二章第10話 生意気少女が豹変したので話を聞いてみる(1)

 ※ソーマ視点

 しかし今日…いや日跨いでるから昨日か…。かなり濃い1日だった…。マスタークラスに勝利して初めていったお店で初めて食べた異世界のカレーライス。そして初めて会った先輩とその先輩の重い過去。


 流石に疲労困憊である。眠りの世界に導かれるのとそう時間が掛からなかった。



 ◇



 「んでやっぱここにくるのね」

 夢の世界に没入したと思ったらやはりというか世界が宇宙に染まっていた。そして当然の如く星空の髪を靡かせた少女が立っていた。


 「おい小僧!早くあのババアに貰った物を寄越すのだ!いて…」

 「コラ!ババアじゃなくてアシュリカさんだろ?口悪いのはいいけどプレゼント貰っておいてその態度は良くないだろ!」

 「むむ…ごめんなしゃいなのじゃ…」

 開口1番失礼なことを言うスピカにお仕置きとしてデコピンすると涙目になった。


 「たくもぉ…どれどれ?お!本当に持って来れた!」

 ポケットに一応入れて置いたけどアシュリカの推測通りプレゼントがちゃんとはいっていた。

 早速それを確認してスピカに手渡すとスピカは目をキラキラさせて一色を眺めている。

 む…悔しいが可愛いな…。


 「待っておれ!今ワシがプリチーに変身してやるのじゃ!」

 「おー…ん?」

 スピカはテンション高くせっせと髪を結おうとしている。取り敢えず適当に返事して周りを見渡すと何やら一際キラキラ光ってる星がある。

 「何だあの光…」


 その光をじっと見つめてると

 「そーまぁ…」

 とスピカの情けない声が聞こえる。そちらに目をやると恐らくツインテにチャレンジしていたのだろう。髪の毛がぐちゃぐちゃになり、結われている部位が左右共に高さがバラバラ。毛量もバラバラな歪な髪型をしているスピカが涙目で見つめてくる。


 「どうしたその髪型」

 「うう…頑張ったのじゃが…上手くいかないのじゃあ…」

 スゲェ涙目だな…。何か可哀想になってくる。まぁこんな空間だから髪を結うことなんてなさそうだもんな。

 

 「たく…こっちこいよ。んでここ座れ」

 「む…変なことするのか?」

 「しねーよばーか」

 俺は取り敢えず座り自分の前の地面を叩く。

 スピカは不安気に見てくるがおずおずと近づきそこに座り込んだ。


 「何をするつもりじゃ?」

 「んー?まあ見てろよ。ちとゴムと櫛貸して?」

 そう言うとスピカが俺に櫛を渡してきた。痛くないように丁寧にスピカのヘアゴムを解く。

 見事にボサボサだ。


 「お前なぁ?櫛できちんととかねぇと髪の毛絡んだりして汚く見えるぞ?」

 「う…五月蝿いのじゃ…。ワシだって櫛でといたのじゃ!」

 「どれぐらい?」

 「5秒くらいかの…」

 み…短かい…。


 ため息を吐き俺は早速スピカの髪の毛に触れる。触るとふわふわしてて気持ちいい。何か不思議な感触だ。

 「む…お主まさかワシの髪を結う気か?」

 「そうだよ。まぁ安心しとけ。これでも親戚の女の子達の髪の毛結ってきたからな」

 「き…貴様まさかロリコン!?」

 「それはないから安心しろ…」


 不名誉な事言われたけど無視だ無視。よーく髪をとかしていく。髪の毛長いから少し苦労するが時間をかけてサラサラヘアに変えた。

 「お…おー…ワシの髪がサラサラしとる」

 それだけでスピカは興奮している。しかし本番はここからだ。

 髪の毛を均等に分けて高さも調整し丁寧に丁寧に髪を括る。


 それを2本分。綺麗なツインテが完成した。

 「ほらできたぞ」

 スピカにコンパクトを渡すと早速鏡で確認している。すると

 「あわわ!か…可愛いのじゃ!ふ…これも素材が良いからじゃな!」

 「はいはいそうですねぇ」


 ナルシスト気味なこいつらしい感想である。だが今度はこちらをクルリと振り向き。

 「ふ…ふん!特別に褒めてやろう!暫くこの髪型で過ごしてやるから感謝するがよい!」

 「へいへい…」

 なんか可愛くて頭を撫でてやると奴はくすぐったそうにクスクス笑っている。こうしてると普通に可愛いんだけどいかんせん生意気なんだよなぁ。

 …妹がいたらこんな感じかな。


 なんか和むこの時間。そんな時にピカッと空間が光り始めた。

 「うわ!な…何だ!?」

 「ひょわ!」

 咄嗟に俺はスピカを抱きしめて守りの体制に入る。


 光が晴れると…何かが出現する訳でもなく…特に何も起こらない。

 「何だったんだ今の光…。ん?スピカ」

 

