二章第9話 世話焼きな先輩の事情聞いてみようかな?(3)

 メルディはヒックヒックとしゃくりあげている。こう言う時どうすればいいのかよくわからない。

 「賠償金は…やっと払い終わったの…それまで…アタシが新しく仕事できるところなんてなかった…。

 怖かったの。また嫌われるかもって…やな事されるかもって…けどそんなアタシを今のマスターが助けてくれたの」

 「マスターって…うちのマスター」

 「うん。アタシがオーガの血引いてるの知ってんのマスターくらいだもん。他の子達は知らない…。だって嫌われたくないもの…」


 メルディはそう言って静かに涙を流して無理やり笑っている。子供の時のメルディはどれだけ心を傷つけられたのか…。そして今でも彼女は…本当の自分を曝け出すことができずにいる。


 「…何で俺には教えてくれたんですか?」

 「そりゃあ…あんな事に巻き込んでおいてだからね…。それに酷い期待の仕方だけど…ゾンビもオーガと同じで差別されるから…なんだろう…嫌われ者同士みたいな…あは…」

 確かに失礼な考えではある。


 けど何か嫌ではない。

 「そうすっね。先輩が俺を嫌わない限り俺も先輩を嫌いならないと思います。嫌われ者同士?上等ですよ」

 「ふふ…可愛い後輩だな!こいつめ!」

 メルディが途端に吹き出して俺の頭をワシャワシャ撫でまくる。なんか心地いいな…。

 『しかし…オーガが人と交わる?聞いた事ない例だな…』

 「(んな事別にいいよ。今は先輩が笑ってくれるだけで十分)」


 メルディの顔がさっきよりもずっと晴れ晴れとしている。それがなんか嬉しかった。



 ◇



 あれから俺とメルディは話が止まらなくてずっと喋ってた。時間なんか気にせずに、暫くすると走る足音が聞こえた。


 足音の正体が俺たちのいる広場に入ってきた。

 「はぁはぁ…よかったぁ…見つけたぁ…」

 やってきたのはルークである。ルークはハァハァと息を荒げている。


 「あれ?ルーク」

 「あれ?じゃねーよこのバカ!こんな時間までどこほっつき歩いてるんだ!心配したんだぞ!?」

 え?

 「今何時?」

 「深夜0時ですけど?」


 広場の時計を見るとすでに日を跨いでいた。

 「マジかぁ…もうこんな時間かぁ…」

 「うっわぁ話に夢中になりすぎちゃった…」

 メルディと共に時計を見てため息を吐くとルークがニヤニヤしている。

 

 「まさかメルディも一緒とはな?何だもしかしてこの時間まで逢引きでもしてたのか?やるなぁソーマ!」

 「はあ?いや「ち…ちちち違うわよ!べ…別にアタシとソーマはそういう関係じゃないし!あれよ!ほら…アタシは先輩として冒険者のイロハを叩き込んでただけよ!」


 全力否定された…。地味に傷つく。 

 『何を期待しとったんだお主』


 メルディはフーフーと息を荒げているが顔が真っ赤である。…余程嫌なのか?うう…。

 「の割に満更ではない様に見えるけど?」

 「はぁ?目悪いんじゃないの!?眼科行け!」

 ルークは煽る様にニヤニヤとムカつく笑みを浮かべている。


 メルディは一頻りギャーギャーと文句を言い終わると落ち着いた様で…。

 「はぁ…もういいわ。そろそろ帰りましょ?」

 「それもそうですね。先輩送っていきますよ?」

 「いや…アタシは…」

 「女の子一人で夜歩くのあぶねーし…だから一緒に行きますよ」

 「む…う…わかったわよ…」


 メルディは少しは不服そうな声色だが顔は何かにやけている。何かいいことでもあったのかな?

