第12話 変態マスターの話聞く?

 血の海と化したマスターの部屋から脱出した俺達三人。俺はもう頭がパニックである。アシュリカが俺を床に下ろすとすぐに問い詰めた。

 「あ…あの人どうしたんですか!?いきなり鼻血めっちゃ出してましたけど!」


 少し恐怖が湧いて涙が出てきた。するとアシュリカは少し渋い顔をしてどう説明すべきか悩んでいる。するとリンが

 「マスターは15歳以下の少年を見ると興奮する変態さんなんだ」

 と淡々と述べた。


 …は?


 「え…ショタ…コン?」

 「うん多分。どこからがショタに入るかはよく分からないけど…」

 とリンは無表情で説明してきた。ていうかショタコンって通じるんだ…。てことは最初に俺に年齢聞いてきたのはそのせいなのか?


 いやでもなぁ…俺自分で言うのもアレだけどかなり平凡な見た目なんだよな。それに加えて今は血色悪いし右目はないし…。俺の目立つ部分なんて名前だけだよ?

 それすらも異世界来てから何かへんちくりんに聞こえるし…。


 「あのさ…俺平凡な普通の見た目なんだよ?そう言うのってもっとこうキラキラした美少年とかの方に興味行かないかな?」

 「マスターは確かに美少年も好き。けどソーマみたいな平凡な子?どちらかというと可愛いかなって子がドストライク」

 「嬉しくねぇ…」


 だから可愛いって言われても嬉しくねぇよ。

 何なんだこの世界は?美的感覚狂ってんのか?


 「マスターは確かに変態だしショタコンだし一歩間違えれば変質者として連行されそうなお人ではあるが…」

 「いや結構いいますやん…」

 「けどな?嗚呼見えて本当はギルドの事を誰よりも考えておられる。それにとても慈悲深い緒方だ。決して好みだけでギルドメンバーを決めてる訳ではない。…まぁ変態だが」


 下げて上げて落としてのアシュリカのマスターへの評価は変態に落ち着いた。

 「マスターは優しい。ひとりぼっちの私を受け入れてくれた。まるでお母さんみたいな人」

 「…ろ…ロリコンの気は?」

 「ないと思う。今までも見てきて幼女を見て興奮したところ見た事ない。それに私は16歳

 マスターの好みからは外れている」


 確かに15歳以下っていってたもん…え…

 「え…お…お前…16なの?」

 「うん」

 「お…俺より年上なの?てっきり同い年か年下だと思ってたのに…」

 「むふふ…私の方がお姉さんだね」


 マジか…失礼とは思うけどリンの見た目って小柄だし童顔だし、コミュ症もあってなんか放っておけないしでずっと年下だと思ってた…。

 

 「因みに私は18だ」

 「え…大人っぽいから20過ぎてると思ってた…」

 アシュリカの方も意外と若い。凛々しいし背も高いし大人っぽいからもっと上だと思ってた。年齢詐欺多いな。あれ?てことはあのマスターも?


 「マスターは25」

 …うん…年相応だった。


 とそんな話をしていると扉の向こうから

 「綺麗になったよ」

 と声が聞こえた。今度は大丈夫なのか?とかこの短時間であの惨状を何とかできたのか?とか色々と疑問は湧くが取り敢えず入ってみる事にした。



 ◇



 「失礼します」

 俺達三人は挨拶して部屋に入った。驚くべき事に部屋は元の真っ白ツルツルの部屋に戻っていた。血の跡なんて一切ない。

 そして目の前のマスターも着替えた様で今度は白い肩がガッツリ出ているセーターと黒いストッキングに白いヒールのついたブーツという先程より庶民的な服装をしていた。

 顔も血の跡がなく、綺麗になっている。


 そんなマスターは椅子から立ち上がりそして

 「先程はごめんなさい。私はこのギルドのマスターである"ウルシエラ・エルトリオ"と言います。貴方の名前はソーマきゅ…君ね?」


 と冷静に微笑みながら自己紹介していた。…良かった今回はいけそうである。

 「はい!あ…俺も改めまして"ソーマ・シラヌイ"です。宜しくお願いします」

 と頭を下げた。


 すると

 「ハァハァ♡す…素直で礼儀正しいなんて調教しがいありゅうう♡」

 と小さなそしてとんでもなく不穏な言葉が聞こえた。


 俺は冷や汗を流して声のする方を見るがマスターは不思議そうに首を傾げている。…気のせいか?

 

 「それで…ソーマ君?シラヌイなんてホームネームは聞いた事ないけど貴方はどこから来たの?」

 と問われた。この人もしかして俺が異世界から来たのに気づいてるのか?