 先程からスピカが何も言わない。俺はスピカの顔を見ようと肩を掴み離そうとするが…いきなり肩を掴んでた手に痺れと痛みが走った。

 「っつ!」

 衝撃で手を離すがスピカは倒れない。


 寧ろスピカの体に電気が走ってるように青白く光っている。そして本人はその足で立っているのだ。

 「す…スピカ?おい!スピカ!」


 名前を懸命に呼ぶとスピカがゆっくり顔を上げて瞼を開けた。

 これまでのスピカの瞳の色は紫がかった暗い色。しかし今の彼女の瞳は体に纏っている光と同じ青白い色に変わっている。

 その顔つきも今まで普通の生意気な少女の顔ではなく、どこか大人びた…感情を感じられない顔をしている。

 直感的に目の前にいるのはスピカではないと思った。


 「…誰だ…お前は…」

 『…私の名は"レグルス"。魂の終着点の管理人です』

 「レグルス?管理人?」


 声はスピカのものだが…話し方からは感情を感じない。まるで機械から再生されてる様な無機質な感じの声色にゾッとする。

 

 『貴方の名前は存じております。ソーマ様』

 「はぁ?ていうかお前誰だよ!その体は俺の友達の…スピカの体だぞ!レグルスだか管理人だか知らんが今すぐにスピカから出てけ!」


 スピカの見た目をしているのに全く違う人格が入ってるの不気味でならない。しかし俺の訴えにもレグルスは表情を変えない。

 『それはできません。この体はスピカのものでもあり私のものでもありますから』

 「どう言う意味だ…」

 レグルスは淡々と述べていく。


 『貴方がいうスピカの体というのは唯の器に過ぎません。その器にスピカを形作る魂と私…レグルスを形作る魂が入り込んでいるのです。

 本来我々は二人でこの世界を管理する役目を担っているのですが…スピカの方が記憶が曖昧で、我々の使命を忘れている』


 使命?それに器って…

 『我々の使命はこの世界に散らばる魂を管理する事。そう主に仰せつかっているのです』

 「魂を管理?んな事して何かあるのか?それに主って…」

 『魂の管理…いや正しく言えばこの世界に囚われてしまった哀れな魂の記憶を紐解き、この世界を結晶化した物質を扱える者にその記憶を伝授することが我々の最終目標なのです』

 

 やべぇ…何言ってんのかさっぱりわからん。だがレグルスは待ってくれない。

 『ソーマ様にこの力を…』

 「ん?うわ!」

 レグルスの掌にいつの間にか小さな金平糖みたいな形をした石が乗せられていた。

 その見た目はまるで魂喰の奇石に似ている。


 それに目をやるとそこから眩い光が現れ俺の体を包んだ。目が眩むが何かポカポカと暖かくて気持ちいい…。

 「俺に何したんだ」

 『ソーマ様に魂の記憶の一つを伝授しました。これによりソーマ様は"自然治癒"を会得致しました。

 怪我をしても一瞬で修復する事ができます。

 死ぬ事もなく肉体も破壊する事のできない貴方様ならばこの世界の魂を支配する事が可能でしょう』


 レグルスの表情は以前変わらない。しかしこちとら状況も何も理解できてない。説明もなく長々話されても困るというものだ。

 「意味わかんねーよ。魂の記憶?魂を支配?さっきから何一つ状況が分かってないんだよ。

 それにこの世界を結晶化だっけ?仮に俺が夜明を扱えるとしてお前に何のメリットがあるんだよ!」


 イライラが爆発してつい怒鳴ってしまった。

 それにスピカの方が心配である。レグルスは俺に怒鳴られても表情を変えない。ロボットの様だ。


 レグルスは一呼吸おいて…

 『貴方様には…我々二人の魂の解放をお願いしたいのです』

 と…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る