第27話 最恐の女の話聞く?
「り…リン?」
リンの様子がおかしい。いつもなら何かポケーっとしていて何処か小動物みたいな雰囲気を醸し出すそんな女の子なのだ。俺に対しても常に優しく接してくれる。しかし今の彼女は
「…」
無言でグラセルを見つめている。その目には光が見えないし、無表情だけどマジで感情が抜け落ちたみたいな顔をしている。
その小さい体からは何かオーラ?っていうのか…何か雰囲気が怖い。とにかく怖いのだ。
アシュリカとは別ベクトルの怖さだ。
「フェルナンド嬢?」
「グラセルさん。私前から限界だった。何度も何度も何度も何度も断ってもしつこく勧誘してくるの…正直ストレスだった。
しかもその理由が自分の私利私欲。自分の性癖の為だけに私を勧誘しようとしている。
それに何よりソーマは私の大切なパートナー。それを奪おうとさえしている。お願いだから放っておいて欲しいのに…何で関わってくるの?ねぇ?
私とソーマは一心同体。誰にも渡さない…。
…そうソーマは…私の…」
リンは最後ニヤァと笑った…。え…こわ…。
マスターとかグラセルとかと別の意味で怖い…。ど…どうしたって言うんだ…。
『おい小僧。お主の恋人であろう?早くあのおなごを何とかしろ!』
「(無理無理無理無理!あと恋人じゃない!)」
スピカはスピカでマイペース。いいよな!この場にいねーもんな!
「グラセルさん。私はあなたに決闘を申し込む。そして私が勝ったら二度と私とソーマに近づかないで…」
リンは杖の先をグラセルの鼻先に突きつけた。
「ま…待てフェルナンド嬢!マスターと一般隊員の私的な試合は…」
「知ってる。原則禁止。けどルールは破るためにある」
「いや違うぞ!フェルナンド嬢!?」
「世の中には…"
「大丈夫ではないぞ!フェルナンド嬢!」
赤信号皆んなで渡れば怖くない…みたいな言葉だな。しかしリンの顔を見ると目がやばい。
ありゃあかなり溜まってたんだな。ブチギレてんもんな…。
殺気も凄いし…
『フッハッハッハ!あのおなご面白いのぉ!』
スピカはそんな殺伐とした空気に爆笑している。何が面白いのかさっぱりである。
「ねぇ?早く決めて?今私と殺し合うか…それとも今此処から離れるか…ねぇ?決めて…決めてよ。ねえ?」
やばいやばいやばい…リンはすげえ無表情で目を真っ黒。見てて不安な気持ちになる顔だ。
側から見た俺やスピカでさえヤベェと思うその様子を正面から見たグラセルはひっ…と引き攣るような声を上げた。
「きょ…今日のところは…はは…ひ…引き上げるよ。さ…さらば!」
そう言って慌てて逃げ出した。あ…転んだ。
『なんじゃあ。実力はあっちの方があると言うに小娘一人に怯えて逃亡とは…あんなのがギルドマスターとは嘆かわしいのぉ』
と呆れた声。情けないのは分かるが気持ちは滅茶苦茶分かる。
「…えとリン…さん?」
変態が逃げ出した為、リンに話しかけて見た。すると
「ふぃ…スッキリした!ずっと不満だったから言えて嬉しい!」
と先程までとは嘘のように目をキラキラさせて腕をぐーっと上げて伸びた。
「むふふ…これで暫くはゆっくりできる…。?どうしたのソーマ?何かノイズゴーストみたいな顔してるよ?」
「…ノイズゴーストが何なのかは知らないけど…何でもないです」
「変なソーマ」
リンは首を傾げている。もう俺は突っ込まない。だって怖いもん。アシュリカは最強だけどリンさんが最恐なのはよく分かった瞬間である。
「それより続き。邪魔者がいなくなった。これでゆっくり過ごせる」
「そうだけど…まず此処から脱出しないか?此処リンでさえ来たことない秘境なんだろ?あまり長居すると夜になるんじゃねーか?」
空を見るとまだ明るいが、結構奥まで来てしまったのだ。
帰り道も分からないこの状況で長居するのは得策ではない。するとリンが
「…あの変態が邪魔しなければもっとゆっくりできた。今度会ったら遠慮はしない。徹底的に潰す」
と俯いて杖をミシミシと折れる勢いで両手で握りしめている。
こりゃあ
え?グラセルが変態って呼び方になってるって?気のせい。気のせい。
『しっかし小娘と変態の決闘見たかったのぉ…』
「(俺は何も起きなくて安心したよ)」
『ソーマは甘いな。その甘さはいずれ命取りになる。硬い考えと価値観に優しさと勘違いした甘さは命取りになる。肝に銘じておけ』
「(はいはい)」
『何じゃその気のない返事は!折角ワシが忠告してやってるというに!』
スピカがギャーギャーうるさい。無視しよ…
「ソーマ…帰ろうか」
「ん。そだな」
『無視するなぁ!』
◇
-side
一方その頃。リンの気迫に負けたグラセルはというと…
「何処だここ…」
道に迷ってしまい途方に暮れていた。何しろ彼。ソーマの尻ばかり追いかけていて元きた道など全く覚えてないし目印さえも忘れたのである。
そしてたどり着いたのは沢山いるドクハキガエルの合唱場である。
グラセルを囲んでカエル達は歓迎しているのか可愛らしい声でゲロゲロと鳴いている。
リンならば羨ましがる光景であろう。
しかしグラセルは
「何処なんだぁぁぁ!」
だぁ…だぁ…だぁ…
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
グラセルの叫びとドクハキガエル達の合唱のみがドクヌマの森で響く。
そして日は暮れていったのだった。
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