二章第4話 マジで美味いから聞いて!

 俺の質問に二人はキョトンとして顔を見合わせた。

 「あの…俺とリンが会ってからあんまり時間経ってないし、それなのにリン。最近俺に対しての独占欲が強く感じて…。

 最初会った時接触も照れたり怖がったりしてたんです。けど二人で一度ドクヌマの森に行った時…。

 探索を終えて帰る時急に手を繋ごうって言ってきたり…。急に距離を縮めてきてて…」


 だっておかしくないか?ドクヌマの森で俺がリンをおぶった時は明らかに照れていた。なのに急に顔色変えないで俺に手を繋ごう?いや絶対おかしいし一貫性がない。


 するとマスターが

 「そうねぇ。でも魔物使いや死霊使いが自分の使役してる魔物やゾンビに執着するのはよく見るわよ。まぁリンは元々執着心が強い子だからね。ギルドの皆んなにも独占欲凄いし…。まあでも実際あの変態もそれがきっかけでネクロフィリアになったみたいだし…」

 聞き慣れない単語だ。何だ?ネクロフィリアって…。

 『死体性愛者だ。ショタコンのショタの部分が死体になったって考えろ』

 「(何でお前が知ってんの?)」

 『わしは見た目はプリチーでブラボーな美少女じゃがお主の何倍も生きてるのでな。それぐらい知っとる』

 「(何でそんな知識蓄えてんのに自分のこと分かんねーんだよ)」


 しかしグラセルか…確かにあの人の趣味はショタコンより変わってる気がする。

 「つまりだ。リンが使役ゾンビのソーマに執着するのもあり得るという話だ。急に変わったというが…それまでの過程でリンと何かあったのか?

 例えばキスしたりセクハラしたり」

 アシュリカがとんでもない事を言い出した。


 「してませんよんな事!確かに足を怪我したリンをおぶったりしたし!その時リンがこのままこの時間が続けばいい…とか…。あれ…」

 いやまさか…


 「…原因もしかしてだが…そのおぶった際にリンが少なからずソーマにときめいてしまった。

 そしてそれをきっかけにして独占欲が急成長を…」

 「へ?」

 「んもぉ!ソーマきゅんったら私だけでなく他の子までたらし込むなんて!浮気者!でもそんなソーマきゅんに遊ばれるのもハァハァ♡」


 『…あーあ…まさかあの茶番があの小娘をあんなふうに変えるとはな』

 …ちょっと待って


 「俺のせい?」

 何となく確認のために自分を指差して聞くと目の前の二人がうなづいた。ついでにスピカも頷き店主の親父も頷く。

 いや最後のやつは会話入ってくんなや。関係ねーだろがい。


 いやでも

 「そういえば…グラセルは沢山ゾンビ引き連れてましたよね?でもリンは俺しか使役してない様に見受けられるのですが」

 リンがゾンビを引き連れてるのを見た事がない。いたら紹介してくれそうなものだし、グラセルがあんなにリンを欲していたのだ。過去にゾンビを使役した事がある筈なのだ。


 するとマスターとアシュリカは気まずそうな顔をして言いにくそうである。すると

 「ふー…スッキリ。これで心置きなくカレーを食べれる!」


 ムフフとウキウキした足取りでやってきたリンの登場に俺は口を閉ざした。もしかしたらデリケートな問題なのかもしれないし、何より目の前の二人が口を噤んでいる。

 今は聞かない方が良さそうだ。



 ◇



 リンが戻ってきた後、俺たち四人が世間話をしていると店主がお盆を持ってきた。

 「はいお待ちどう様ケロ♡美味しい美味しい"ドクハキカレー"二つと"ボアステーキ マンドラゴラソース添え"。"ドラゴンの卵オムライス"の特盛ケロ♡美味しく食べてケロ♡」


 …俺は何も突っ込まない。

 『何でこの親父は語尾にケロ♡を付けてるのだ。人生に疲れたのか?』

 「(言ってやるなよ…。俺も言いたいけど我慢してんだよ…)」


 店主はそんなスピカの失礼なセリフなど知らずに俺たちの前に料理を置いてくれた。しかし落ち込んでたが良かった。元気になって…。

 

 まずマスターの料理。分厚いステーキにブロッコリーや人参、ポテトなどの付け合わせが添えられていて、脇に金色に輝くソースがある。

 これがマンドラゴラソースか…。後で聞いたらボアっていうのは豚みたいな魔物なんだけど味が絶品なんだって。今度食べてみたい。


 次にアシュリカの料理。…簡単に言うとクソデカオムライスだ。こんな卵値上がりの世の中に喧嘩を売ってる様なの見た事ない。

 何でもドラゴンの卵って鳥の卵の何倍もデカくて希少らしい。その卵を二個ぐらい使ってこのサイズ。

 人一人座れるクッションぐらいある。こんなの食い切れんのか?


 そして俺とリンの前にあるのは…

 「す…凄い色…」

 見た目は確かにカレーだ。だがルーの色がお馴染みの茶色ではなく紫だ。食べたら死ぬ色してる。ただでさえ元の世界と同じみたいな料理出てきてビビってんのにこれは卑怯である。


 紫のルーの上にはファンシーなカエルの顔の形に整えられた白飯がドンと乗っている。可愛いよ?可愛いけどさ…。いい匂いするけどさ…。

 だがリンはそんなやばい色のカレーを見て目を輝かせて


 「いただきます」

 と言い躊躇なく口に運んだ。その瞬間リンは目をキラキラ輝かせて喜んだ。

 「おいひぃ♡」


 とても幸せそうである。もしかして意外と美味いのか?まぁ食っても俺死ぬ事ないしいっか。

 『良くない!ワシとリンクしてるの忘れたのか!?』

 だが人に出してもらったの残すのはいくない。決してスピカの焦る様子が面白い訳ではない。

 『おい!辞めんかコラ!死ぬぞ?死んじゃうぞ!』


 スピカの声を無視して俺はカレーを口にした。するとその瞬間。俺の口の中に楽園が広がった。

 ご飯の炊き具合はふっくらとそして噛めば噛むほど広がる仄かな甘みが素晴らしい。そしてルー。ルーはその色に反して滑らかな口当たりが舌を優しく包み込む。そしてその味はスパイシーだがその塩梅が食欲を唆る。そしてその奥には煮込んだ野菜と肉の旨みが溶け出して…。

 米と相まって味のハーモニーがすんばらしい。


 「大将!めっちゃ美味いっす!こんな美味いカレー食べた事ねーっす!」

 思わず大将にお礼を言いに行ってガシリとその手を掴んだ。やばい感動で涙が出てきた。兎も角アンタは凄いよ。天才だよ!

 「え…あ…ありがとう。そう言って貰えると嬉しい…じゃなくて嬉しいケロ!後僕は大将じゃなくて店主若しくはシェフって呼んでケロ」

 「大将!また来ますから!」

 「…話聞いてケロぉ…」


 く…世の中にこんなすんばらしい料理人がいたなんて…。ん?なんか皆んなポカーンとしているな。

 『テンションやば…こわ…』

 いやいやあのカレー食ってそのクールな感じは何なんだよ。俺がおかしいやつみたいじゃん。

 『十分頭おかしいじゃろて…』


 く…皆おかしいよ!こんなに美味しいのに!

 すると大将が苦笑いしてどこかへ行ってしまった。店主さんが大将呼びに変わったって?

 知らんわんなこと!


 少しすると大将が戻ってきた。その手には…

 「あ♡ドクハキガエルだ!」

 大将の手にはゲコゲコと泣くドクハキガエル。リンは大興奮だ。アシュリカとマスターはギョッとしている。


 「待て!おい店主殿。ドクハキガエルの毒は強力なんだぞ!?早く離せ!」

 アシュリカが焦った様子で大将に注意するが大将はニコリと笑い。


 「大丈夫だケロ。この子は僕が一から育てたドクハキガエルの"ケビン"だケロ。

 野生と違って毒を体内に入れてないから毒はないケロ」

 大将はそう言ってケビンをなでなでしている。


 「確かにドクハキガエルってドクヌマの森とかの毒を飲んで自分の体内で練り込んで致死性の毒を作るっていう習性はあるけど…裏を返せば素になる毒がなければ関係ないのよね?カエル自体に毒がある訳ではないし…」

 「もし飼ってるのなら外敵から守られるから毒を練る必要がない」


 マスターとリンは何やら納得した様子だ。しかし何故そんなケビンを今連れてきたのだろうか?

 「あのぉ?何故その子を此処に連れてきたのですか?」

 「それは今回のカレーを作ることができたのはこの子のおかげでケロ」

 「え?」

 『…な…なんか物凄く嫌な予感がするぞ…』

 スピカの怯える様な声が聞こえるがそんな声をよそにケビンはケロリンと笑顔である。うん可愛い。


 「実は今回使ったスパイスはケビンが毒袋の中で練りまくった特製スパイスケロ♡これによりスパイスの香りも引き立ちより旨みが増すんだケロ」

 ほおほお…世の中には変わった調理法があるんだな…。


 『感心しとる場合か!き…貴様あのカエルの口から出たもん食ったのだぞ!つまりワシが食したのと同様なのだぞ!?』

 「(ん?いや俺は別に気にしないぞ?卵だって鳥の体ん中から出てくるし、つーか直接食ったのは俺だからよくね?)」

 『良くないわ!』


 何がそんなに嫌なのだろうか?確かに昔から俺はイナゴやハチノコとかの虫も普通に食えるしレバーや白子といった一風子供があまり好まない食物も好んで食べる。マグロの目玉は生きているうちに食いたいと夢見てたんだけどなぁ…。


 『うおぇ…』

 んで俺がそんな健気な思いを心の中で反芻してたらスピカはえずくみたいな声を出して静かになった。

 一体なんなんだ?


 俺は気にせず食い続ける事にした。勿体無いし…。

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