第31話 弟子入りした話聞く?
「顔を上げてくれ!?どうしたんだ突然!」
土下座する俺に合わせてアシュリカも屈んで俺の背中を摩る。
「実はね?ソーマきゅん宛にあのど変態クソ野郎から果し状がきちゃったのよ…」
「はぁ!?ソーマはまだ入ったばかりですよ!?それにそもそも公式の試合で使役される側とマスターが戦うなんて聞いた事がありません!」
アシュリカは事情を話すマスターに食ってかかる。…つーか…ど変態クソ野郎で通じるのね。
「え…使役される側って…」
「モンスターテイマーの操るモンスターとネクロマンサーや死霊操術者の操るゾンビは普通は同じ扱い。
そんな人に使役される子達が一個人としてマスターに決闘を申し込まれるのは普通はあり得ない」
「でも現に俺に果し状が…」
だったら俺に向けての果し状が受理されるわけがないのだ。
「正式な果し合いの相手の名前はリンなんだけど、戦いの条件には使役ゾンビであるソーマきゅんを指名してるのよ。だから一応ソーマきゅん宛の実質的な果し状って訳。
それにソーマきゅんは自我もある。自分で考えて行動できるし話せるわ。
だからソーマきゅんを普通の冒険者にカテゴライズすべきかそれとも使役ゾンビとしてカテゴライズするかの線引きが今問題になってるの。
今回の決闘では全ギルドを束ねる組織。"
世界冒険者協会?《せかいぼうけんしゃきょうかい》その方々の判断材料の為に俺の貞操を賭けたバトルを要求されてるの?
「ジーニアスが滅茶苦茶な速さでソーマきゅんに関する報告書を提出したら興味持っちゃったの…。
そしたらあっちの変態はもうノリノリのノリノリでね…。
条件を色々つけてきやがったのよ。マジでぶち殺したくなる」
ちっと舌打ちするマスターは美人な分迫力がある。色々な条件とは一体何なのだろうか…。
「マスター…しかしこんなのソーマに対して不利すぎますよ!断った方が…」
「無駄よ。あっちのお偉いさん達からはもし今回の試合をお断りした場合、ソーマ君の身柄をあっちに預けなきゃいけないんだから…」
「預けるとどうなるんですか?」
純粋な疑問をマスターにぶつけるとマスターはくっ…と悔しそうに顔を歪め
「ソーマきゅんが実験台にされるかもしれない…」
「じ…実験台!?」
嘘だろ!?元の世界戻んなくても結局そうなるの!?
「どうして!?」
「前例が…なさすぎるの…ソーマきゅんみたいな子は…。だからあちらさんに預けるとどう言う扱いを受けるかわからないの。
知恵をつけているゾンビだからと危険視されて排除されるか…
はたまた
それか、不死なのをいい事に兵器利用されか…」
俺はゾンビであるにも関わらず血の気が引くのを感じた。どれもこれもいい予想ではない。
排除されたら二度目の死を、解剖ならば死ぬことのない痛みを、そして兵器利用は体は無事かもしれないが…下手したら逆らえないように例の呪いの指輪を付けさせられるかもしれない。
まるで人権がない…。
「そんな…私がソーマをゾンビにしたから…」
「リンは悪くないわよ?寧ろこの協会の方がおかしいわよ!私の可愛い可愛いソーマきゅんをこんな扱い!
しかも実験なんて何をする気よ!痛い事や苦しいこと!?そ…それともハァハァ♡ちょっとHな実験…」
「マスター…」
リンはリンで罪悪感からか震えている。マスターはやはりマスターである。そんなマスターに冷たい視線を浴びせるアシュリカ。
しかしアシュリカはマスターの持つ果し状を渡してもらいそれを眺めた。
『バトル形式…一対一のデュエル形式。対戦者は、グラセル・ファントム氏、リン・フェルナンド氏。
どちらかが戦闘不能になるまでの時間制限なし。途中降参許可するがした場合は敗北とみなす。
また戦闘条件として、リン・フェルナンド氏は使役ゾンビの一体であるソーマ・シラヌイを使用する事。
マスター・ファントムは使役ゾンビを使用しない事を明記する。
↓下記に勝利した場合に得る報酬を明記(任意)
氏名 グラセル・ファントム
◯勝利報酬
・リン・フェルナンドを使役ゾンビ共々冒険者ギルド"
・ソーマ・シラヌイの身柄を
・ソーマ・シラヌイの使役権をグラセル・ファ ントムに移す事。
・ソーマ・シラヌイはグラセル・ファントムと永遠の愛を誓う事。』
ここまでが書かれてる内容である。欲望に塗れている。
「しかも何気に俺が負けたら協会に預けられるのかよ…」
「ソーマの身柄を約束する代わりに今回の公式戦を立てる事ができたのか…。
冒険者というのは皆さっぱりしたやつばかりと思ってたが…何処に行ってもずるい奴等がいるものだ」
俺に逃げ場がない…。逃げれば最悪な未来が待ってる…。負けてもその最悪な未来に変態に好き勝手される未来が待ってる。
けれど俺が素人なのに対して相手は冒険者ギルドのマスタークラス。
俺は絶望で膝を地面に落とした。
「どうすればいいんだよ…。何で…俺が一体前世に何したってんだよ…」
この台詞は俺が死ぬ間際に言った台詞だ。神は俺を見放しているのではって常々考えてしまっている。
皮肉だよな…普段は無神論者なつもりでいた癖にいざとなると神頼みしていざこんな目に遭えば神を恨むのだから…。
「ソーマ…」
リンはそんな俺を見て悲しそうな顔をしている。
「ソーマ君…こうなったら私が何とか!」
マスターは何とかしようと考えてくれているらしく立ち上がる。
そして残りの一人は俺の肩を掴んだ。
「顔を上げろ」
凛とした声。その声に導かれる様に俺は上を見上げた。
「アシュリカさん…」
「何を怖気ついているんだ。情けない」
「そんな事言われても…俺は剣の振り方もわからないし…負けた時の罰が荷が重くて」
情けないなぁ…弱音吐いてもどうしようもないって分かってるのに…。
吐いたって状況なんて変わる訳がないのに…
しかし
「何故やる前から負ける前提で考えているのだ」
「だって!どう考えても実力が…」
「だったら勝てるぐらいまで強くなれ!だからお前は私に弟子入りを希望したのだろう!」
アシュリカの強い目が俺の目を射抜く様に鋭く見つめている。
「私がお前を一人前の剣士にしてやる!いいか!?相手はお前を弱いと勝手に判断して権力者にメリットを与えてこんなふざけたバトルを仕掛けてくる様な奴だ!
そんなのに負けたら悔しくないのか!?」
「悔しいですよ!弱いって判断されるのも!こっちは嫌がってるのに無理やりこんな条件つける人に負けたくなんてないですよ!」
俺は心のうちを吐露した。当たり前だ。負けたくなんてない。
俺の心を無視したこの人に…、リンの足に痣をつけたこの人に…ギルドを馬鹿にしたこの人に負けるなんて…
するとアシュリカはクスリと静かに微笑んだ。
「ふふ…ならば答えは決まってるではないか。ソーマ。私がお前を強くする。勿論責任を持ってな。私はお前の味方だ」
何処までも強くて何処までも優しいエメラルドの瞳がとても眩しくて…
だから本当は不安だし怖いし逃げたいけど俺は
「…よろしくお願いします」
と言い彼女に託す事を選んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます