第10話 美しき女戦士の話聞く?

 「…ハァ…」

 今現在俺はとてつもなく憂鬱な気分である。

 というのも今俺の周囲でヒソヒソと話す声に冷た嫌な空気。滅茶苦茶きつい。ゾンビって嫌われてるって言うけど…どうしてこんな目に…。


 すると

 「だ…大丈夫だから…私が守る」

 とそんな俺の所にリンが震えながらやって来た。そして俺を背に守る様に立って

 

 「こ…この子は私の友達!人を襲わない!とても優しい私の…た…大切な友達だから…その…や…やめてください…」

 と少しずつ声は小さくなるものの…プルプル震えるものの…それでも俺を集まる悪意から庇おうとしてくれる。


 「…リン有難うな?でもこのままだと居辛いだろ?…今までありがと…」

 「そ…ソーマは何も悪い事してない!」

 しかし俺は首を振る。確かに一緒にいるとは約束した。けれどリンにまで悪意が襲うのは嫌なのだ。俺は早くこの町を抜けた方が良さそうである。


 「約束守れなくてごめんな?」

 「駄目だよ…ソーマ!行っちゃやだよ!」

 リンが俺の腕を掴む。そんな俺達の姿を冷ややかな目が襲う。


 しかしそんな中

 「待て!」

 と一人の凛々しい女性の声が聞こえた。


 するとギルドにいる全ての人々の目がその声のする方に向けられた。俺やリンもその方向に目を向けた。その瞬間俺は息を呑んだ。


 その女性はとても美しかった。太陽の光を沢山集めた様な金色の長い髪を高い位置でポニーテールにしていて、彼女が歩くと風の様に靡く。


 そしてその顔立ちは凛としていて、キリッとした凛々しい目が特徴的だ。瞳はエメラルドの様に…そして強く輝いていた。


 そして長身にスラッとした体型。歩く姿はまるで歴戦の戦士の様な凛々しさと強さがあり、周囲の人々はそんな彼女を惚けた顔で見つめながらも進行方向を邪魔しない様に避けていく。


 服装は鎧で固められていた。その鎧も特殊でまるでドレスの様に裾が広がっていく。その姿はまさに戦女神の様である。


 そして彼女は俺の目の前に立った。そしてリンに

 「リン…お前には勇気がある。まさか人と話すのが苦手なお前が庇うとはな…。余程その少年が大切なのだな」

 と優しく微笑んだ。その顔は女神の様に美しい。そして今度は俺に


 「少年。君は誇って良い。私達の仲間を守ろうとしてくれた事感謝する。そしてゾンビという存在は確かに忌み嫌われている。しかし君はそれすらを利用してそして自分が陥れられる状況になるかもしれないのに人を守ろうとするその心。

 私は君を褒め称えたい」

 

 そう言って俺に手甲を纏った右手を差し出した。

 「私の名は"アシュリカ・セレス"。女神の愛子アテナ・ファミーユに所属する戦士だ。宜しくな」

 と…。


 「お…俺はソーマ・シラヌイです!…えとありがとうございます」

 そう言って俺も右手を差し出した。するとアシュリカは俺の手をぎゅっと握ってくれた。


 そして手を離してすぐに目をキツくし、周囲を睨みつけた。

 「そして…貴様ら。貴様らは我が女神の愛子の正式な仲間ではあるまい…。何より我らのギルドにおいて受付嬢へのセクハラ行為に、それを助けようともしない傍観者。そして勇気ある少年とその少年を守ろうとする少女を冒涜する様な行為…。


 いい加減我慢ならん!マスターのお心が広いから見過ごしてはいたが…アシュリカ・セレスの名において今日この場にきた正式メンバーではない全ての冒険者は全員失格とする!

 

 そして…逃げるな!愚か者目が!」


 そう言ってアシュリカは腰に携えたピカピカの剣を思いっきり投げた。すると投げた先には例のオッサンがいた。剣はオッサンの頬を掠めた。

 「ひ…ひひひひ」

 オッサンは恐怖で気絶した。


 「何を見ている…。さっさと我が神聖なるギルドから出ていけ!愚か者どもが!」

 とアシュリカが叫ぶと沢山の人たちが悲鳴をあげて逃げて行った。

 

 「すご…」

 思わず声を上げてしまった。まず気迫がやばい。俺もつい震えてしまった。まるで鬼神の様だ。


 するとリンが頬を紅潮させてアシュリカの目の前に来た。髪の毛もぴょこぴょこ動いてる。

 「アシュリカ…ありがと」

 「当然の事をしたまでだ。何せ前々から気に入らなかったのだ。だから今回のはいい口実になった様だ。私の方こそありがとうな」

 「むふふ…どういたしまして…」


 アシュリカは先程の怖い顔から一変しリンの頭を優しく撫でる。リンはそれを気持ちよさそうに享受していた。

 そんなリンを見てるとアシュリカがこちらを向いた。


 「さて…少年。いやソーマか。君にも感謝せねばな」

 「あ…いえそんな。それより俺がこのままいるとこのギルドの評判を落としかねません。俺はすぐにこの町から出て行き…ぐえ!」

 「逃すか!」


 俺が出て行こうとするとアシュリカが俺の服のフード部分を掴んで引き留めて来た。何だこの馬鹿力は…。

 「ふふ…おいソーマ。君には…このギルドに所属してもらう!」

 と俺のフードを掴み持ち上げて俺と顔を合わせる。


 何せアシュリカの方が俺よりずっと背が高い。そして片手で俺の体を持ち上げている。

 うう…男としてのプライドが…。俺は情けなくもプラプラ蓑虫みたいに揺れるしかできない。ていうか…


 「え…お…俺をギルドに入れるんすか?」

 「嗚呼!私が推薦してやろう!どうだ?悪い話ではあるまい。というかそもそも君はリンの使役ゾンビだろ?ならば主のそばにいるのが道理だと思うが?」

 「え…いやけど…」


 俺は助けて欲しいという意味を込めてリンを見るが

 「ソーマもこのギルドに入ってくれるの?」

 と目をキラキラさせて、髪の毛をぴょこぴょこさせている。う…その純粋な目が俺には眩しすぎる。


 「ほら。君の主人もこう言っているぞ。拒否権はない!来い!」

 「えっちょ?せめて歩かせて!」


 アシュリカは俺を肩に担いでそのまま歩いていく。一体この細い体のどこにこんな力が残っているんだ。

 いやその前に


 「男としてのプライドがぁぁぁ!」

 俺は情けなくてシクシク泣くしかなかった。

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