scene2 席替え後も、その声ダダモレです(*・ω・)


(ロングホームルームの最中さなか、歓声の声があがる)

(現在、席替え中)


(「やったね、隣だよ。席替え早々、ついてる!」「これで今年の運は全て使い果たしたな」「離れても忘れないでね!」「同じクラス内じゃん!」「高遠さんの隣が良かったのに!」「わりと近いじゃん」「たっ君、浮気はダメだから!」「さっちゃん以外、見るわけないって」「どうだか」「そんなこと言うイナ君は鉄拳だね」)



「ふふっ」



(そんな喧噪のなか、その声をかき消すくらい、クスリと溢れるような笑み。高遠氷麗たかとうつららが微笑んだ)


――この学校の誰もが憧れる才媛、高嶺の花、可憐な一輪。ただ、誰とも一定の距離を置く。ハッスル言葉は、時に冷淡で。高遠氷麗は、その名を拝し「ツララ姫」と呼ばれていた。そんな彼女とキミは、席替えで、まさか一緒になってしまう。ほんの一瞬、高遠氷麗が嬉しそうに微笑んだかのように見えて……視線を向ければ、すぐにその表情はかき消えてしまった。


「……席が隣になったからといって、勘違いしないでくださいね」


『やったぁっ! 席、隣だよ! どうしよう、ドキドキし過ぎて、心臓の音、聞こえていない? 大丈夫?』


「こっちを見過ぎじゃないですか?」


『そう言ったら、すぐ目をそらして……あ? すぐ胸に目がいっちゃうんだねぇ。キミって、エッチだなぁ。そういう隠せないところも、素直で好きだけどね』


「あからさま過ぎます。死ね、変態。です」


『女の子として意識してくれるってことだもんね。むしろ、もっと私のことを見てくれないとイヤかも。余所見よそみ、して欲しくないしね」


「ふーん。女の子なら誰でも良いって感じですか?  歩く下半身ですか。本当にどうしようもないですね」


『見るなら私だけにしてよ? 他の子をそういう目え見るの、絶対イヤだからね』



(盛り上がる教室のなか)

(教師がパンパンと、手を叩く)

(「それじゃ、次は――」)

(その声を、聞きながら、風が吹き込んで)

(カーテンがはためく)

(パラパラパラパラ、プリントが飛ぶ)

(パシッと紙を掴む音)



 ――飛びそうになった高遠氷麗のプリントを、キミがキャッチした。



「『あ』」


「ありがとう、ございます……」


『ありがとうっ! え、ちょっと? そんな一瞬で、行動できるのすごくない? 普通なら、気付いても反射的に手なんか出ないってば! キミ、格好良すぎだよ!』


「……こ、これで好感度があがる、なんて思わないでくださいね!」

『これで、好感度上がらないとかムリゲーでしょ!』


「え? クラスメートだから当然――?」

『ちょっと、クラスメートと同列で考えていたの? それはちょっと、傷つくんですけど?!』


「そうですよね。ちょっと、意識し過ぎたみたいです。クラスメートですもんね。そうですよね」


『ただのクラスメートのままでいられると思わないで――よ?』

「え? 折角お隣になれたから、これからよろしく? ですか」


『当たり前じゃん! 折角、お隣さんになれたんだもん。この機会を 見逃すほど、私はバカじゃないからね』


「適度に、距離を保ってくれたら私は特に言うことはありませんけど?」

『適度にゼロ距離でよろしくね!』





(さぁぁっ)

(風がまた吹き込んで)

(サラサラ、カーテンが揺れる)




――風が、キミののばし過ぎた前髪を揺らした。


(コクリ)

(高遠氷麗は、小さく唾を飲み込んだ)

(トクントクン)

(心臓の音)





「髪、うっとうしいでしょ? 切ったらどうですか?」

『何回か見たけれど、素顔のキミ、本当に格好良いよ! 絶対、その素顔を他の子に見せたらダメだからね!」


「私がすぱっと切りましょうか?」

『き、キミの髪に私、触れるの? む、む、む、無理かも。そんな、髪って一番デリケートな場所だって思うんだ。そこに私、触れても良いの?』


「むしろお願い……? ふーん……耳まで切ったら、ごめんなさいね」

『浮気したら、耳じゃすまないかも……って、まだ付き合ってないじゃん、私達! 気が早すぎるよ! 私のバカバカバカ!』


「見ているだけで、やっぱりウザいですね。切りましょう。視界に入って、勉強のジャマです」

『他の人が触るくらいなら……キミの初めて、私が良いよ。こ、これでもかなり勇気を出して言っているんだからね? ちゃんと答えて欲しいな』









(トクントクントクン)

(心臓の音。)

(鳴り続ける。風の音と一緒に溶けるように。クラスメートの歓声や雑談も声と入り交じって。それが、心地良いリズムを打ち続けた)






「……な、何か、私の顔にあります? なんでもない? それより……どうしました? 顔、真っ赤ですよ?」

『私も、恥ずかしすぎて頬が熱いよ……』

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