第29話 夢が憂鬱になる話聞く?

 なんかココアの知りたくなかった面を知ってしまった俺はルークについて行き家に帰ってきた。

 「ココアはたまに変なこと言うけどあんま気にすんなよ。別に害はないし」

 「あ…うん」

 

 その夜のご飯はルーク特製のハンバーグである。飯も作れてイケメンで面倒見もいいとは何だコイツは…。

 ハンバーグも美味しく頂き風呂も入り、いつか借りを返さねばと思いながら寝床につくことにした。



 ◇



 その夜…

 「おいソーマ。…ソーマ!」

 「んん?」

 聞き覚えのある声がする。起き上がるとそこには


 「随分と呑気なものだな。ワシが折角声を掛けてやってるというに」

 「え?スピカ?…ってあれ?」

 俺の名を呼んだのはスピカである。しかも声だけでなく、以前見たスピカ自身が目の前で偉そうに立っているのだ。


 それに加えてあの日スピカと出会った星空の空間。たましい終着点しゅうちゃくてんで俺は寝ていたのだ。今まで確かにルークの家にいた筈なのにだ。

 「何でスピカが此処にいるんだ?」

 「ワシも知らん。お主が完全に寝てしまった瞬間にワシの目の前にやってきたのじゃ」


 スピカ自身もどう言うことかわからないらしいが…それよりも

 「ひにぁぁあ!にゃにしゅるのじゃ!」

 「お前…散々俺に対してすんげえやな事言ってきたよな?キメェだの最低だの…。それに対して何か言うことあるんじゃないのかな?」

 「わ…ワシはわりゅくにゃいのじゃ!しゅなおな感想をにょべただけにゃのじゃあ!」


 俺は今まで散々人の脳内に直接ムカつく言動をしてきた鬱憤を晴らすために奴の頬をむにぃとする。まるでモチモチのお餅の様な感触である。

 「ほう?ならこの顔はそのままになるぞ?いいのかなぁ?」

 「あ…あくまにゃのじゃ!」

 スピカは涙目である。言っておくが俺はドSではない。


 「うう…酷いこと言ってごめんにゃしゃいにゃのじゃ!あう…」

 「よろしい。まぁ俺もごめんな?折角あの変態野郎から助けてくれたのに」

 「ま…全くなのじゃ!ふん!」


 スピカはプンプンと頬をリスの様に膨らまして怒り出す。正直怖くない。全然可愛いままである。

 「ごめんってば…」

 「むむむ…」

 しかし俺の方をチラッと見てすぐに頬を解除した。

 

 「分かった…許してやる」

 「うん」

 「けど条件なのじゃ!ワシにお主を強くさせろ!」

 「…へ?」

 スピカは俺にビシリと指を指してきた。どう言うことだろうか。話が見えない…。


 「えと何で俺を強くしたいの?」

 「理由は三つじゃ!」

 スピカか胸を張って右手の指を3本立てる。


 「まず一つ目!暇だからじゃ!」

 「いきなりしょうもない理由…」

 「しょうもないとは何事じゃ!良いか!お主はこんな空間にずっといて耐えられるのか!?

 周りに娯楽もないし話し相手もおらんのじゃぞ!つまらんではないか!」


 改めて周りの空間を見る。まぁ言いたいことはわかる。最初の一日ぐらいならこの星空に感動して良い空間とは思う。だがそれだけ。それ以外は何もないのである。

 「お前飯とかどうしてるの?」

 「食わなくても生きていけるのじゃ。味はお主の舌を通して感じることもできる。というか感覚の殆どがお主とリンクしとる」

 「え…剣に宿ってるんじゃなかったの?」

 「んなもん知らん!ワシに聞くな!自分で調べろ!」


 …んな無茶苦茶な…。

 「…それで?二つ目は?」

 「二つ目はお主と感覚が何故かリンクしたが、何も目的もなしにお主の様な平凡で普通でズブな素人の冒険者で彼女いない歴=年齢のくせにそこらへんの人間に片っ端から唾つける様な小僧とリンクするのは時間の無駄だと判断したのじゃ」

 「うう…」

 「む?何故泣くのじゃ?」

 「うるせぇやい!人の心を勉強しろよ!」

 もうやだぁコイツ…。ザックのばかぁ!


