異世界転移したらゾンビ化した俺の話聞く？

第38話 俺VSグラセルの話聞く？

　戦闘開始の合図が送られた。俺は…

「ふふ…いくら愛するソーマたんでも容赦しないよ！」

　グラセルは杖を振り翳した。すると杖の髑髏を中心に魔法陣が展開され、そこから白い短剣の様な物体が現れた。

　そしてそれらが全て俺目掛けて飛んできた。

　「おーっと！グラセル選手！先手を取った！新人相手に容赦のない魔法攻撃！」

　「やっちまえ！グラセルぅ！俺の仇を取ってくれ！」

　「ゾンビなんかに負けんな！」

　ギャラリーが騒いでいる。仇？ココアに絡んだお前の自業自得だろ？ゾンビだから？うっせーよ。

　テメェらみたいに猛毒やら即死魔法やらに怯える必要のないゾンビの何処がお前らより劣っている？

　お前らと違うのは生きてるか死んでるかだけの違いだろうが…。

　「ハッハッハ！一瞬で終わりの様だ…え？」

　グラセルも俺を弱く見ていた。実際俺自身も自分の実力なんてとは思っていた。が

　「こんなの！アシュリカさんの剣に比べればおっせーんだよ！」

　迫り来るナイフ。それらはアシュリカの剣速に比べて遅いし動きも単調。

　俺は夜明（デイブレイク）で全てのナイフを打ち落としていく。

　「な…」

　「ソーマ選手！全ての魔法を打ち落としていく！これは凄い！本当に新人なのか！？」

　「うそ…だろ？」

　「何だよあのガキ…」

　俺はナイフを打ち落としながら走りグラセルに急接近する。

　「速い速い！！これが本当に新人の出せるスピードなのか！？」

　「く…！」ズドン！

　「うお！？」

　するとグラセルは地面に杖を突き刺した。その途端に地面がボコボコと動き出していく。

　俺の足が着地した地点も山の様に盛り上がっていく。それも勢いよく盛り上がり俺は吹っ飛ばされたが着地して態勢を立て直した。

　「おぉっと！グラセル選手！戦闘領域エリア全ての地形を変形させた！吹っ飛ばされたソーマ選手！華麗に着地！」

　「…変態（グラセル）の魔法の恐ろしい所は魔法の発動範囲が広いところと違う魔法を同時発動できるところ…ソーマ君大丈夫かしら…」

　「マスター。ご安心を…寧ろソーマは得意なはずですよ」

　「え？」

　吹っ飛ばされた俺をリンが心配そうに見ているが俺はニッと笑って答えて再び前を見た。

　地面はフィールド全体ボコボコ。山や窪みがありその高さや低さはまばら。それに加えてグラセルの周りに巨大な石の壁が出来上がっている。

　「ふ…ふふ…油断していたが！本番はここからだ！」

　グラセルの声が聞こえる。すると壁の上空に巨大な鎌の様なものが出てきた。

　「いけ！デスサイズ！」

　叫ぶとその鎌が俺に向かってぐるぐる回りながら接近する。

　「だから…こんなの！」

　俺は先程のナイフ同様に叩き落とした。だが

　『ソーマ！その鎌まだ動いてるぞ！』

　「な！」

　見ると鎌がウヨウヨと動きまた飛び上がって襲いかかる。

　どうやら叩き落としてもダメらしい。

　「グラセル選手！フィールド全体をお邪魔フィールドに！おっと！？グラセル選手の召喚した鎌がソーマ選手を追いかけている！

　ソーマ選手！逃げ切れるか！？」

　「無理無理…そのままきられちまえ！」

　「…いやでもあいつ…」

　俺は逃げるので精一杯だ。しかしあちらこちらにあるボコボコ道や不規則な走りにくいこの地形はリンの間空間で鍛えられた俺には難しくない！

　グングンとグラセルと距離を縮める俺。

　「ソーマ選手！逃げ切っている！しかしグラセル選手の方は鉄壁のバリアが！」

　問題は壁だ…そして追いかけてくる大鎌…。

　『ソーマ！ワシに考えがある！』

　「え？」

　突如スピカがある作戦を提案してくれた。一か八か…乗るしかないか…。

