第28話 世の中には知らない方がいいこともあるって話聞く?
-sideソーマ(ソーマ視点に戻ります)
「はぁな…何とか脱出できた…ハァハァ…」
『ふん。こんな所で息切れとは…貧弱だな小僧』
「お疲れ様。もう夕方だ」
俺たちは何とか脱出できた。と言うのもリンが一度自分の足元の地面を盛り上がらせて足場を作りそこからキョロキョロと俯瞰して森を観察して何とか道を探し当てたのである。
リン様々である。
だがリンが観察を終えると
「何であの変態がいい思いしてるの?」
とまたしても杖をギリギリと握りしめている。何かパキッと音も聞こえた気がするけど大丈夫かな。壊れてないかなこれ…。
そういや歩いてる途中で変な男の叫び声が聞こえてきたけどあれは?
…深く考えるのはやめよう。
その後はリンをおぶりながら休憩も挟みスローペースで脱出した。かなり時間かかってしまいもう夕方になっていて、草原は夕焼けの光を受けてオレンジに染まる。中々の絶景だ。
しっかし…そもそも人一人運びながら此処まで歩いたことがない為かなり疲労している。
きっと明日は腕が筋肉痛になるのだろう。覚悟しておかねば。
「ソーマ。此処からは流石に地面もなだらか。此処からは自分で歩く」
「いや無理すんなよ?」
「無理はしてない。それとも…ソーマは私とくっつきたいの?」
「え?」
そう言うとリンは俺の手を掴んだ。
「手を繋ごう。そうすれば私の肌とソーマの肌は密着できる」
「いやあの…リンさん?あまりこういうのは良くないというか…」
「どうして?」
「いやだって…そのか…勘違いするし…」
ルークのいう通りリンは慣れてしまうとグイグイ来る。遠慮がまるでないのだ。だが俺らの年齢も考慮すると少し距離感は弁えねばならない。
それに…こんな風にされると俺のこと好きなのかな?ってキモい勘違いをしてしまう。
『というか既に勘違いしてて心の中ではうぇーいwとか騒いでるのではあるまいな?』
「(お…思ってねーし!んなキメェ勘違いしてないし!本当だし!)」
『必死なのがまたなぁ…。自意識過剰と言われぬか?』
「(く…このクソガキめ…)」
俺は至極真っ当な考え方をしているのにすごい茶々を入れてくるスピカことクソガキ。
そんな脳内での会話を知らずにリンは首を傾げる。
「勘違い?なんの?」
「えっえっと何でもない気にするな!」
「そう?でも私は友達とはこうやって沢山コミュニケーションをしたいから。慣れて欲しい」
「なれる慣れないの問題ではないと思いますけど!?いやおま…まさかルークとジーニアスさんにも同じことしてんの!?」
俺に此処までするということは…
「ん?んー…した事ないよ?けど友達だから多分いける。勇気が出ないだけ。
今まぇ抱きついたり体を密着させてきたのは女の子相手だけ。そこは弁えている」
「…うーん。ど…どう説明すれば…」
境界線が分からない。本人も弁えてるというが、果たしてどうなのだろうか…。いやでも
「(え?でもおんぶした時…確かに赤くなってたな…けど"こうしていたい"って言ってたよな…え?あれはどういう…)」
『その何としてでも自分に惚れてると思い込もうとする精神から気持ち悪いぞ。お主モテたことなかろう?』
俺は反骨精神からギリっと思いっきり
取り敢えず何でもないと告げて町に戻る事にした。
◇
「…」
んでもって俺は現在ギルドにいる。それは…
「全く!ソーマさん!君には書かねばならない書類が沢山あるのですよ!就職すればそういう必ず何かしら提出書類があるのです!