 「最後はワシ自身についてもっと調べたいのじゃ」

 「スピカ自身?そういやお前自分自身の事知らないんだっけ」

 「嗚呼…。何故ワシが此処に生まれたのかそもそもワシは何者なのか…。何もかもが謎なのだ。

 ただ…何故かワシは自身の名とそしてあの星々の正体やこの空間の名前のみ覚えておったのだ」


 聞けば聞くほど不思議だ。自分のことなのに自分を知らない。けれど一部の記憶は覚えてる。俺はてっきりファンタジー小説とかでたまに出てくる精霊とか剣に宿る神様とかそんな存在だと思っていた。

 もしかしたら記憶をなくした神様とかか?


 「ふふふ!おいお主!お前中々良い考えをしておったな!」

 「心読めんのかよ!」

 「言ったであろう?お主とワシは繋がっているのだ。そういえばあのルークとかいう男が作ったハンバーグ中々の美味。

 良いかソーマ!またリクエストしてハンバーグを作らせるようにしろ!ワシからの…いや神様からの命令じゃ!」


 ビシッとポーズを決めてドヤ顔のスピカ。こんな緊張感のない神様がいてたまるか。

 「つーかそのお前の正体と俺の強さって何か関係あるのかよ」

 「直接には関係ない。ただな…ワシが此処で自分の力のみで調べようにもご覧の通り何にもないのだ」


 そう言ってため息を吐きやれやれポーズをとるスピカ。

 「だからワシはお主には世界を見てもらいワシに関する記述や、もしくはワシの記憶にビビッとくる場所へ赴いて欲しいのだ」

 「?そんなの別にいいけど…。強さ関係なくない?今日行った草原とか危険生物とかいなかったし…「甘い!甘いぞ!」


 俺の言動を遮り彼女はグッと拳を握る。

 「全く持ってお主の認識は甘いぞ!それはそれは蜂蜜漬けにしたパンケーキに砂糖とメープルシロップ!チョコソースをかけたぐらい甘い!糖尿病不可避だ!ソーマは糖尿病予備軍なのだ!」

 「違いますが!?どう言う意味だよ!」

 「お主はまだこの世界の一部しか知らんからそう言えるのだ。これまでワシはこの空に浮かぶ魂の記憶を読み取ってきた。その中には危険な場所や魔物に殺害された者共が存在する。

 煮えたぎる火山や凍える氷山。凶悪な人喰い魔物。それはそれは沢山の記憶がある」


 マジかよ…って事は今日行った草原はマジでRPGで最初に訪れるマップみたいなもんなのか…。

 「ならお前の記憶とかもその魂を見てみれば…」

 「お主は宇宙にある星々を数えられるのか?此処にある魂はそれこそ無限大なのだ。どれだけ時間がかかるかわからん!それに五感を通して思い出せる部分もあるかもしれないだろ!」


 尚も引かないスピカは更にヒートアップする。

 「兎も角!もし危険な場所を訪れた場合お主も強くなければ困るのだ!お主に伝わる痛みはワシにもリンクする。しかも死なんのだから尚更タチが悪い」

 「け…結局保身のため?」

 「そりゃあそうじゃろて。保身でなければお主の様な何もない小僧とリンクなどせんわ!」

 「酷いよ!お前道徳の教科書読んどけ!」


 スピカのチクチク言葉にめげない俺。でも強くなるのは確かに今後の冒険者生活では大切な事かもしれない。それに今は最低限の生活をするためにギルドに加入しているが、依頼を受けて報酬を得ないと生活できないのならある程度は実力は必要である。


 「ソーマよ。お主に訓練を行う」

 「できるのお前…」

 「した事はないが此処らにある魂で剣を主に扱う手練の魂を読み取りそこから教えてやる。ありがたく思うのだな!」

 「それお前ってよりその手練さんにありがとうを伝えたい」


 スピカはドヤ顔である。ムカつくな…なんか…。

 「ソーマよ。もうじき夜が明ける。また明日の夜落ち合おう」

 「いきなり!?落ち合うってどうやって!?」

 「ワシは知らん!兎も角寝ろ!」

 「た…頼りにならない…」

 「ほれほれ明日からビシバシ鍛えていくから覚悟しろよ!さらばだ!」


 スピカが別れの挨拶をすると途端に視界が真っ白に光った。

 


 ◇


 

 そして朝  

 「うわ!」

 俺はベッドから起き上がり周りを見る。周りはすでに星空ではなくルークの家の中だった。

 「は?」

 『んじゃワシは寝るでな。夜はビシバシ鍛えてやるから宜しく〜』

 「は?」


 スピカは俺を置いて眠りについた。俺は今日の夜をいかに寝ない様にするかと一瞬考えたが起き上がり顔を整えて起きてるであろうルークの元へ向かった。

 

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