第23話 チート性能と脳内会話の話聞く?

 「よし!着いたぞ」

 ザックに案内されて俺とリンがやってきたのは工房の裏手にある塀に囲まれた空き地である。その中にはカカシの様な人形が立っている。

 

 「何だ…この場所は…」

 「此処にきたのは初めてか?此処は街の警備隊が使ってた稽古場所であり手に入れたい武器の試し切りとか試し撃ちができる広場なんだ。

 今じゃあ警備隊には新しい修練場が出来ちまったし折角だし勿体ねぇからうちの工房専用の試し切り場にさせて貰ったんだよ!」


 爽やかに笑うザック。だからかカカシ達はボロボロであり、剣で切られた部分や的みたいなのが描いてあってそこに穴が開いてたりしてる。もしかして弓とかも作ってんのか?

 夜に見たらきっとトラウマ物だろう。


 「…この子欲しい…」

 「あ…いやそれ売り物じゃ無いんだけど?」

 「お金は弾む。売ってほしい」

 「いやあのな?」


 何故かリンはカカシのうちの一体を気に入り購入しようとザックに迫っていた。ザックはタジタジ。カカシは他のに比べて小さくこじんまりしてる。

 「いやそれ…小さい魔物を想定して作ってるカカシだから」

 ザックが断り続けるがリンはじっとザックを見つめる。


 コミュ障どうした。アイツ本当慣れるか我が道を突っ走ろうとするといきなり治るの何なの?何であそこまで遠慮がなくなるんだ?


 「あー分かった!分かったよ!売るよ!うう…またあの地獄みてーな細かい作業するのか…」

 「やった。これからよろしく"マイケル"」

 落ち込むザックに反してリンはキラキラと目を輝かせてカカシに名前をつけて抱きしめている。


 どういうセンスなのだろうか…。


 「いやんな事よりザック?試し切りして良いのか?」

 「あ…うん。最初だから1番でかいあのカカシ使え。狙いやすいだろ?」


 ザックが指定したのは広場の真ん中にあるデカいカカシ。巨大なそのカカシが見下ろしている。

 「えっと俺初心者だけど…」

 つい圧倒されるがザックがサムズアップしている。


 仕方あるまい。相手は動かないのだ。俺は剣を抜いた。そして

 「行くぞ!」

 と自分自身に掛け声をかけてカカシに剣を振るう。…その瞬間。


 『ふ…ワシの出番の様じゃな』


 「え?」

 俺は少しビビった。今俺の脳内で声が響いた。その声はあの時聞いたスピカの声。


 しかし俺の体はそのままカカシに切り掛かるが…その一瞬の出来事だった。


 俺が横に振った剣…その振った軌道が彗星の様な青白い光を放った。そしてその周りから今度は紫と青のグラデーションのかかった…輝く衝撃波が飛び出して…そして


 彗星の如く描かれた軌道は目の前のデカいカカシを裂き、そしてそこから飛び散った衝撃波が周辺の全てのカカシを切り裂いたのである。

 全てが真っ二つ。


 「は…?」

 俺は思わず呆気に取られた。俺が降ったのはたったの一振りである。それだけで全て…10体以上のカカシを綺麗に真っ二つにしてしまった。そんな光景に一瞬戸惑うが衝撃波が地面に着地した瞬間とんでもない力の風が襲い掛かり、一瞬にして止んだ。


 「え…」

 思わず自分が手にした剣を見つめる。剣に異常は無く依然美しい夜空を映している。しかし脳内で

 『ほっほっほ!さっすがワシじゃ!しかしちとやり過ぎたか?少し出力を抑えねば…おい小僧!貴様も剣の腕を磨け!これでは剣の威力を調節し辛いではないか!』


 とスピカの怒り声が聞こえた。まさかアイツが俺に言ってたのって…

 「…これのこと…」

 唖然とするしかない。だが


 「す…スゲェ…すげぇよ!ソーマ!」

 「うわ!」

 ザックが大興奮で俺の肩を掴み背中をバンバン叩いてくる。痛い…。


 「お前本当に初心者なのか?本当は剣の達人とかじゃないのか?」

 「い…いや俺は本当に初心者で…」

 「ソーマすごい。これならアシュリカにすぐに追いつける」

 「いやだから…この剣が勝手に!」


 ザックとリンは俺自身の力と思ったらしく褒めちぎる。いやいや待て待て!

 「待ってって!本当に俺の力じゃ無いんだよ!この剣が勝手に変な衝撃波を撃ったんだよ!」

 「え?いや何言ってんだよ。剣が勝手にんなやべぇの出すなんて聞いたことないぞ?

 そりゃあ伝説の武器みたいなのにはそう言うのできる奴があるとは聞いたことあるけど…

 その剣は別に伝説じゃないし、他の家庭でも飾りとして使ってるぐらいは普及してんだぞ?