きちんと事務室に顔を出すようにしてください!」
「…すみません…」
帰ってきた頃には夜になってしまった。その際町の入り口にて
◇
「ソーマさん!やっと見つけましたよ!」
「のわ!じ…ジーニアスさん!?」
「どうしたの?血相変えて…」
何やらウロウロしているジーニアスに捕まったのである。
「提出書類を出して貰わなきゃ困ります!さ!ギルドに来てください!」
「えぇ!?もう夜ですよ!?」
「夜?何をおっしゃる。仕事の本番は寧ろ此処からなのです!リンさん?あの愚弟にソーマさんは書類を書き終わり次第帰ると伝えて下さい」
ええ…そんなぁ…
「がんば…」
「んな殺生な!」
「ジーニアスは仕事の鬼。書類が1秒でも提出遅くなると例えどんな理由でも許さない。
何なら体調不良でも、冠婚葬祭だろうと関係ない。
「き…鬼畜…」
こういう人がブラック企業のリーダーにたるのか…。
…つーか仏なのか?神様系ではないのか?宗教…
「ひ…人聞きの悪い事言わないで下さい!流石にそんな事しませんから!」
「ジーニアスが言うと説得力がない」
「と…兎も角!いいですか?伝言お願いしますよ!」
「仕方ない」
そう言って俺はリンと別れてジーニアスさんと共にギルドに戻ってきて書類書きをしている。
◇
ただ此処で問題が発生した。
「…」
今現在俺は詰んでしまった状態である。ジーニアスの方も頭を抱えていた。そうそれは初歩的な問題である。
「…すみません。これって何て読みますか?…それと俺の名前を文字にするとどう書くんですか?」
異世界の文字なのだが…俺がいた世界と全く異なる見たことのない文字なのだ。なのに日本語が通じるのは凄いけど…。
しかし文字にしてしまうと全く読めない+書けないのである。
「…成程…わかりました。では私が代わりに読み上げていきますので質問に答えて下さい」
「すみません」
「いえ大丈夫ですよ。マスターからも聞いてます。異世界からきたとか…ですと今からこの世界の言語や文字を学ばねばですね…。耳で聞く分にはソーマさんの話し方は問題ないようですし、読み書きだけですね」
だとすればどうやって学べばいいのだろうか。俺日本語ってどうやって覚えたんだろ。
「誰かに教えてもらいましょうか。…マスターですと何か変なことを教えられそうですので、他の人にしましょうか。あ!でも愚弟にもできるだけ頼まない方がいいですよ!」
マスターは分かるけどルークもダメなのか?でもルークだと今お世話になってるし面倒見いいから教えてくれそうだけど…
「何でルークはダメなんですか?」
「何が何でもです!だったら私が教えます!」
「うーん…ですけど…」
ジーニアスか…この人は何と言うか絡みにくいんだよな…。インテリ風なのもあって少しでもマナーを守んないといけない感じがしてプレッシャーが…すると
「ジーニアスさん。コーヒーできました。…ってあれ!?ソーマ君どうしたの?こんな時間に」
ココアが事務室に入ってきた。手にはお盆とその上に湯気の立つコーヒーが乗っている。
するとそれを見たジーニアスがあ!と声を上げた。
「ココアとソーマさんは同い年ですよね?どうですか。同い年同士の親交を深めるためにココアが先生になるというのは!」
ジーニアスの言葉にココアはえ?え?と呆気に取られている。
「あ…あの…状況がよくわからないのですが…」
「あ!すみませんでした。実は…」
ジーニアスがココアに俺にこの世界の文字の読み書きを教えて欲しいとお願いした。
「うーん…でも私上手く教えられるか分かりませんよ?」
「そこを何とか!」
ココアはうーんと悩み出した。
でも確かにココアの方がいいかも。リンは確かに打ち解けているけど正直怒った姿を見て少し恐怖心が湧く。アシュリカはジーニアスと同じく憧れてはいるがプレッシャーがすごそう。
ルークは教えてもらってるところをジーニアスに見つかるとめんどくさそうだ。
マスターは論外。
