第36話 決戦の舞台の話聞く?

 そして…等々その時がやってきた。


 俺とアシュリカ、リン、そしてマスターの四人は今現在、レイングラスにある"国立公式決闘場こくりつこうしきけっとうじょう"通称"公式フィールド"にやってきた。

 何でも公式フィールドは他の町や村にも必ず存在するらしく、協会が定めた公式試合は必ず此処で行なう様に義務付けられている。


 これはレイングラスの町にある女神の愛子アテナ・ファミーユ屍の館ネクロ・エデンの本部含めた多くのギルドがあるエリアの中心にある。

 フィールドの形はまん丸であり俺の世界でいうコロッセオみたいな感じの構造である。


 俺たちはその入り口に立っている。

 「ハァハァ…」

 かく言う俺はと言うと緊張でバクバクともう活動停止したはずの心臓が動いてる気がしてしょうがない。

 

 「ソーマきゅん♡大丈夫よん♡見た感じソーマきゅんなら勝てると思うわん♡確かに相手はマスタークラスだけどソーマきゅんはあのアシュリカと渡り敢えているもの♡自信持って♡」

 「マスター…」

 マスターはそう言って励ましてくれている。少しじーんと感動しているとマスターはハァハァと息を荒げた。


 「ハァハァ♡か…勝ったら私とデートよん♡どこ行こうかしら♡結婚式場の下見かしらん♡」

 「マスター…」

 感動を返してほしい…。


 「ソーマ…。アシュリカは最強クラスの剣士。そのアシュリカとあそこまで戦えるなら大丈夫。あの修行の日々を思い出して」

 「私が最強…っていうのは買い被りすぎだぞ?リン。だがソーマ。お前は私の弟子だ。私はお前を誇りに思っている。

 大丈夫。私もみんなもついてるし、お前をあの変態や協会になど渡さん」

 アシュリカやリンも励ましてくれる。


 みんな優しいな…。俺は思わずウルッと涙が出そうになった。だが

 「ソーマたぁぁぁあん♡会いたかったよぉお♡」

 とネッチョリした声が聞こえた。振り返るとそこには変態グラセルがいた。


 そして変態グラセルは走ってきてこちらにダイブしようとしてくるが、

 「よっ…」

 俺は避けた。変態グラセルは宙を舞いそして地面にキスをした。


 「ソーマたん!これからご主人様になる私に対してそれはないんじゃないかな!?」

 「俺はあんたのゾンビになる気ねぇから。俺のご主人様はリン唯一人なんだよ」

 「その通り!」


 ギャンギャンと喚く変態グラセルに文句を言うとリンも援護してドヤ顔である。


 「あらあら二人とも?何でゴキブリなんかに話してるのかしら。ばっちぃから中に入りましょうね?」

 「ま…マスター?流石に言い過ぎでは?」

 マスターは死んだ目で笑いながら変態グラセルを見下している。そんなマスターに苦言を呈するアシュリカ。アシュリカがいなければ滅茶苦茶な事になってそうである。


 「何だと!マスター・エルトリオ!誰がゴキブリだ」

 「やだぁ♡ゴキブリが何か言ってるわん♡みんな逃げるわよ♡」

 「え…ええ?」

 「ソーマ行こう」


 マスターは最後まで変態グラセルを罵り走っていった。取り敢えず俺とリンもマスターについていく事にした。しかしアシュリカが遅れきていて…。


 「マスター・ファントム様。ソーマは…私の弟子は貴殿に負けることはない。私が保証しよう」

 「ふふ…なーにを言ってるのだね?確かソーマたんは平和な異世界から来た戦いに関しては素人な子だった筈。それがこの短期間に私に勝てるとでも?」

 「…え…何で異世界の事しってるんですか?」

 「ふ…これが愛の技だ!」

 「きもっちわる…。いやそれよりもそうだな…ならば貴殿は今日その短期間しか鍛えてないゾンビの少年に負ける…という摩訶不思議な体験をすることだろう。

 では私はこれで」


 なんてアシュリカと変態グラセルが会話してるのは誰も知らない。

 その後アシュリカは少し遅れてギルドメンバーと合流した。

 

