【ASMR】ツララ姫さん、その声ダダモレです(〃'▽'〃)

尾岡れき@猫部

scene1 授業中、その声ダダモレです(〃^∇^)

(授業中、黒板に教師が板書する音が響く)


――(ナレーション)キミが自然と視線を向ける相手。高遠氷麗たかとうつらら。言ってしまえば、高嶺の花か。キミだけじゃない、クラスの……学校中が憧れる、才媛。可憐な一輪。でも、名は体を表すとはこのことか。高遠氷麗は、誰に対しても一定の距離を保っていた。孤高の一輪、たわわな……それが高遠氷麗だった。


――いつからだろう、キミはつい彼女に見惚れていた。女子は向けられた視線に気づきやすいという。


「あの……そうやって、見られるの気持ち良くないんですが……」


――キミはやんわり拒絶された日のことを思い出す。


(先生の声が、まるで遠くから言われたかのようにうっすら響く)

(「高遠さん、教科書112ページから読んでもらって良いかしら?」)


「はい」


(椅子を引く音)

(立ち上がる音)


――高遠氷麗は立ち上がった。


(教科書をパラパラと開く音)


「我が輩は猫である。名前はまだない」

『我が輩はぬこである。名前はまだない』


(SE:「ぶほっ!」 キミが吹き出す音)

(バッググラウンドで夏目漱石:我が輩は猫であるの朗読が続くが、じょじょにフェードアウトして、耳障りじゃない音量をキープ)


『聞こえている?』

『最近、どうして見てくれないんですか?』

『もしかして、私が見ないでって言ったから?』


(すーっと深呼吸をする音が響く)

(衣擦れの音。高遠氷麗が、片手でスカートの裾を掴んだ。悔しそうに)


『どうせ、私の心の声なんて聞こえるワケないけどさ』

『あっかんべー』


――キミは、高嶺の花、高遠氷麗に「あっかんべー」される日がくるとは思わなかっただけに、唖然として……今の高遠氷麗は「我が輩は猫である」の朗読は、淡々と続けていた。クラスメートも真剣に教科書を見る。それじゃぁ聞こえてくる、この声は?


『バカバカ、もっとちゃんと見てくれても良いじゃない』

『キミがちゃんと、話しかけてくれたら、他の男の子が私に話しかけることもないと思うんだ。興味ない男子より、キミに話しかけられたいよ。そう思うのって、ダメなの?』


『決めたっ!』


『……絶対にこのままにさせない。絶対、キミを私が釘付けにするんだ』


(パタン、教科書を閉じる音)

(拍手)

(遠くで国語教師が「良い朗読だった。それじゃ、次は後ろの安藤」と言い、バッググラウンドで、他のクラスメートの朗読、その続きが始まり……少しずつフェードアウトし、そしてキープ)


『嬉しい』


――キミは高遠氷麗と目が合った。


『やっと見てくれた……!』


「そんなに見ないでほしいんですけど」


――幻聴だろうか。声が重なる。

――高遠氷麗の口調は以前同様に冷たかったが、落ち込むより早く、キミの鼓膜に声が響く。













『好きだなぁ。やっぱり、キミのその顔。本当に好きだよ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る