『ワシも教えてやるぞ』
「(嫌だ)」
ココアは1番優しそうだし話してて和む。1番いいかもしれない。
「頼むよココア。俺も早くこの世界に馴染みたいんだ」
「うーん…ソーマ君がそこまで言うなら。でもお仕事の休み中とかになるけどいい?」
「全然いいよ!お願いします!」
俺は手のひらを合わせて精一杯の祈りを込めてお願いした。するとココアはふふと微笑み
「仕方ないなぁ!よーし!ココア先生に任せなさい!」
「マジで!?サンキューココア!」
「今日は僕が書類作成を行います。もう遅いのでまた別の日に教えてあげて下さい」
「了解です!宜しくね?ソーマ君」
「うん!宜しくココア先生」
ココアが了承してくれたことに安堵する俺とジーニアス。すると
「おい…クソメガネ。ソーマをそろそろ返せや!」
ルークが俺を迎えにきた様だ。事務室のドアを思いっきり蹴ってきた。
「ルークさん?ドアを蹴って開けちゃだめですよ?」
とココアがプンスカと注意するが、怖いより可愛いが勝つ。個人授業が楽しみである。
『きも…』
「(うっせーわ)」
「おやおや。全くマナーが悪い。やめて下さいよ…不本意ですが、お前と僕は兄弟。
お前が変なことをすれば僕まで巻き込まれるんですよ?全く…ソーマさん?今日は僕の家に泊まりにきてはいかがでしょうか」
「へ…?」
「はぁ!?テメェこそふざけんなよこの堅物眼鏡が!リンから聞いたぞ!テメェソーマに文字も碌に教えてねぇくせに自分の仕事終わらせたいからってソーマを無理やり連れてったってな!
てめぇ見てーなのがいるとうちのギルドがその内ブラックギルド認定されんだろうが!
おいソーマかえんぞ!」
いや…あの…。
「ソーマさんは僕の家に泊まるのです!お前には任せておけません!」
「じゃあソーマに聞いてみろよ!言っとくけど俺はもう昨日のうちにオトモダチになってんだよ!ソーマはやらん!」
イケメンが俺の取り合いだと…。うわぁ…嬉しくねぇ…。
『…お主…アシュリカとかいう女にリンとか言う小娘に続き…まさかの双子の男とまで付き合ってるのか?…最低だな…』
「(んなわきゃねーだろ!誰とも付き合ってません!年齢=彼女いない歴更新中の悲しき14歳です!)」
スピカにはあらぬ誤解を受けた。あってたまるかそんなこと。しかし
『いや…冗談じゃがそっちのおなごが…』
「は?」
そういえばルークを注意してから一言も喋らないココア。こっそり見てみると
彼女は鼻血をポタポタ流してメモ帳にサラサラと何か書いている。
「ハァハァ…いい…イケメン双子に取り合いされるゾンビ少年…。ハァハァ♡」
と…
マスターとは違う。それとは全然タイプが違う寒気が広がった。その瞬間争ってた双子もピタリと動きを止めた。そして自身の腕を摩り始めた。
「どっちがいいかしら…双子×ソーマ君?それともルクソマ?ジニソマ?
いや此処は逆にソーマ君×双子?…」
「あ…あの?ココアさん?」
「は!待てよ?ソーマ君総受け?アシュリカちゃんとか男体化させ…」
「ココアさん!」
とてつもない恐ろしい単語を並べ始めたココアに思わず大きい声が出てしまった。するとココアは肩をビクリと揺らして真っ青な顔で俺たちを見つめた。
「い…今の私…なんか言ってた?」
「え…うん…いt「言ってないって言って!お願い!私は何も言ってないよね!」何も言ってないです」
ココアの気迫に負けて俺はすぐに意見を変えた。
「ダメよ…ココア!実在の人物相手にそんなこと言ったら事故がおきる!」
そう言ってココアはうつむき自分を責め始めた。俺たちは黙って見てるしかできない。スピカでさえ静かになった。
「…帰るか…」
「う…うん」
「書類…片付けないと…」
結局俺はルークんちに泊まり全員解散した。
俺は個人授業がとんでもなく不安になった。
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