 俺は何もしてないし…」

 「それはそう。私もそんな剣見たことない。結局武器の持ち味を活かせるのは使用者。つまりソーマ自身が強い」


 しかし俺の訴え虚しく二人は首を傾げて否定する。

 『何じゃ!変な衝撃波とは!衝撃波は良いが"変な"をつけるでない!』

 「ならお前からも説明しろよ!スピカ!」


 そうだ!元々の元凶はこいつだ。ていうか自分の実力じゃないのに褒められるのは罪悪感で死にそうになる。こいつに説明させれば流石に納得する筈…だが…


 「ソーマ?誰と話してんだ?」

 「説明しろって言われても私達もわからない。スピカって誰?」

 「え?聞こえないの?」

 「「何が?」」


 スピカはバカにする様に俺に告げた。

 『ワシの声はお主にしか聞こえぬぞ?お主がワシに話しかけても他の奴らからしたら一人で喋る変わり者としか思われん』

 「う…嘘だろ…」


 てことはコイツらは俺の実力を過大評価し続けるしこんなムカつく声を俺一人で相手せねばならんのか。

 『ムカつくとはどう言う意味だ』

 …。


 「なぁザック?他の剣はないかな?」

 「え?」

 「だって俺の実力とは多分合わないよ。こんな素晴らしい剣はもっと他の人に…」

 『お…おい!お主まさか手放す気か!ふざけるな!』

 ギャーギャーウルセェ…。だってなんかズルみたいじゃんこんなの…。


 だが

 「そっか…。折角ソーマに作ったんだけど…気に入らなかったなら仕方ないよな。大丈夫だよ。お前に合うやつ持ってくるから」

 とザックが少し寂しそうに告げる。

 一方リンはうわぁという冷めた目で俺を見てくる。…。



 ◇



 「いやぁソーマ!お前あんまタチ悪い冗談やめろよ?」

 「う…うん。ごめんなさい。やり過ぎた」

 「ソーマ言ってダメな事といい事の区別ちゃんとつけないとダメだよ。お姉さんからの忠告」


 と結局俺は夜明を受け取ることにした。だってザックが可哀想だしリンは冷たい目で見てくるしで耐えられなかった。

 リンからは注意を受けた。そんな様子を

 『ひゃーはっはっ!ワシを手放そうとした報いじゃ!ひゃーはっはっ』

 とめっちゃ煽ってくるスピカ。…アイツがあんな小さい女の子じゃ無くて…同い年かそれより年上の男だったら速攻殴るのに…。こんのクソガキが…。


 「ソーマ。これからももし剣にヒビが入ったとか錆びたとか不具合が起こったら言えよ。メンテナンスしてやる。

 ま!ダチとはいえ俺も商売だから金は貰うけどな!アッハッハ!」

 そう言って上機嫌に俺の背中をバシバシ叩くザック。


 いや金払うのはいいんだ…。もう誰にも直せない欠陥があるのでそれだけはどうにかして欲しい。

 …待てよ。


 「(スピカ?聞こえるか?)」

 『聞こえとるぞ?何じゃ?』

 俺が心の中で念じるとどうやら奴に届いた様だ。


 「(頼むから暫くはさっきみたいなのはやめてくれ!あんなの唯のズルだろうが!)」

 『はぁ!?何を言うか!お主はズブの素人じゃろうて。そんなお主がワシのサポートなしで剣を扱えるのか?』

 「(そりゃあ素人だけど…これはダメだろう?もうチートだろ?だから…)」

 『チート?よく分からんが…はいはい。ならばお主のサポートを最低限戦力になれる程度でしてやる。それで文句あるまい?但し!お主の本当の実力が向上したらワシは遠慮せんからな!』


 途中で機嫌が悪くなるスピカ。チートは魅力的だが、何も努力もしないで強くなるのはなんか…本当に努力して強くなった人に失礼な気がする。

 なんて先日俺やリンを助けてくれたアシュリカの姿を思い出す。


 『ふーん?お主。そのおなごに惚れとるのか?』

 「(ば…バカ!ちげーよ!ただまぁ憧れの人ではある。あの人は努力して最強になったんだ。

 だからこそ俺はあの人みたいにきちんとした過程を踏んで強くなりたいんだよ!)」

 『ふーん?本当はズルする事に罪悪感を感じたく無いだけなんじゃないのか?』

 「(…ギク…)」

 『冗談じゃ。ではワシは眠るでな。ふわぁ…おやしゅみ…』


 そんな言葉を残してスピカからの声が途絶えた。まぁ分かってくれたみたいだし…大丈夫か?

 「ソーマ。今日なんか変だね」

 「うん…昨日色々あり過ぎて疲れたからかな…」

 「そっか…ならそんなソーマを良いところにご招待する」

 「へ?」


 リンから手を引かれて俺たちはザックの店を後にする。

 「また来いよ!…しっかし…」

 ちなみに…ザックがその後俺が切ってしまったカカシ達を見て項垂れていたのはまた別の話である。

 「これ…徹夜かな…ハァ…」

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