二章第3話 隠れ屋レストランの話聞く?
暫く歩くと狭い路地裏の様な場所に出た。
俺はそもそもこの町の地理がまだ把握できてないので他の三人に前を歩いてもらってる。
しかしこんなところに店なんてあるのか?
「あのマスター?本当にここに店あるんですか?何か周り静かですけど」
「大丈夫。ちょっと隠れ家みたいな場所だから皆んな見つけられないだけだから」
そう言って尚も歩くマスター。心の中でスピカも本当にあるのか?と疑問を呈していた。
しかし三人はある建物の前で止まった。
「此処だな。此処が雨暮らしだ」
「え?」
アシュリカの言葉に目の前の建物を見る。だが見たところどう見ても普通の民家というか…ボロ屋に見える。
看板らしき物はなく、軒先にはドクハキガエルを模したファンシーなてるてる坊主がぶら下がっている。
見た目は食べ物屋に見えない。しかし
「何かめっちゃいい匂いする…」
『これは…カレーの匂いか!?美味そうな匂いじゃのぉ…』
鼻腔をくすぐる美味しそうな香りがする。俺と感覚リンクしてるスピカも涎を垂らしてふにゃあと顔を緩めている。
てか…ゾンビでも匂い分かるのね。
「確かに見た目はあれだがな。味は保証するぞ」
「むふふ…此処の店主さんはドクハキガエルの大ファン…。中は天国…」
リンの言葉は兎も角アシュリカの言葉を信用した方が良さそうだ。
マスターが先頭に立って早速店のドアを開けると錆びついたギーっという音が響く。
◇
中に入るとそこはまるで…ごめん何で形容すりゃいいんだろ…。
「らっしゃーせ!ようこそ雨暮らしへ!美味しいご飯を食べてみてケロリン♡」
と恐らく出てきたのは店主だろう。
その見た目のパンチがやばい。どう見ても中年の強面親父だ。しかも大柄で浅黒く男性フェロモンマシマシ。しかも恐ろしいことにその親父はドクハキガエルのピチピチスーツを着ている。
着ぐるみではなくぴちぴちスーツ。いやこれもう…
「へ…変態だ…いて!」
つい本音が漏れてしまった。だがアシュリカに思いっきり拳骨された。
「コラ!あの方はこの飯屋の店主殿だ!確かに見た目は変態で頭がおかしいやつに見えるし通報待ったなしだが初めて会った人に失礼な事を言うな!」
「…アシュリカの方が酷いこと言ってる」
やだよぉめっちゃいてーよ…。俺ゾンビでなかったら死んでるよぉ…スピカも痛がってたんこぶできてるよぉ。
あとリンのツッコミは最もだよ。店主隅っこで座り込んで落ち込んでるもん!…いやてかリンさんさっきは俺に酷いことした奴許さんみたいな事いってたじゃん!アシュリカには何もしねーの何でなの!?
「うう…僕は好きでこの格好してるのに…」
「店主さん大丈夫よ。とてもチャーミングだから。元気出して?あ!それとさっき失礼な事言っちゃった男の子はソーマきゅんって言ってうちの新人なの」
マスターが店主を慰めに行くけど慰めより俺の紹介優先させたよ。だれかぁ!心の処方箋を!カウンセラーを!
店主はゆらりと立ち上がり俺の前にやってきた。いや怖いって…下手なホラーより怖いから!自分より背の高い厳ついあんちゃんがカエルのピッチピチの着ぐるみみたいな全身タイツ着てたら怖いって…
店主は今にも死にそうな顔で
「…初めまして…店主の"レイン・フロッグ"です…。この格好は俺のこだわりで…変態ではありませんので悪しからず…」
「あ…えとソーマ・シラヌイです。すみませんでした。初対面なのに酷いこと言ってしまって…」
「いえいえ最初に来たお客様はみんなそんな反応ですから。そちらのアシュリカさんも最初会った時に私にバックドロップ仕掛けてましたし…」
え?
ついアシュリカの方を見るとアシュリカは横を向いてしまった。冷や汗をダラダラ流して。
何だこの気まずい空気。しかし突如地鳴りの様なでかい音がその空気を引き裂いた。
「お腹すいた。大将"ドクハキカレー"一丁」
マイペースなリンがいつの間にやら店のテーブルに座って注文していた。
今ばかりはリンの腹から鳴り響く地鳴り音やマイペースさに感謝である。
◇
リンに倣い俺たちもテーブルに座り注文した。俺は文字読めないし少し興味あったからリンと同じの注文した。
ちなみにマスターが"ボアステーキ マンドラゴラソース添え"。アシュリカが"ドラゴンの卵オムライス"の特盛を注文していた。
しかし先程は店主の姿に絶句したけど内装もすごい。
壁紙や床がポップな黄色である。そして壁にドクハキガエルの写真や絵が額縁で飾られている。それにプラス置いてある棚とかにもドクハキガエルの像やぬいぐるみ等のグッズが置いてある。店主のドクハキガエル愛が分かる店だ。
何なら店のBGMはドクヌマの森で聞いたドクハキガエルの合唱である。この世界はレコードが主流の様だ。
「へぇ…マジで此処の店主さん。ドクハキガエル好きなんだな…」
「うん。ドクハキガエル愛好会の会長でもある。私も会員」
リンはムフムフと独特な笑みを浮かべて周りを見渡した。
しかし途中でピクリと揺れた。
「どうした?」
気になって聞くとリンは真剣な顔になり出した。何かあったのかと固唾を飲んで見守る。
「…トイレ行ってくる。ご飯が来る前に行かないと…中断はもっての外」
「…」
マイペースすぎない?リンはそのまま席を立って急いでトイレに向かった。
そうだ。聞くなら今じゃないのか?
「あのマスター。アシュリカさん。俺ずっと気になってる事があるんです」
「あらなーに?因みに私のタイプはソーマきゅんっていう永遠の十四歳が約束された永遠のショタ♡彼氏はいませんがソーマきゅんっていう永遠のショタきゅんが好きなのでソーマきゅん限定で募集してるわ…いた!」
「マスター?ソーマは真剣に話そうとしているのですよ?ふざけないで下さい」
「ふざけてないもん!んもぉ…私マスターなのになぁ…」
アシュリカに拳骨を喰らわされたマスターは頭にたんこぶをこさえて頬を膨らましているが、すぐにゴホンと咳払いして調子を戻した。
「ごめんねソーマきゅん。それで何が聞きたいの?」
俺は意を決して二人に聞いてみることにした。
「何でリンは付き合いの短い俺に異常なまでに執着するのでしょうか…」
と。
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