
言葉を探す。なにか適切な言葉はないか、と。見つけられれば良かったんだけど見つからない。見つからないから黙り込む。
「そうですよね。してますよね」
「え、私なんにも言ってないんですけど……」
「黙るってことはなにかしら思い当たる節がある、ということですよね」
図星である。
「してますよ、ループ。しっかりと」
彼女はきっとなにかしら確証があるのだろう。私がここで否定したところでそれを信じてくれるとは思えない。言葉では「そうですか」と引き下がったとしても、内心では「嘘吐き」みたいに思われるのだろう。引き下がったふりして、ずーっと観察されるのかもしれない。なにをしていても見られているというのは気持ちの良いものじゃない。それならさっさと認めてしまった方が良い。だからあっさりと認めた。
「なんでですか?」
「なんでですかね……」
根本的な理由は知らない。聞かれてもわからない。トリガーとなっている部分はわかるが、なぜそれがトリガーになってどういう原理でループしているのかは知らない。神のみぞ知る、ってやつだ。
戸村はじーっと私のことを見つめてくる。嘘を言っていると思っているのだろう。真実を口にするのを待っている、という感じだ。もっとも真実はもう伝えている。だからこれ以上なにか言うということはない。伝えることはない。
「……というか、なんでわかったんですか」
やられたらやり返す。
「私も一緒にループしているからですよ」
「でも私が原因ってわかるものですかね」
そもそも私自身確信があるわけじゃない。私でさえそんな状態なのに、戸村がわかるって……なんでだろうか。おかしい。どう考えてもおかしい。
「わかりますよ」
なにか裏があるんじゃないか。そういう私の疑いをよそに、彼女は肯定した。言い淀まず、真っ直ぐにはっきりと。嘘でも誤魔化しでもないというのが伝わってくる。
「基本的にみんな同じ動きをしているんです。多少言葉の言い回しが違うとか、動き方が変わるとかはあったかもしれませんが。軸としては変わっていませんでした。でもとある人物が関わるとそこだけは歴史が変わるんです」
「私が関わると歴史が変わる……と」
「そうです。なので、このループの原因は岡島さんじゃないかと仮定を立てたという感じです。仮に原因でなかったとしてもなにかしら知っている、ないしは私と同じく記憶を持ってループしている可能性があると考えていました。このSFチックな状況から抜け出すには、間違いなく岡島さんの力が必要だと思ったので、接触した……んです」
なるほどと思うが、私が原因であるという確証はここからじゃ得られていないような気がする。
「なんですかその顔。なにかあるならはっきり言ってください」
「そういうことならば……遠慮なく言わせていただきますが、私の質問に答えてないですよね。絶妙にずらされたなって感想なんですけど」
「そうですね。逸らしたので」
悪びれもなくそう答えた。そこまで堂々とされると責める気にもならない。というか、ふーん、そういうものかぁと勘違いしそうになる。けど流石にそこまでちょろくはない。
「酷いですね……話を逸らそうとするなんて」
およよ、と泣く演技。
「私としては良かったんですよ。別に『原因が岡島さんかもしれないから鎌をかけてみたら引っかかっただけです』って答えても。ただ岡島さん的には気持ちの良いものではないかな、と」
前言撤回。私めちゃくちゃちょろかった。
私はその鎌かけにまんまと引っかかってしまったというわけか。
「すみません。逸らしてくれてありがとうございます」
「いえいえ」
にまにまと笑う。
「このループの原因が岡島さんであるのなら話は早いですね」
「確定ではないですけど……」
「でも思い当たる節はあるんですよね。原因には」
「あるかないかって言われたらあります」
「じゃあ大丈夫です」
ぐっと親指を立てる。はてさてなにが大丈夫なのか。
「一緒にこの苦難から脱しましょう……!」
戸村は隣からすっと手を差し出してくる。白くてスベスベした肌。艶やかな爪。やすりで削っているようで、光がしっかりと反射している。なによりも表面に一切凹凸がない。見惚れてしまう。
「……?」
ぼーっとしていると戸村は不思議そうにしながら、自身の手を見つめる。困惑しているようだった。さすがに手を取らずに見惚れているのはまずかったか。私は慌てて彼女の手を取る。
「はい、頑張りましょう」
強く握った。すると彼女も負けじと強く握り返してくる。
「四月二十八日が訪れないのは結構困りますし……」
「そ、それは……はい。ごめんなさい」
そっか。戸村に私は迷惑をかけていたんだ。知らず知らずのうちに。気付かなかった。
だから真面目に謝罪することしかできない。本当に申し訳ないと思っている。
でも私もわけわかってないから許して欲しい。
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