第22話 謎空間と少女の話聞く?

 「此処…何処だ?」

 俺は確かにザックの工房にいた。しかし今俺がいる空間はそれとかけ離れている。


 俺がいる空間は宇宙の中の様だった。下も上も横も何もかもが無限の星空が広がっている。

 試しに歩くときちんと地面のような感触がするが、それも何かプルプルしていて変な感じだし、足をつけた瞬間に地面に映る宇宙が揺らめき波紋を描く。


 恐ろしい程に美しい宇宙空間。周りに散らばる無数の星々。青や紫、黒で彩られたグラデーション。それらは俺が最後に見た剣と同じ色をしていた。

 

 「リーン!ザック!何処にいるんだ!おーい!」

 俺は今まで一緒にいた二人の名前を呼ぶ。しかし二人の声は聞こえない。…だが


 「ほう?こんな所に客人とは珍しいな?」


 何者かの声がした。俺はバッとその声の主がいる方向を見る。

 そこにいたのは幼い少女だ。恐らく小学生高学年ぐらいかな?


 その子はじっとこちらを見ていた。真っ黒のストレートの長い髪にはまるで星空のように銀の粒が振り掛けられてキラキラ光っている。

 服装は今いる宇宙空間に溶け込みそうな色合いのシンプルデザインのノースリーブのワンピース。


 足は裸足。顔立ちは精巧に作られた人形の様に恐ろしいほどの美しさを誇っていて、その瞳にも宇宙が閉じ込められてる様に見える綺麗な紫色だ。

 神秘的なその少女。人の気配がないこの空間にいる時点で色々怪しい。


 「…君は?」

 「人に名乗らせる前に自分の名を言え」

 …生意気な子だな…。少しムッとしたが取り敢えず名乗ることにした。


 「俺はソーマ。君は?」

 「ワシの名は"スピカ"。この空間…"たましい終着点しゅうちゃくてん"の住人じゃ」

 …たましいの…終着点しゅうちゃくてん


 「此処らに広がる無数の星…これは人々の死した魂の煌めきなのじゃ。ワシは此処に存在しそれらの記憶や得た力…その全てを覗き見る事ができる」

 「一体何者なんだ…」

 「さあな。ワシも知らん。いつのまにか生まれ、そしてこの空間に住んでいるのだ。この空間でワシ以外の形を保った魂に会えるとは思っておらんかったわい」


 スピカはそう言って俺の方をじっとまた見つめた。そしてニマッと笑った。

 「所で小僧。お主が此処に来る前に何をしてたか覚えてたか?」

 「え?剣を見つめてただけだけど?」

 何故か自分より年下の女の子に小僧呼ばりされた…。少し悔しい…。


 スピカか俺の言葉におお!と声を上げた。

 「それは良い事を聞いたな。なるほどな。…ならばよし!良い暇つぶしができそうだ」

 「へ?どういう事?」

 「これからワシが直々にお主の剣として力を貸してやろう。なーにワシは沢山の魂の記憶を読み解く事ができるし模倣することもできるのだ。

 この能力があればお主を素晴らしい剣士に育て上げる事ができる!これからはワシを師と仰げ!」


 スピカがそう宣言した瞬間突然俺の足元から泡が出てきて、俺の体を包み込んだ。状況全くわからないんですけど!?

 「ソーマよ。お主とはまたいずれ会う時があるであろう。…ふふ…少しは暇つぶしが出来そだな」


 スピカのそんな楽しそうな声を聞きながら俺の体はシャボン玉に運ばれてそして浮上していった。



 ◇



 「…マ?…ーマ…ソーマ!」

 「は!あれ?」


 気がつくと俺は剣を持って鍛治工房にいた。そして周りにはリンとザックが心配そうに見ている。

 何だったんだ今の…。


 「大丈夫?ボーッとしてたけど…」

 「え?うん。大丈夫」

 魂の終着点に謎の少女。スピカ…。あれは一体何なのだろうか…。


 「ソーマ平気か?」

 「うん大丈夫。それよりザック。この剣は一体…」

 この剣を見てから急にあんな空間に迷い込んでいたのだ。恐らくこの剣に何か秘密が隠されてるのかもしれない。


 「それはな。お前が持ってた剣と余った魂喰の奇石ロスト・ソウルを使って作った剣。

 題して"夜明デイブレイク"だ!

 ほらお前初めて冒険家になっただろ?だからお前の冒険家デビューを記念して夜明けって意味を込めたんだ。

 それにこの刀身みてみろよ。魂喰の奇石ロスト・ソウル使うとスゲェ綺麗な夜空みたいな色がつくんだ」


 確かに夜空みたいな色ではある。しかしザックの説明を聞く限りあまりさっきの空間とつながらない。

 するとザックが渋い顔してただなぁと声を出した。

 「魂喰の奇石ロスト・ソウルは生物の生命力を吸い取る性質があるだろ?そのせいかその石を素材にした武器や防具の持ち主は早死にするんだと」


 たましい終着点しゅうちゃくてん…魂を吸い取る石。何だろ…やっぱり何か関係あんのかな?

 「んで、ソーマの場合はゾンビだから生命力とか関係ないだろ?だから作って渡したんだ。

 何よりこの石は強度も高いから高性能の装備品が作れるんだ。

 だからお前がこの剣使えばその性能をフル活用できるって訳。しかも性能だけなら最高品質だ。どうだ?もらってくれるか?」


 夜明デイブレイク…確かに色々と気になる部分もある。…それに何よりもこの剣がめっちゃフィットする。まさしく俺のためにあるとさえ思えるのだ。


 「うん。有難く貰うよ。有難うザック」

 「良かったねソーマ」

 リンは小さく微笑んでいる。するとザックから

 「なぁソーマ?試しにその剣使ってみないか?」

 「へ?」

 「いやぁ気になってさ!俺がするのもいいんだけど俺がすると死んじまうかもだし…」


 確かに俺は死なないから関係ないけど…それにスピカの言ってた言葉が気になるのでその提案に乗る事にした。

 「良いよ」

 「よっしゃあ!サンキュー!んじゃあまちょっと俺についてきてくれ」


 俺とリンはザックの後をついて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る