二章第8話 世話焼きな先輩の事情聞いてみようか?(2)

 化け物?只事ではなさそうだ。取り敢えず俺はメルディの前に行き彼女を背中に隠した。

 「おい。アンタらいきなりなんだよ!先輩を化け物呼ばわりとか幾ら何でも失礼だろうが!」

 俺は失礼なこの集団に文句を言うが奴らはクスクス笑うばかり。


 「アンタ何も知らないんだ?その子アタシらと違うの!化け物の血が混ざった汚い女なのよ!」

 集団のうちに居る女がメルディを汚いものを見る目で見てくる。


 「なぁ?コイツあれじゃね?例のグラセルに勝ったっていうゾンビ」

 「うわ本当だ。俺も見に行ったから分かる。ゾンビの癖して話せるとか気持ち悪…。本当はズルでもしたんじゃねーの?」

 今度は俺に対する悪口を言い始めた。


 『むっかー!なんなのじゃこやつらは!ぶん殴ってやりたいのじゃ!』

 これにはスピカもキレている。そりゃあ俺が勝ったのはスピカの協力もあってこそ。俺が侮辱されると言うことはスピカやアシュリカ、リンにマスターもバカにされてると同義だ。


 本当は文句を言ってやりたいが…矛先がメルディから俺に変わったのなら放っておいた方が良さそうだ。どうせ飽きるし悪意をぶつけられるのは慣れている。

 しかしメルディは違ったようだ。

 「あ…謝りなさいよ…」

 「あ?」


 「謝りなさいって言ってんの!アタシの事は何言っても構わないわ!でもアタシの後輩の事まで言わないで!」

 と震えながらも言い返すメルディ。しかし…


 「うわぁ…キレてるぅ。皆!コイツに殴られたら死んじゃうヨォ?やーんこわーい」

 とニヤニヤしながら言うとメルディは我に返り更に顔を青くさせて今度は俺の服を握っている。


 相手の集団の男が今度は下卑た笑みを浮かべて

 「まぁまぁ。所でメルディ?お前今他のギルドにいんだろ?けどさ?お前が良ければ俺らのギルドに戻れるように言っておく事もできるぞ?勿論お前の誠意次第だけど♡」

 そうメルディの肩を掴もうとしている。


 だが…

 俺はその男の腕を掴んだ。

 「あ?何すんだよ離せよ」

 「離す訳ねーだろ。先輩に指一本で触れてみろよ!てめーら全員許さねーかんな!」

 「はぁ?ゾンビのお前が俺らに?何ができんだよ…い…」


 俺は更に奴の腕を力一杯握りしめる。奴の顔は苦痛で歪んでいる。

 「て…テメェ!」

 「どうぞ?攻撃でも好きにすれば?俺もう死んでるから何されても別に関係ないし?

 でもその逆ならどうだ?例えお前らがズルとか言ってもこちとらマスタークラスに勝利してんだよ。

 お前らを殺そうと思えば殺せるけど…どうする?」


 できるだけ真顔で…できるだけ低い声でそう告げると奴は力一杯俺の腕を振り解いた。

 「ち…気持ち悪いんだよ!クソゾンビ!てめーら帰るぞ!」

 集団は急いで逃げていった。呆気ないなぁ…。


 その途端メルディがヘナヘナと腰を抜かして座り込んだ。

 「大丈夫ですか?」

 手を差し伸べるとメルディは無言でコクリとうなづいて俺の手を握った。

 

 「少し休みましょうか…」

 「うん…」

 俺はメルディの手を掴んであてもなく歩き出した。メルディは俯いてるが俺の手をぎゅっと震える手で掴んで離さなかった。



 ◇



 取り敢えず俺とメルディは近くの公園のベンチに座り込んだ。公園と言っても花壇とベンチと噴水と電灯が揃っていて、遊具がある訳ではない。入り口には"メロディア広場"って書いてあった。


 「…ごめん。情けない所見せちゃった…」

 「いやんな事気にしないで下さいよ。落ち着きましたか?」

 「うん。少し…」

 メルディは片手で自分の腕を掴みまだ落ち込んでる様子だ。一体何の因縁があるのだろうか…。

 

 「…アタシね…元々違うギルドにいたの…。"暴君の支配者タイラント・ロード"って言うギルド…」

 メルディは俯いたまま静かに教えてくれた。

 「メルディ先輩はそこから今のギルドに移ったんですね?」

 「うん…あの頃も楽しかったんだ。皆明るくて気のいい連中だった…。けど…」


 言いかけるとメルディは震え…

 「私が…オーガ族の血を引いてるって知った途端…皆私を嫌うようになった…」

 

