scene4 cafeでスイーツ満喫中も、その声ダダモレです(⑅˃◡˂⑅)



――この学校の誰もが憧れる才媛、高嶺の花、可憐な一輪。ツララ姫こと高遠氷麗たかとうつららと日直後の打ち上げをすることになったキミだった。


なんだろう、日直の打ち上げって?

考えたら負けである。


流れるまま、向かった先はおしゃれなカフェ。どう考えてもこれはデート……そう出かかった言葉をなんとか、キミは飲み込んだ。




(ドアがゆっくり開く)

(入店の鈴が鳴る)

(遠くで「いらっしゃいませ」の声)

(おしゃれでジャジーなBGMがずっと流れる)

(かたん。椅子に座る音)





「……どうしたの? 陰気くさい顔がさらに暗くなっているけど?」

『心配しなくても大丈夫だよ。ココ、Cafe Hasegawaはね。店長さんとウチのパパ、お友達なの。オシャレだけど、普通に一般の人も利用するお店だから、心配しないで――って言ってあげたら、優しいんだろうけれど。そういうキミのカオも可愛いって思ちゃうんだよねぇ』


「テーブルマナー? そもそもキミにそんなコト、期待するワケないでしょ?」

『そんなマナーより、ちゃんと私を見てね? それが一番、大事。ここテストに出るからね』


「そういえばテスト勉強、ちゃんとしているの? そう……。キミ、確か前は英語で再テストだったよね? え? 自分で勉強する? そう言う人ほど、何もしないのよ。ヤツヤル詐欺ほど虚しいものもないわ……そうだ、今からキミに問題を出そうか。この意味を答えれたら、信じてあげる。でも難しいようなら、一緒に勉強会ね」


『どうせ勉強会するなら、キミのこと隅から隅までお勉強したいかも……なって、きゃっ。言っちゃった!』


「良い? 一回だけしか言わないからね。There’s only one thing I want to change about you and that’s your last name.この意味は?」


『3,2,1。はいタイムアウト! アウトアウトアウト! 正解はね、〝あなたについて一つだけ変えたいものがあります。あなたの苗字です〟です! ちゃんと言えるようになってよね、ダーリン?』


「あ、来たわね。え? 注文していない? 何言ってるの。予約していたに決まってるでしょ。恋するカフェオレと一途なアップルパイは絶品なんだから」


『なかなか予約が取れないんだよ。ほら、ここのカフェで、この二つを注文すると想いが成就するんだって。クラスの進藤君と神無さんが言っていたでしょ? 良いよね、あの二人。も、もちろん……私たちも、負けてないけどね!』


「ん? あぁ、勘違いしないで。カップル対象メニューって、もちろん私も知っているけどね。単純に美味しいの。ほら、食べてみて」


(すちゃ。フォークで、アップルパイを切り分けて、キミに差し出した)


「美味しいでしょ?」

『じゃぁ、今度はキミからも』


「同じもの? 何を当たり前のこと言っているの。同じ物頼んだんだから、そんなの当たり前じゃない」

『当たり前っ』


「……んっ。美味しい。今回のアップルパイは、アイスものせてあって最高♪」

『愛す?』

「そう愛す」


『愛してる?』

「そう……へぇ、愛すってはっきり言っちゃうんだ。え? だって愛すでしょ? そうね、愛すよ。間違いなく愛すね」

『言った! 言った! キミから言質とった!』


「カフェオレも美味しい? そうね、豆からこだわっているから。でも意外ね……キミ、コーヒーの味、分かるの? へぇ、コーヒー拘っちゃうんだ。家にミルもサイフォンもあるの? 人ってみかけによらないのね」


『コーヒーを口実に家に誘うつもりでしょ! 私、そんなに安い女じゃないんだからね!』


「喜んでお伺いしちゃ……(咳払い)コホン。今日の本題はソコじゃないの。日直という業務パートナーである以上、相手のことを分析アセスメントする必要があると思うの。今日一日キミのことを観察して思ったけれど、その長い髪……やっぱり不衛生だわ」


『その黒髪のカーテンから覗く、その目だよ。本当に優しいよね。そんな風に見るのズルよ。うぅ、本当は私が独占したいけれど。もっともっと、キミとちゃんと目を見て話したいって思うのワガママ? その目で私だけ見て欲しいの。ねぇ、もっとちゃんと、私を見てよ』


「見た目って大事よ? それだけで、人の印象って変わるから」

『見た目でしか判断しない子なんか、放っておけって思うの。でもね、ダイヤの原石が目の前にいて、さ。磨かないって選択肢はないよ。私好みにキミを変えちゃうんだ』


「まぁ、キミ程度、髪を切ったところで誰も見向きしないと思うから、あまり調子に乗らないことね」

『今さらキミの良いところに気付いても、誰にも渡さないけどね』





(チャリン)

(思わず、フォークをキミは落としてしまう)




「(くすりと笑んで)ゆっくり食べてね。お義母様の許可はもう取ってるし……え? いつって、あ――」

『しまった! カフェ予約時に、キミのお義母様とご挨拶済ませていることは内緒――極秘事項だった! 婚姻届、保証人もサインも――』


「サインはもう書いてもらったから、安心し……なんのこと? あぁ、ちが、違う! これはなんでも――」

『落ち着け、私、落ち着くの! 深呼吸、深刻して……』


「ひっひっ、ふー。ひっひっ、ふー」


『ナイスだよ、氷麗。みんな、私のことをツララ姫って言うじゃない。冷静沈着、クールで、淡々と行動ができる、一匹狼。それが私、だから。普段通り、振る舞えば大丈夫』






「そうやって、いつも優しく見守ってくれるよね。私、そういうキミが本当に好きなんだよね」






(カランカラン)

(誰かの来店を告げる鈴の音が鳴り響く)



――来店を告げる鈴の音のおかげで、高遠氷麗が漏らした本心は、有耶無耶になったのだった。









________________


英文は「一億人の英語 English for japan / 英語で異性を口説くときのウケる定番フレーズ35選」から引用しました。

https://english-for-japanese.net/1023/

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