第26話 何か様子がおかしい話聞く?
「ハァハァ!」
俺はリンの手を掴んでがむしゃらに走る。だが…
「ヤベェ…完全に迷ったかも…」
一向に出口に辿り着かない。結構滅茶苦茶に走ったのもそうだが、そもそも初めて来た森なのだ。方向感覚が掴めない。
「ドクヌマの森は意外と入り組んでるから…」
とリンが言いかけるとガクンと膝をついた。
「リン?!」
「だ…大丈夫…ごめんちょっと足が痛くて…」
「え?見せてみろ!」
そう言ってリンは靴や靴下を脱ぐ。見るとさっきの木の根っこで痣ができている。
「な…なんだよこれ…」
「多分さっきの魔法でキツく絞められたから…。でも大丈夫だよ?歩けるから」
そう言ってリンは靴と靴下を再び履くが
「リン?俺の背中に乗れ」
「え…だ…大丈夫だよ?それに私重いし」
「だってそれ俺を助けてくれてなったんじゃん!それに無理して悪化すると良くないだろ!
だからほら背中に乗れよ!」
「ふぇ…う…うん…」
リンは少し顔を赤くしてモジモジするが俺の背中にゆっくりと乗った。俺はリンが乗ったのを確認して立ち上がった。
「しっかり捕まっとけよ」
「ひゃ…ひゃい!」
「どうした緊張してんのか?」
「はひ…」
リンが最初に会った時みたいなコミュ障を発動させた。どうしたのだろうか急に…。
しかしきちんと俺の肩に手を回していてしっかりくっついてくれてるので大丈夫だろ…。しかしめっさいい香りするしやわこい何かが当たる…。
『きも…』
「(うっせ!俺男の子だもん!)」
『だもん言うな。煩悩丸出し変態男』
「(ぐぅ…助けてくれたのはありがたいけど…む…ムカつく…)」
スピカの容赦ない冷たい言葉の刃にへこたれそうになるが俺は何とかそのまま歩き始めた。
◇
「リン?辛くない?」
「うん…ムフフ…」
リンをおぶって歩く事数分。正直同年代の女の子をおんぶなんてした事ない俺からすると緊張がピークなのもあるが、正直使わない筋肉を使ってるので少し腕と背中が辛い。
そんな俺を他所にリンは何やら機嫌が良さそうである。
「どした?」
「ん?何でもないよ。…ソーマの背中って冷たいけどあったかいね」
「何それ?矛盾してるぞ?」
「深く考えない。感じるんだ」
冷たくて暖かいの意味がわからない。確かに俺の体はひんやりはしてるがあったかくはないはずである。しかしリンは俺の背中がお気に召した様だ。
「まぁいいか。このままグラセルに会わない様に気をつけよう」
「うん本当に出てこないで欲しい。…それにもう少しこうしてたいもん…」
「り…リンさん?えっと…それはどういう意味かな?」
「へ!?ご…ごめつい…」
リンが呟いた声が刺激が強かった。え?おんぶされてたいって事?それともお…俺とくっついてたいって事?多分本人もつい漏れてしまったらしい。結構小さい声だったけど思いっきり俺の耳に届くぐらいの近距離なのだ。
…リンの言葉の真意が後者の方だったら…まぁ…その満更ではないけど…リンの方もあたふたしている。
アニメの主人公ならこういう時って
"ん?なんか言った?"みたいな難聴を患ってんだろうな…。うう…でも俺聴覚めっちゃいいんだよなぁ…。
『…イチャつくならよそでやってくれ。頼むから』
スピカが呆れ声を出している。ていうかイチャついてませんから!