 オーガ?RPGとかでも偶に聞くけど…

 「あの…オーガって何ですか?」

 純粋な疑問を質問するとメルディは顔を上げてポカーンとしている。

 「そっかぁ…アンタこの世界の事まだよく分からないんだっけね…。うう…何か私恥ずかしくなるじゃん…」

 と頭を押さえている。まぁ本人はとんでもない告白をしてるのに相手がそれを全く知らない上に間の抜けた疑問を言ってきたらそりゃあそうなるか。何か悪い事した気分。


 「オーガっていうのは人間と似た形の魔物よ。性格は基本臆病だけど…本性は残虐で冷酷。怪力を有していて人間を襲う事も戸惑わない。

 そのせいか人々から恐れられてるし指定危険モンスターとして指定されてるの」

 「へえ」

 「…何か反応薄くない?」

 メルディがジロリと見てくる。けど


 「いや?でもだからと言ってみんながみんなそう言う訳ではないでしょ?先輩からはそんな残虐って感じも冷酷って感じもしないし…。寧ろ俺とか仲間の為に怒れる優しい…どこにでもいる女の子って感じ…ってどうしましたか?」

 今度は顔を真っ赤にさせて目が泳ぎ始めた。

 表情豊かだなぁ。まぁ泣き顔よりいいけど。


 「んな…な…あ…アンタ変な事言わないでよ!落ち込んでたアタシがバカみたいじゃん!」

 「?落ち込んでる顔にずっとなって欲しくないから俺からするとありがたいですよ?」

 「そう言うとこ!アンタ絶対ルークのこと文句言えないわよ!この天然!」

 『それはワシも同意じゃな…小僧少し自重しろ』


 なんで俺女の子二人に攻められてるの?

 「ま…まぁいいわ。あんがと…」

 「?いえ。それでそれの何が問題なんすか?」

 メルディが目を逸らしてサイドテイルを指で遊ばせている。


 「いや考えてもみてよ。魔物よ?しかも皆んなの嫌われ者の。そんなのの子供が何もされないと思う?」

 「いや…」

 「…アタシさ…自分の親のこと全然知らないの。物心つく前からアタシは奴隷商に売られていたから」

 奴隷商…そんなのがあんのかよ…胸糞悪い。


 「その時もよくこの化け物が!って毎日殴られてたわ…。多分この怪力ですぐに牢なんか破れたかもしれない。けど恐怖で何もできなかった。

 けどそんなアタシを…前のギルドのマスターが助けてくれたの」

 ここまでは普通にいい話っぽいけど…。


 「そのマスターはアタシを可愛がってくれた。本当の娘みたいに…。でもあの人結構お爺ちゃんだったからかな?病気で死んじゃった」

 メルディは寂しそうな笑みを浮かべている。

 本当にその人の事を慕っていたんだな。


 「けど…マスターが代替わりした途端に全てが変わったの…。

 マスターの息子である"ギル"っていう男。アイツがマスターになってからアタシの地獄が始まった…。

 というのもね?ギルドの規定で血液検査とかされるんだけど…それでアタシの中にオーガの血が流れてる事を知ったの。

 調べた医者にマスターが沢山お金を渡して口止めしてくれてた。

 けどギルは…」


 『お前…オーガの血が流れてんだってな!おいお前らみろよ!コイツ化け物の血が流れてんだぜ!』

 

 ギルはその秘密を平気で口外したのか…。マスターがメルディを守る為にずっと隠し続けていたことを…。


 「元々ギルがアタシを嫌ってるのは知ってたわ。多分奴隷上がりだからとかオーガの血を引いてるからだと思う。最初はみんなも信じてなかった…。

 けどギルが診断書を態々見せてきたせいで…皆んな…」

 「…マスターが医者に金を渡してたのも…ギルに教え込まれたのか?」

 メルディは泣きそうな顔でコクリとうなづいた。


 「あんなに優しかったみんながアタシを化け物を見る目で見てくるようになった…。それからアタシのものが壊されたり暴言を言われたり突き飛ばされたり…。

 けどやめた決定的な出来事がね。その日ギルドの物が破壊されていたの。犯人はアタシじゃないわ。けどみんなアタシが自分の怪力で暴れたんだって信じて疑わなくて…それを理由に辞めさせられて…賠償金を請求されて…」


 メルディは思い出して泣き出してしまった。俺は彼女の背中をさするのが精一杯だった。

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