 「お?紳士的じゃねーの。深夜だしお子様二人だと警備隊に目をつけられちまうかもだからな。邪魔かもしんねーが俺もついてくわ」

 「…アンタこそ珍しいじゃん。彼女はいいの?」

 「今日は別に約束もないし…可愛い弟分と妹分の方が大事だし」

 「それ彼女達聞いたら怒るかもだからあんま言わない方がいいわよ?まぁでもあんがと」

 

 ルークは笑いながら俺とメルディの頭をワシャワシャ撫でる。痛い…けど本当面倒見いいなぁ…。でも確かルークの方が弟でジーニアスの方が兄貴なんだっけ?

 ルークが弟側って感じしないんだよなぁ。


 ルークに促されて俺とメルディは帰ることにした。先にメルディを家に連れて行き、その後に俺とルークで帰る。


 暫く歩くと可愛らしい外観のアパートが目に入る。これがメルディの家の様だ。

 「もう大丈夫だよ。ここまでサンキューね」

 「いえ先輩もゆっくり休んで下さい」

 「うん…ソーマ」


 メルディが俺の顔をまっすぐと見つめてくる。

 「今日…話聞いてくれて…私を守ってくれて嬉しかった…。ありがとう」

 そう言ってメルディは頬を桃色に染めてニコッと優しく微笑んでいた。とても可愛らしい笑顔でつい見惚れてしまった。


 しかしすぐにゴホンと咳き込んで先程より真っ赤な顔になると後ろを向いてしまった。しかし耳は真っ赤だ。

 「そ…それだけだから!じゃーねまた明日!」


 メルディは走ってアパートの階段を登っていった。

 「行っちゃった」

 「な。しっかしお前らいい感じじゃね?こりゃあどうなるのか…てっきりリンとかなぁとか思ってたんだけどな」

 「何の話?」

 「んにゃ何でもねーよ。ほれ俺らも帰るぞ」

 「はーい」


 ルークの呟きが気になるが大人しく帰ることにしよう。なんか途中で

 「でもリンにしてもメルディにしても明らかに意識してんだよなぁ…マスターなんかあからさまだし…こりゃあダークホースだな…」

 とかぶつぶつ言っている。誰のこと言ってんだろ。ギルドの女性陣軒並み虜にされてんのか?ジーニアス?って感じでもなさそうだし。


 『お主…いや何でもない』

 スピカも何か言いかけている。なんなんだ。


 何か二人してコソコソと…でも聞いても教えてくれないし…ぐぬぬ…。

 そんな俺の心の不満を他所にいつの間にやらルークの家に到着した。



 ◇

 


 その頃のメルディ(※三人称視点)

 部屋に戻ったメルディの体にドッと疲れが溜まっていた。長い仕事が終わったのもそうだが…何より会いたくない人たちと遭遇してしまったのだから…。

 心はモヤモヤするがメルディは疲れた体を癒すためにお風呂に入ることにした。


 お気に入りの入浴剤を入れたお風呂はいい香りがしてリラックスできる。メルディは早速湯船に浸かりその温かさを享受していた。

 「けど…ふふ…変な後輩ができちゃったなぁ…」

 メルディは初めて会った、ゾンビの少年に思いを馳せていた。


 普通ゾンビを後輩扱いするということはない。ゾンビはあくまで使役される立場にあるからだ。だが少年は普通に喋れてあのマスタークラスの冒険者に勝利する実力者。一人の冒険者としてギルドでも扱っている。


 メルディはそんな少年と過ごしてみてわかった。あのゾンビ少年が世間知らずなのもそうかもしれないが、とても優しくてしっかり者。それでいて肝が据わっている。とても十四歳の少年とは思えない大人びな少年だと。まぁ少し鈍感だが。


 少年はメルディが怪力の持ち主で魔物の血を引いてるにも関わらず普通に接してくれる。自分を素直に先輩と呼んでくれて慕ってくれる。

 それに自分を普通の一人の女の子として扱ってくれる紳士的な所がある。


 「本当…変な奴」

 メルディは少しニヤけながらこれからの少年との交流に胸を高鳴らせていた。

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