 「実はね?ここから少し遠いんだけど"カルディル王国"の王様が異世界召喚の儀を失敗したって噂になってたの…。

 もしかしてそれと関係ある?」

 「…カルディル王国は関係あるのかは分かりませんが…」


 どうやらこの人は本当に見抜いてる様だ。マスターの瞳は鋭く光っている。唯の変態ではなさそうである。俺は素直に異世界から来た事を明かす事にした。


 「い…異世界だと?まさか召喚の際に何らかの形で命を落としたのか!己…カルディル王国の連中めが!」

 「いやあの….アシュリカさん?だから俺はこの世界に来る前に既に…」

 「カルディル王国を滅ぼすべきなのか?」

 「話きいて!?」


 アシュリカはアシュリカで暴走してるしとんでもない勘違いをしていた。そんな様子をリンはドヤ顔で見ていて

 「私は既に知っていた…」

 と目をキラーンと輝かせた。何を得意げにしてるのかサッパリ分からん。


 そしてマスターは顎に手を添えて

 「なるほどね…死んだ状態で転移されて…その後恐らく死んだソーマ君を見て失敗したと判断した王族の誰かがソーマ君の死体を捨てる様に命じた。

 そしてそれをリンが偶然見つけてゾンビ化させたというわけか…」


 と時系列を推理している。すげぇ…普通異世界転移なんて信じ難い筈なのに受け入れてくれてるし、そこまで推理してるとは…。

 

 「成程成程…だとソーマ君には身寄りがないのね。戸籍の方はまぁリンの使役ゾンビで身元不明ってことにすれば何とかなるわね。よし!

 ソーマ君!君を正式に我がギルドに迎えましょう!」


 と腕を上げてマスターが宣言した。すげぇあっさりしたテンションで俺の職業決まっちゃった。そんなマスターにリンとアシュリカが、ワーっ!と手を叩いている。

 リン?どこから出したんだ?その紙吹雪は…


 いやでも

 「あの…話は嬉しいんですけど…俺ゾンビですよ?俺なんか入れたらこのギルドのイメージ悪くなりますよね?大丈夫なんですか?」


 ゾンビは世間的に嫌われ者だ。俺みたいなの入れたら今日みたいな入団希望者の数は望めない気がする。それに他のギルドメンバーが認めるのか?

 と俺が不安がっているとまたもやマスターが俺に近づきそして肩をガッチリ掴んできた。


 …あれ?デジャブ?何かハァハァ言ってるけど…

 「ソーマ君…貴方はわかってないわ…」

 「え?」

 

 マスターは目をギラつかせ、顔を上げた。


 「いい?ゾンビになったって事は貴方は永遠の14歳!15歳以下の男の子…。14歳なんてそれこそ大人にもそして子供にもなりきれない体!

 その体は正に禁断の蒼い果実でもありこれから熟す寸前でもある!


 けれど永遠の14歳!熟し切る事は永遠にない!その焦らす様な感じがゾクゾクしちゃうの!ハァハァ♡じゅるり♡

 それに何より!貴方の体型は大人か子供かっていうとどちらかというと子供に近いあどけなさがあるのよ!


 ゾンビだから何!?寧ろ上等よ!血色の悪い体はお姉ちゃんの体で抱きしめ温めて上げたいくらいよ!何なら一緒にお風呂だって入って入念に体をゴシゴシして上げたい!何が3Kよ!


 怖い?可愛いの間違いでしょうが!汚い?なら私がソーマきゅんのその体をゴシゴシ毎日それはそれは入念に洗ってあげるわ!

 臭い?寧ろクンカクンカしてぺろぺろしてやりたいくらいよ!


 後はもう顔面がマジで好みドストライク!平凡に見えるその顔は少年特有のあどけなさがあって最高よ♡それにその包帯と光のない死んだ魚みたいな目が危うさを醸し出してるわん♡


 ハァハァ♡こ…これがソーマきゅんの魅力よ♡あれ?どうしたの?そんな震えて…ハァハァきゃわいい♡お姉ちゃんが慰めてあげるぅ♡」


 いやぁぁぁぁ!コワイヨォおおお!変態がいるよぉぉぉ!しかもノンブレスで言い切ったよぉおお!


 体がガタガタ震える。そんな俺を見かねたアシュリカが

 「えと…マスター?そろそろ…」

 「だまらっしゃい!ハァハァソーマきゅぅうん♡お…お願いお姉ちゃんって呼んでェェ♡ハァハァ♡」

 「ひぃいい!は…離して下さい!」

 「ハァハァ♡お姉ちゃんから離れるなんて悪い子ね♡ほらほら♡お姉ちゃんって言うまで離さないわよぉ♡」


 い…いやだ…怖い…うう…め…めっちゃこえぇけど…言うしかないのか…


 「お…」

 「お?」

 

 「お…お姉ちゃん…は…離してよ…」

 


 ◇



 -マスターside(※三人称視点)

 その時…マスターウルシエラの目の前は楽園へと染まった。

 目の前にいる永遠の14歳を約束された青い果実が涙目かつ上目遣いでプルプル震えながらお姉ちゃんと呼んでくれたのである。


 その瞬間の光景はきっとウルシエラは忘れないだろう。そして彼女は唯一言こう心の中でつぶやいた。


 …最高…と。

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