 「あ…あんのアマ!ソーマたん待っててね♡性悪女どもから君と言う天使を救い出してあげるよぉ♡」



 ◇



 変態グラセルを外に置いたまま俺たちは建物の中に入った。建物は石造りであり、外気が入ってくる。

 中には人が何人か出入りしている。

 「…今日はいつもより人が少ない」

 リンがボソリとつぶやいた。


 「少ない?観客の数か?」

 「うん。普段はこういう公式戦の話聞くと町の人とか冒険者達が見学に来る。

 けど今回は少ない…」

 普段がまずどのくらい人が来るのか分からないので比べようがない。


 「そうねぇ…。リンやソーマきゅんに失礼だけど…。ソーマきゅんがまず新人なのもそうだしそれにマスタークラスに挑むのは殆ど勝敗が見えてると思われてるのよね…。

 それに加えて屍の館ネクロ・エデンは人から忌み嫌われるゾンビのスペシャリスト集団。

 大体の人から変態集団とか変わり者、変な人たちって扱われてるから避けられる傾向にあるわ」

 「それに加えて今回は協会関係者も来る。そうなると普段よりお堅い雰囲気になるかもしれんしな。

 私個人はその方がいいが、大衆は一種のエンターテイメントとして見ているからそういうのはお呼びではないのだろう」


 とマスターとアシュリカの見解。そう言うものなのか…。

 

 「其方にいるのはマスター・エルトリオ」

 と男性の声が聞こえた。全員其方を向くとそこにいるのは一人の初老の男性である。


 髪の毛は綺麗なシルバーであり黒いハットを被っている。顔には皺が刻まれている。切れ長の目や例えられたヒゲ、そして右目につけたモノクルが特徴的である。

 身長は背が高いアシュリカよりずっと高くスマート。ビシッと決めたスーツが決まっている。


 「(い…イケオジ…)」

 俺は少し惚けてしまった。

 

 「これはこれは…"ファブル副会長"。ご機嫌よう」

 とマスターがお辞儀をして挨拶する。するとリンやアシュリカもお辞儀したので俺もする事にした。


 「ソーマきゅ…君。この方は世界冒険者協会せかいぼうけんしゃきょうかいの副会長をしている"ハリー・ファブル"さんよ」

 「おや?君がソーマ・シラヌイか。初めまして」

 「あ…そ…ソーマ・シラヌイです。初めまして」


 副会長が手を出してきたので俺も手を差し出した。するとぎゅっと握手してきた。

 「いやあ!報告を聞いて驚いたよ。まさかこんなに自我がはっきりしてるとは…フェルナンド君!君の才能は素晴らしいね」

 「お…おほ…めの言葉…か…感謝いたしましゅ」


 リンはガチガチに固まりながら返事すると副会長はニコニコと笑顔を返している。見たところ悪い人には見えないが…

 「所で副会長。今回の公式戦…何故許可をだされたのですか?彼はゾンビだし、初心者です。

 そんな子をマスタークラスにぶつけるなんて前代未聞です」

 「…そうだね。本来はあり得ない…。だが今回のシラヌイ君の存在は会長や我が協会の後ろ盾になってくれている貴族達が気にしているんだ。

 そこへファントム氏の公式戦の許可受諾。シラヌイ君の身柄を拘束する恰好の口実として捉えてしまった様なんだ」


 と少し申し訳なさそうである。

 「…とはいえ…シラヌイ君には悪い事をしたと思っている。済まなかったね…」

 「あ…いえ!大丈夫です」

 「本当かい?条件を見たけどかなり酷い内容だったようだが…」


 心配そうに聞く副会長。だが

 「俺は…とてもいい師匠に恵まれてその人のお陰で少し成長できたと思ってます。

 それに…大丈夫。俺は必ず勝利しますので」

 

 そう言うと副会長は苦笑している。そりゃあズブの新人冒険者が言ってもおかしいかもしれないが…

 「そうかい。なら私も君の戦いぶりを見守っているよ」

 そう言って副会長は何処かへ行ってしまった。


 「…アシュリカ?顔赤いよ」

 「いや…その改めて師匠と呼ばれると照れるな」

 リンの指摘にアシュリカは顔を赤らめて苦笑している。普段が凛としているせいか、何か可愛く見える。


 「ふふ。大丈夫よ!ソーマきゅん♡私も応援してるからね♡」

 「はい…ありがとう御座います」


 マスターのエールに答えていると放送が流れた。

 『これより公式試合を開始します。試合に参加する方は会場前にお集まり下さい。尚観戦する方は…』


 いよいよか…

 「ソーマ。私もついてるから大丈夫。行こう」

 「…ああ」


 その放送が終わると俺はリンの後をついて行き会場に向かった。そして途中後ろにいるマスターやアシュリカに手を振ると二人もニコリと微笑んで振替してくれた。


 …俺も…覚悟を決めるか…

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