凌辱
ボクは生まれてから、本当にイジメられてきた。
幼稚園の頃は、女子の集団から金玉を蹴られるという謎の遊びをされてきた。
小学校の頃はズボンを持ち上げて金玉を苦しめるという遊びが始まった。
中学校では、パンツレスリングによるイジメが始まって、ずっとパンツを脱がされ続けた。
そして、高校になった今では、本格的なパンツレスリングで春夏秋冬休みなく脱がされている。
普通なら死にたくなる学校生活。
でも、ボクには人生のヒロインがいる。
「ふふ。サオリ。今日も可愛いよ」
階段の踊り場で、4分の1フィギュアと見つめ合う。
彼女の名前は、サオリ。
マジカル・ジェノサイドという、朝8時30分から放映している女児向けアニメのヒロインだ。
いわゆる変身ヒロイン。
普段は血糊付きのフリフリしたゴスロリ服を着ているが、ボクが持っているフィギュアは制服バージョン。
親のクレジットを黙って使い、人生で初めて親に殴られる苦痛を伴ってまで手に入れた逸品だ。
「……うわ」
サオリの下半身に鼻先を擦り付けていると、ちょうどヒス子が一階から上がってきた。ボクとサオリがイチャついている現場を目の当たりにして、明らかにドン引きしている。
「……気持ち悪……」
ヒス子はフェミ思想が強い。
そのため、同じ女からも超絶嫌われている。
ボクだって嫌いだ。
別に気持ち悪がられても平気だ。
だって、ボクは彼女がいるからね。
サオリはボクを裏切らない。
クソビッチでもなければ、ヒステリックな厄介者でもない。
癒しそのものだ。
青髪ロングで、キラキラした目。
ミニスカート姿で中指を立てるキャピキャピした出で立ちは、見ているだけで心が浄化される。
そのはずなのに――。
「ハァ……。家に帰りたい。また、……あの地獄が始まるのか」
男のイジメでは定番。
強制タイマンだ。
今は3時限目が終わったばかり。
イジメが始まるのは、昼休みか放課後。
度重なるイジメにボクの心はとっくに悲鳴を上げている。
なのに、泣き寝入りするしかないのかと思うと、フィギュアを握る手に力がこもった。
「……でも、……サオリがいるから大丈夫。だって、ボク達は永久に結ばれているんだ。明後日は日曜日。もう少しで夏休み。毎日、サオリと一緒にいれるからね。ふふ」
塗装が取れてきた顔面に熱烈なキスをして、ボクは心を浄化し続ける。
彼女ができると男は変わるっていうけど、本当だ。
大好きな子ができると、それだけで心が毎日浮つく。
辛くて苦しいのに、すぐ癒しがきて、ボクはすぐに元気になった。
だけど――、現実は残酷だった。
*
昼休みになると、予想通り牛島がシャツを脱ぎ出した。
カリアゲをした金髪の頭で、大柄のデブ。
「うぅし。……腹いっぱいになったし。今日もやるかァ?」
「タマオぉ。負けんなよぉ。ははは」
教室の両脇に机が寄せられていく。
リングは周りのやじ馬が整え、ボクは牛島の仲間にシャツを脱がされた。夏特有の蒸れた空気がポッコリ出たお腹の表面を撫でていく。
同時に、ブリーフ一丁になった事で、パンツレスリングの基本は全て揃った。
教室の中央に空いた細長い空間。
これがリングだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「はっ。もう息上がってんのか? まだ始まってねえだろ」
怖い。
恐ろしくて堪らない。
浅黒い肌をした牛島は、見た目からして威圧感がバリバリ。
ニヤニヤとして立つ牛島は、力士のように前傾姿勢になる。
腰を沈めて、床を軽く殴ってきた。
「こいよ。タマオぉ……」
ボクがビビって教室の後ろで震えていると、牛島の仲間が髪の毛を引っ張った。
「ああっ!」
前のめりに倒れ掛かったボクは、何とか転ばないように踏ん張る。
そこへ牛島が正面切って抱き着いてきた。
パァン、と肌をぶつけ合う音が教室に響く。
「ぐああああ!」
牛島はボクのブリーフを掴み、引き千切らんばかりに引っ張ってくる。
おかげで、金玉に布が食い込んで、体が悲鳴を上げていた。
「クソザコが。お前見てるとよぉ。マジでレスリたくなるぜぇ」
「い、痛い! っぐぅ!」
牛島がボクのわき腹に頬をくっ付け、持ち前の腕力で持ち上げようとしてくる。だけど、幸いにしてボクはそれなりに体重がある。
簡単には持ち上げられなかった。
「ま、またやってる! 嘘でしょ! これで何十回目よ!」
「ヒス子マジうぜぇ。死ねよ」
「これは正論だろうがッ!」
ヒス子がマジギレをして叫んでいた。