なんてまたしても甘酸っぱい感じの空気を垂れ流して俺たちはそのまま突き進む。
◇
暫く歩くと
「ふわあ!こ…此処は!」
リンが興奮し出した。リンが指差した方向を見る。そこにいるのは
「ドクハキガエル!?此処にもいるんだ!」
目の前にはハート型の普通の水の池とその真ん中にハートの島とその中央にこれまたハート型の毒池がある。
真ん中の陸地にはドクハキガエルたちが可愛い声で合唱している。
「ムフフ!ま…まさかやっと辿り着けるなんて!」
「?なんかすごいところなの?」
「此処はドクヌマの森でも秘境とされる場所で"ハートの泉"。見て分かる通り全部ハート。
ムフフ…ドクハキガエルたちだけでも可愛いのにこれはずるい♡」
リンは嬉しそうだ。しかし秘境でリンも来たことない場所か。俺よくこんな場所へ行けたな…。
「どうしよ…これ脱出できるかな?」
「できるよ。多分」
「た…多分なのか…」
取り敢えず後ろを見てもグラセルのいる様子はないので一度リンを近くの石に座らせて俺も横に腰掛けた。
「はぁ…疲れた…」
「お疲れ様。水筒持ってきたからよかったら」
「サンキュー」
俺はリンに水筒のお茶を貰った。日本でよく飲む緑茶や麦茶と違い、少し独特な…なんかハーブティーみたいな匂いがする。後味はスカッとしていて眠気が覚めそうだ。
「私ね。ソーマにドクハキガエル見せたかった」
「同志欲しさ?それなら安心しろ!俺はあのカエル達の保護者になりたい」
「ムフフ…それもあるけど。ソーマにもっとこの世界を好きになって欲しいから」
リンは空を見上げて静かに語る。
「私ね。
「
「やばいって事はないよ。けど中にはいるんだ。この能力は人の魂を冒涜する悪魔の魔法だって。偶々いた場所がそういう考えが根付いてた。運が悪かったの」
リンはズズっとお茶を啜る。
「そんな一人でいた私をマスターが助けてくれた。私は助けてくれたマスターが大好きだし、私を受け入れてくれるみんなが大好きなんだ。
それで分かった。この世界は敵ばかりじゃないって…ソーマにも私が見てきた優しい世界を好きになって欲しい。でもやり方わからないから私の好きなものを見せてみた。
結果は大成功で嬉しい」
リンはそう言って俺の方を向きムフフと微笑んでいる。そっか…この子も…
「俺の世界では魔法がそもそもないからわかんねぇけど。俺も実の両親が蒸発してずっと一人だったよ。親戚からタライ回しだし。
だから分かるよ。一人が辛いのもそんな自分を受け入れてくれる人を大切に思う気持ちも」
「そっか…ソーマも同じだね」
「どーだろ…。でもリンは親戚とか頼れる人がいなかった訳だよな?
それでもマスターと出会うまで一人で頑張ってきたんだろ?それだけでも凄いと思うよ」
この世界がどんなルールで動いてんのかしらないけど、日本ならば親戚が預かるとか施設に入れるとか色々手段はある。いやでも…中にはそれすら叶わない子もいるんだよな。
俺って結構恵まれてたんだな。
「ふぅ…俺ってかなり甘えた性格してたんだな…」
俺のは不幸自慢じゃん。痛いやつじゃん。そんな俯く俺をリンは不思議そうに見つめている。
「リン?今日はドタバタしてアレだったけど今度ゆっくりまた此処来ようよ。弁当とか持ってピクニックとか」
「!いいの?!」
「うん。カエルの合唱聞いて飯食うのも乙だろ?」
「ムフ…ムフフフフフ♡素敵だね…。そうと決まれば約束だよソーマ」
「あいよ」
俺とリンは二個目の約束として指切りをした。隣で口を緩めてニヨニヨしてる幸せそうなリンを見ているとこちらまで嬉しくなる。
…リンの作戦は大成功だよ。俺はこの世界をちゃんと好きになれそうだ。
「…ねぇソーマ?」
「ん?」
「ムフフ…何でもない…」
「なんだよもう…ふふ」
『おわってくんないかな…この茶番』
リンと俺かなり仲良くなった気がする。未だかつて同年代の女の子と此処まで仲良くなれたのは初めてである。
…スピカの言動は無視することにしよう。
「…ふ…ふふふ見つけたぞ!ソーマたん!」
しかしそこに変態がやってきた。
「よーしソーマたん!私と共にお家に帰rガバ!!」
しかし変態…改めてグラセルの顎に思いっきり何かが当たった。
なんかソウルイーター戦でもみた隆起した土の山(毒液トッピング)である。
てことは…
俺は魔法を発動したであろうリンの方をみた。
見るとリンは目が座っていてその目の奥に光がまるでない。
自身の杖を右手で持ち、左手の掌にバシンバシンと苛立たしげに杖をぶつけている。
そして…
「チッ…」
と舌打ちし始めた。え?リンさん?何かめっちゃ怖いんですけど?
「フェ…フェルナンド嬢?」
「ハァ…どうしよう。今まで我慢してたけど…我慢の限界…」
顎を撫でながら涙目のグラセルが様子のおかしいリンを見つめている。分かるのはリンから圧倒的な強者のオーラが出ていることだけであった。
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