二章第2話 報酬何貰ったか聞く?(2)

 「えとすみませんでした。それで他の報酬って何ですか?」

 「はい…こちらになります」

 受付嬢に謝罪すると彼方も苦笑いしてる。何か小声で…このゾンビしっかりしてんなぁ…と感心してるみたいな声が聞こえた。

 そりゃあ親戚中タライ回しで培われた社交性と気遣いを舐めないでほしい。


 受付嬢が渡してきたのは何やら小さい紙。そこにはアルファベットの"G"に似た文字を先頭に数字の羅列。"500000"と書かれている。

 「五十万Gの小切手です」

 「ご…五十万!?」

 

 五十万G…此処での1Gが日本円に換算するとどれぐらいなのかは分からないが、もし円換算して1円と同列又は1円より価値のあるお金ならかなり高額。

 少なくとも中学生の俺にとっては絶対手にはできない金額だ。


 「こ…こんなに貰っていいんですか?」

 「はい。報酬ですので」

 一応確認するがやはりこれが報酬で間違いなさそうである。

 『おい小僧!その金でワシに何か献上しろ!』

 「(いや献上つってもどうやって物持ってけばいいんだよ…)」


 「それとコチラもどうぞ」

 受付嬢はさらに大きな袋を取り出してきた。

 その中には…

 「何じゃいこれ…」


 その中には何やらメイド服やらゴスロリワンピやロリータワンピ。猫耳フード付きコート(今着てる奴に猫耳生えてる奴)etc…

 何かやべぇもんが入ってた。いやいや待てよ?何も俺のだと決まってない!もしかしたら女性陣へのプレゼントかもしれない!うんうんきっとそうだ!


 「あ!それ私がリクエストしたソーマきゅんのコスプレ衣装よ♡」

 「いやぁぁぁぁ!」

 「唯これ元々変態がソーマきゅんをゲットしたら着せたいって買ってたやつなのよねー。

 いやね?偶々私もソーマきゅんに着て欲しい衣装探ししたらアイツいたんだもん。本当ゴキブリ並みに神出鬼没なんだから…きもいわぁ…」


 マスターはハァとため息を吐くがため息吐きたいのはこっちだよ!何処の世界に14歳の平凡な男にコスプレ…しかも殆ど女装をさせたい奴がいんだよ!

 そんな変態は一人で充分だわ!


 「私はソーマにはゴスロリが似合うと思う…」

 「私はソーマにはこのウェディングドレスが似合うと思うぞ」

 「そこ!平凡な男に着せる女装を談義しない!」


 そんな会話をしていると受付嬢はまたも置き去りになりシュンと落ち込んでいた。

 「は!す…すみません!それで報酬って他にもあるんですか?」

 「はい…此方で最後です」

 受付嬢は少し不貞腐れた様子だ。ごめんね。


 渡されたのは一枚の封筒。それを開けると中には何か文字が書かれている書状の様なものが入っている。

 特例冒険者の認定書とは違う文字である。するとリンがバタバタと駆け寄ってきた。


 「読んであげる…"誓約書 私グラセル・ファントムは今後リン・フェルナンド及びソーマ・シラヌイに過度な接触を行わない事を約束する"だって」

 なんかストーカー規制法の接触禁止命令みたいだな…いやあっちの方が多分滅茶苦茶むずい手続きしてそうだけども。


 「これは助かる。ある意味一番の報酬」

 「視界にゴキブリが入らないなんて最高だわね♡」

 ウフフと怖い笑みを浮かべるマスターとリン。余程グラセルが嫌だった様だ。マスターなんてもはやゴキブリって呼んでるし…。


 「報酬は以上になります。本日はお疲れ様でした。ソーマさんの冒険者手続きは処理が終了致しましたので明日から特例冒険者として活動することが可能です」

 受付嬢はやっと終わりホッとしている。俺もホッとしている。


 「さてと…それじゃあ帰りましょうか。リンもお腹空いてるみたいだもの」

 グゴゴゴゴゴ!