でも、ボクはそれどころじゃない。
すでに全身から噴き出た汗がオイル代わりになって、床の表面を濡らしている。
「す、滑る!」
つま先が勝手に横へずれて、転びそうになった。
その隙を逃すほど、牛島は甘くない。
「お、ラアアアアア!」
ギチギチと音を立てて、ブリーフが尻の割れ目に食い込んだ。
「キャアアアアアアアッ!」
叫ぶヒス子。
悶えるボク。
開脚姿勢でブリーフを持ち上げるのは、拷問器具の三角木馬に全裸で座っているのと同じだ。
強烈な圧迫感が股間を襲い、すでにボクの足腰はガクガクと震えた。
「っふぅ! んだよぉ。……もう終わりかぁ?」
乱暴に投げ出され、床の上で仰向けになった。
みんなの顔が机や逆光で遮られ、よく見えなかった。
本当は立ちたくないけど、我慢するためには、ある程度踏ん張らないといけない。
ボクは股間を押さえて、震える膝を真っ直ぐにした。
鼻で嗤った牛島が再び姿勢を低くして構えてくる。
「サンドバックはよぉ。――簡単にヘバったらいけねえよなぁ!」
「くっ……」
巨漢による強烈なタックルを食らい、全身に力を入れる。
このまま、じっと耐えれば、いつかは――。
「あれぇ? なんだ、これ」
やけに、その声だけが大きく聞こえた。
取っ組み合い中に振り返ると、牛島の仲間がボクのカバンを持っていた。
「う、うわ!」
よそ見をしていたせいで、派手に尻から転んでしまう。
牛島は追い討ちを掛けようとしたが、仲間の男子が呼び止めた。
「うっしー。これ、ヤバくない?」
「んだよぉ。今、試合中だぞ」
ボクは何とか上体を起こし、机に寄りかかって成り行きを見た。
何が起きているのか分からなかった。
「……おいおい。これ――」
「あ……」
カバンから引きずり出したのは、ボクのフィギュアだった。
ボクのヒロインだった。
気安く胸のあたりを握りしめ、逆さまにして下着を覗き込んだりしている。
「――お前の――女か?」
「物でしょ」
「やめろ……」
「いや、あれ、そんなに大事?」
うるさいヒス子の声を全力で無視し、ボクは膝立になって手を伸ばした。牛島はゴミでも見るかのような目でボクを見下ろしてくる。
「へえ。こいつが、お前の彼女か」
「クスッ。うっしー。こいつ、
ボクの見ている前で、牛島の仲間は最悪の提案をした。
人間として許されざる行為をやろうというのだ。
吐き気を催す邪悪、なんて言葉に表せば軽くて、実際はもっと惨たらしい。恐怖と不安で体が凍り付き、ボクはすぐに奪い返そうと膝に力を入れる。
「お、っとぉ」
他の仲間が、ボクの背中に乗っかってきた。
首の後ろに座られ、起き上がる事ができない。
「なあ、みんな。一人の女がァ、集団の男にヤラれちゃうところぉ。……見たくね?」
「いや、物だって。それ、物。無機物。なんで、みんな邪悪な笑み浮かべてるの? ねえ」
ヒス子は最後まで耳障りな女だった。
「や、やめてくれ! ぐあっ。お、お願いだ! そいつに手を出すな!」
ミニスカの部分を摘まみ、カチカチと音を鳴らしながら、牛島が服を脱がそうとしていた。ボクは必死にもがくけど、押さえつけられているせいで、全然動けない。
「ねえ、やめなよ。可哀そうでしょ」
「あー、フェミとか存在自体がマジでうぜぇ。死ねよ。つか、女の事になると、顔真っ赤って、恥ずかしくねえの? くすっ」
「いや……だから……物だって……」
「お前みたいなクソにも分かるようによぉ。メスってのが、どういう生き物か教えてやるぜぇ」
「やめろおおおおおお!」
ぶちぃ、と音を立てて、ミニスカのパーツが千切られた。
すぐにあられもない姿にされていくサオリを前に、ボクは何もできなかった。
「こんなの! 人間のすることじゃ――」
「うっるせぇんだよ!」
ずりぃ、と下半身に違和感があった。
ボクはパンツを無理やり脱がされたらしい。
見れば、脱がしたブリーフを使い、足首の辺りで蝶々結びにされていた。
「あ……ああ……!」
サオリは、牛島のブリーフの中に突っ込まれていく。
ブリーフ越しに浮き出た形は、サオリの後頭部だった。
「うああああああああああああッッッ‼」
次から次へと、他の男のブリーフの中に突っ込まれていくサオリ。
段々とサオリの塗装が剥がれて、生気を失った人形に変わり果てていく。
ボクは何もできず、拳を強く握る事しかできなかった。
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