第18話 最強の女戦士の話聞く?

 とまぁ…訳の分からない変態同士のバトルは結局…


 可愛すぎる俺が悪いという結論に落ち着いた。

 何を言ってるか分からないって?俺も分からないし口に出すだけで噴死しそうだ。俺の何処が可愛いのかはさておき俺達はグラセルの案内でギルドの中庭に案内された。


 中庭は広く周囲には薔薇が咲き乱れている。


 そんな中庭を見渡すとグラセルが俺に近づき腰を抱いて引き寄せ、そして赤い薔薇を俺に差し出した。

 「愛してるよ…マイハニー…」

 と俺の手に薔薇を握らせた。その途端に俺の肌にサブイボができた。


 キモいし…多分このアプローチは女の子にもウケない。サムイ。 

 するとマスターが鬼の様な形相で俺が貰った薔薇を奪いぽいと捨てた。そして

 「あ…手が滑った…」

 「ごは!」

 思いっきりグラセルの頬をぶん殴っている。


 何て美しい右ストレートだろうか。

 「く…き…貴様…」

 「だから手が滑ったのよ。ごめんなさいねぇ。それより早く決闘始めましょ?早いとここんな悪趣味な場所から出て行きたいのよ…ハァ…」

 「こ…このアマ覚えてろよ…。来い!サイモン!」


 そんな掛け声をあげると何処からか男の野太い声と地響きが聞こえる。ギルドの中から中庭の方にサイモンが移動してきた。しかも手には鎖のついた棘付き鉄球。RPGで見た事ある。モーニングスターとかいう武器を持っていた。

 「来たか…」

 アシュリカはサイモンの方を見つめている。


 改めて見るとアシュリカとサイモンの体格の差はやばい。大丈夫なのか?細身の女性にこんな大柄な大男が相手なんて不利だろ…。


 そんな俺の考えを読み取ったのかリンが俺の肩をポンと叩いた。

 「大丈夫だよ。アシュリカはうちのギルドでは最強の強さを持つ。そんじゃそこらの魔物にもそして人間にも負けない」

 「いや…でも…」

 それでも見てて不安なのだ。だがリンは俺に強い意志の宿った目を向けて一言。


 「アシュリカを信じて」

 と。



 ◇



 「ではこれより決闘を開始する。私がバトルスタートと言ったら開始だ。

 勝敗はどちらかが戦闘不能になったら終了。若しくは降参を宣言したら言わせた方が勝者だ。サイモンに関しては私がもうバトル続行不可と判断したら降参とみなす。


 勿論殺害はNG。サイモンがセレス嬢を殺害すればこちらの過失により賠償と敗北を、逆にセレス嬢がサイモンを修復不可まで破損させれば其方には賠償はないが、其方の敗北と見做す。


 サイモンにはバトルスタートの合図と共にリミッターを外して本能に任せてバトルをしてもらう。万が一私に何かあれば決闘が中止になってしまうからな。…ここまでは宜しいか?」


 グラセルが決闘のルールを説明する。…破損…そっかゾンビって死んでるからもう死の概念なんて超越してるのか…。だから修復不可っていうのがゾンビにとっての二度目の死であり蘇ることのできない状態なんだ。


 「大丈夫だ」

 「宜しい。次に今回賭けるものについてだ。サイモンが勝利した場合は…」

 とグラセルが言いかけると何やら箱を取り出した。するとそこから


 真っ白い…ウェンディングドレスが出てきた…待って…それ誰に着せる気なの?

 「これを…ソーマたんに着てもらい!私と結婚してもらうぞ!ハァハァ♡」

 「いやぁぁああ!頑張って下さい!アシュリカ姐さん!」

 そんなの着たくないしそれ着た自分を想像したら吐き気がした。誰得なの?