 何だ今のブルドーザーみたいな音。

 「おいリン。腹減ってるのは分かるが少し抑えられないのか?」

 「お腹の虫が勝手に鳴いてるから無理」

 あ…リンの腹の音か。敵襲かと思った。

 『あの小娘…腹の中にモンスターでも飼ってるのか?』

 「(…どうだろう…)」


 初めてスピカの疑問に肯定しそうになった…。けど相手は女子だもんなぁ…言わん方がいいよなぁ…。

 「マスター。私帰りに"雨暮らし"でご飯食べたい。ドクハキガエルを模したカレーが期間限定…」

 「あらそうなの?けどソーマきゅんはいいの?」

 「俺は大丈夫っすよ。この世界の飯屋まだわかんないし。それにリンがドクハキガエルめっちゃ好きなの知ってるし」

 「流石はソーマ。むふふ…」


 リンはムフフと微笑んでいる。マスターもうーんと悩み、

 「ソーマきゅんがいいならOKよ。アシュリカもいい?」

 「はい。私も別に何処でも」

 「よーしじゃあいきましょうか!レッツゴーよ!」


 俺達はマスターの掛け声を合図に雨暮らしとかいう店に向かうことにした。



 ◇



 ただそんなスムーズに行けるわけではなかった。それは

 「おい!そこのゾンビのガキンチョ!テメェ前はよくもやってくれたな!グラセルはやられたみてぇだが俺はそうはいかないぜ!」

 と因縁をつけてこられた。


 つけてきたのは前にココアに絡んでいた男。

 今回のバトルでも野次馬に乗じて俺に対して非難を浴びせてきたおっさんだ。後ろには取り巻きだろうか…。男どもが数人立っていた。

 「おい。貴様…うちのソーマに文句でもあるのか?」

 アシュリカが俺らの前に立ち守る様な姿勢をとる。


 「文句なんかあるに決まってんだろ!そこのガキンチョ…ゾンビの癖して喋るは命令なしで動くは気持ち悪いんだよ!しかも今回のバトルではマスタークラスに勝利だぁ?

 どうせズルでもしたんだろ?死体なら死体らしく大人し…ごぴゃ!」


 おっさんは俺に暴言を浴びせるがおっさんの足元の地面が盛り上がりおっさんの顎にクリーンヒットして吹っ飛んでいった。

 その技に見覚えがありすぎる俺は後ろを振り返ってしまった。

 そこには確かに魔王のオーラを放つ一人の少女が立っていた。


 「ソーマに…酷いこと言わないで…殺すよ?」

 …こわ!?受付嬢に対してもそうだけどやっぱり最近のリンおかしいって!おっさん達怯えてるし…。

 

 おっさん達はリンの様子に驚いて逃げてしまった。

 「待って…まだ話は」

 「リーン?少し落ち着いて?確かに私もソーマきゅんの事言われてアイツらの[自主規制]を握り潰して海に放り込見たいけど…やりすぎは良くないわよ?こっちが悪くなっちゃう」


 俺は股間がヒュンとした。マスター…えげつないって…。

 『おう…な…何じゃこの感覚…寒気が止まらんぞ…』

 え?スピカもなるの?女の子なのに?ついてるの?

 『ついとらん!セクハラするでないわ!気色悪い!』


 「そんな…マスターは我慢できるの?ソーマがあんな事言われて…」

 「我慢が解かれる前にリンが動いちゃったから冷静になれたわ。もしリンが動いてなかったら[自主規制]をぶった斬ってミキサーにかけて生ゴミに放り込んでたわ」

 「そんな…」

 「お願いですから外で下品なことを連呼しないでくれますか?」


 よく言ったアシュリカ姐さん!

 「…マスターやアシュリカが言うなら…でも私はソーマが悪く言われたその相手を何するかわからない」

 「うむ。だがリンがそんな事すれば警備兵に捕まり2度とソーマにも私やマスター、そして皆んなにも会えなくなるぞ?それでもいいのか」

 「…よくない…」

 「そうだな。取り敢えず飯でも食べて落ち着け。ソーマ、マスター。いきましょうか」

 

 流石はアシュリカ姐さんだ…。暴走するリンやマスターを抑えてしまった。しかし

 「(何でここまで俺に執着してるんだ?最初の頃は俺と接触するの抵抗…というか何か照れてたのに…いつの間にか平気で手を繋いできたりするし…)」


 一貫性が無さすぎる…。けどこの問題を本人に聞くのも忍びないし…マスターやアシュリカは知ってるだろうか?

 「(は!やっぱり俺の事が好きとか?)」

 『それはない』

 「(夢を見させろよ!ちくしょう!)」


 俺は心の中でスピカと口論しながらも雨暮らしへと向かった。

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