　俺はとうとうグラセルのいる壁まできた。

　「？ソーマ選手どうしたのか？何故立ち止まっているのか？」

　タイミングが来るまで…壁の前に立つ。

　「どうせ諦めたんじゃね？」

　「かもなぉ！」

　嘲笑も聞こえる。んなもん今は聞いてる余裕はない。

　「きた…」

　大鎌はヒュンヒュンと音を立てて迫ってくる。そしてとうとう鎌が俺の首元にやってくる瞬間。…この瞬間を待っていた。

　「よっと！」ばきぃぃい！

　俺はその瞬間座り込んだ。すると鎌は俺の首を刈り取れず刃が壁に突き刺さった。しかも抜けない様である。

　『ほっほっほ！流石ワシじゃ！』

　スピカはご満悦。今回ばかりは助かった。

　「BIGな鎌が突き刺さった！これでは追えないぞ！ソーマ選手のNICE判断！」

　ここからだ…まず俺はジャンプして突き刺さった鎌の持ち手に足をかけてそのまま上にジャンプした。

　「みーつけた♡」

　「んな！？」

　「ソーマ選手！ついにグラセル選手に辿り着いた！」

　そのジャッジマンの声に会場の声が大きくなった。そんな声をバックに俺は剣を持ち直した。そして

　「これで…終わりだ！」

　「ぐわぁぁぁ！」

　俺の剣がグラセルの体を切った。

　そして

　「そ…んな…」

　グラセルは倒れ、そして周りの壁や鎌が消えて地面が戻った。

　会場は唖然としている。立っている俺と倒れたグラセル。それに全員が息を呑んでいた。

　ジャッジマンがいち早く我に帰った。そして

　「これは…凄い！勝ったのはソーマ・シラヌイだぁぁああ！」

　ジャッジマンが宣言したと同時に歓声が上がった。

　「凄い！凄いわ！ソーマきゅん♡」

　「ああ…ソーマ！よくやった！」

　マスターとアシュリカも歓声を上げている。俺のことを馬鹿にしていた連中は面白くなさそうにさっさと帰った様だ。

　すると

　「ソーマ！」

　「うわ！」

　リンがドテドテと走ってきた。しかし俺の目の前に転びそうになったので抱き止めると目をキラキラさせていた。

　「凄いよ！まさか一人でマスタークラスに勝つなんて！」

　「あはは…ギルドのみんなのおかげだよ」

　『ソーマ！ワシの事を忘れるな！」

　「(はいはい)」

　スピカも嬉しそうだ。周囲に恵まれたからこその勝利だ。すると

　「そ…ソーマたん…」

　「…」

　救護班と思わしき人たちがグラセルの手当てをしている中、グラセルが俺を呼んできた。

　…一応一戦交えたライバルだ。俺はグラセルの元へ駆け寄った。

　「ソーマたん…凄いな…まさかこの私が新人に負けるなんて…」

　「俺もトレーニングしたので」

　「はは…言っていたな…。なあソーマたん？本当に私ではダメなのか？私はこんなにも君を愛してるのに…」

　グラセルの瞳が揺れている。しかしここは厳しく言っておこう。

　「…貴方はもし俺が生きてる人間だったら好きになれますか？」

　「それは…」

　「俺自身を愛してくれる様な人でないと俺の方も愛する事はできません。何より誰かの大切なものを馬鹿にする人なんて…俺は好きになれない」

　「…」

　と俺の言葉にグラセルは固まる。リンに対してギルドを悪く言った罪は重い。

　「人を愛するならその人自身とそしてその人の大切な存在を一緒に守れる様な器が必要だと思うんです。

　だから…もし今後貴方が本当に愛せる人と出会えたらその時はその人の大切なものまで愛してあげてください」

　そう言って俺は立ち上がりリンの元へ向かう。そしてリンと共に会場を後にした。

　「グラセルさん？痛くないですか？グラセルさん？…顔赤いですよ？」

　「…なんて…美しいんだ…」

　「？」

　「皆さん！これにて試合は終了です！ここまでの実況&審判はMr.ジャッジマンがお送りいたしました！チェケラ⭐︎」