 「く…悔しいけど良いチョイスじゃないの…」

 マスターは何か悔しがってるし…


 「それとフェルナンド嬢の身柄を我ギルドに移して貰おう。何せソーマたんを生み出したんだ。そんな優秀な死霊術士しりょうじゅつし。逃すのは惜しい!」

 「…何かついでって感じがムカつく…」

 リンはぷくりと頬っぺたを膨らまして怒っている。


 「そして…セレス嬢は何か希望はあるかい?君が勝利した場合は何か欲するものはあるかな?」

 「私はリンとソーマを守れればそれでいい。強いて言うならリンへのしつこい勧誘とソーマへのしつこいアプローチを辞めろ。私が求めるのはそれだけだ」


 とアシュリカは何とも欲の無い返答を出した。…アシュリカ姐さん。俺女だったら絶対アンタに惚れてたよ。

 「ほう…何て無欲な。どっかのマスターにも見習って欲しいぐらいだよ」

 「どう言う意味よ。殺すわよ?」


 マスターってブーメランっていう言葉を知らない人ばかりなのか?それとも変態しかなれないのか?

 「それでは両者位置に着くのだ」


 そんな俺の疑問を尻目にグラセルが合図を送るとアシュリカとサイモンが向かい合わせになり睨み合って位置に着く。そして等々…その時がやってきた。


 「バトル…スタート!」


 グラセルが合図を送った。その瞬間に両者は動き出した。



 ◇



 合図が送られた瞬間、アシュリカは素早く自身の腰に携えた剣を鞘から取り出した。

 アシュリカの剣は手入れがされていると分かるぐらいにキラキラと怪しく光っている。銀の刀身は何でも切り裂けそうだ。


 そしてそのままアシュリカはサイモンに向かって急接近していく。するとサイモンが

 「ギガァァァア!」

 と汚い声をあげてモーニングスターを振り下ろした。…だが


 「遅い…」

 その瞬間は俺にもよく見えなかった。けれどアシュリカが剣を持つ手を動かした瞬間にモーニングスターが粉々に砕け散った。

 鉄球部分は微塵切りの様にパラパラと鉄のカケラに、鎖もバラバラにされて部品が断裂している。


 「うそ…だろ?鉄が切れてる…」

 「ね?アシュリカは強い。あの子に勝てる人なんて見た事ないよ」

 異次元である。剣で鉄を切る?それも俺が素人とはいえだ。見えないスピードで剣を動かして硬い武器をあそこまで粉々に切れるものなのか?


 「ソーマ君。ちゃんと見ててね」

 「え?」

 ソーマきゅんではなくてソーマ君?いきなり真剣な顔をしたマスターについ驚いてしまった。


 「あの子は最強よ。けれどそれまでに沢山の努力をしてきたのよ。ソーマ君。貴方はまだ素人の冒険家。でもね?いつかは…もしかしたらあの子のように強くなれるかもしれない。

 あの子の戦いぶりしっかり見てあげてね?」

 そう言ってマスターは俺に微笑んだ。…マスターがマスターらしいことに少しびっくりはしたが


 「はい…」

 としか言えなかった。


 そして俺はアシュリカの戦いぶりを観察していた。アシュリカの手で武器を砕かれたサイモン。今度は自身の拳をアシュリカに放つ。

 だがアシュリカはこれを軽い身のこなしで避けた。


 サイモンの放った拳は地面にめり込んでいた。サイモンの馬鹿力もびっくりだが、あんな鎧をつけているのに軽く動けるアシュリカにびっくりだ。

 そして

 「これで終わりだ」


 着地したアシュリカはサイモンが再び振りかぶったその瞬間に物凄いスピードでサイモンの横を通った。その瞬間に

 「ぐ…ぐがぁぁあ…」


 サイモンがズンと地面に倒れた。

 「峰打ちだ。また出直せ」

 アシュリカは地面に伏すサイモンに言い放つ。


 決闘の時間は僅か数分。

 「…スゲェ…」


 アシュリカの勝利が決まった瞬間だった。

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