第9話 異世界はいい事ばかりではない話聞く?

 街中を歩くと今度は視線を感じなくなった。

 フレイア様々だな。


 「ソーマよかったね。誰もソーマの事ゾンビだって気づいてない」

 「だな。これなら何とかこの世界で生きてけそうだよ」

 視線による居た堪れなさが消えた為今度はゆっくりと周りを見渡せる。


 周りには大きな建物が並んでいてどれも洋風。お店なんて外で開いてる露店もあって、歩く人々も御伽話に出てくるような服装だ。

 「外国に旅行来たみたいだ」

 「ニホン以外の国はどんな感じ?」

 「うーん俺海外旅行行ったことないからよく分かんないけど…でもまぁ大体こんな感じの景色のイメージはあるなぁ」

 

 だからこそ新鮮。親戚の人たちも俺を連れて海外に行くなんて人はまずいない。そりゃあ他人の子を旅行にわざわざ連れてくなんてないか…。

 

 「なぁリン。レイングラスやローゼングリム以外にも町や国ってあるの?」

 「勿論ある。もしマスターが許可して私と同じギルドに入ったら一緒に仕事で行くかもしれない」

 「マジで?うわぁ…少しワクワクするな」

 RPGの様な世界を自分の足で歩めるなんて生きててこんな体験できるなんて思わなかった。…いや今は死んでるっけ…。


 するとリンが立ち止まった。

 「ソーマ。あれが私たちのギルド本部。

 "女神の愛子アテナ・ファミーユ"」


 そう言ってリンが指差した方向を見るとそこには他の家よりもデカい建物がある。まるでお屋敷のようだ。よく見るとその周りにも似た様な建物が並んでいて、家にはデカいエンブレムが掘られている。


 リンが指差した屋敷には◯の中に髪の長い女性の横顔が彫られている。

 「行くよ」

 「あ…嗚呼」

 俺は緊張しながらリンの後をついて行った。



 ◇



 「さぁ入って」

 リンがギーッと木製の大きな扉を開く。そして開くと

 「うわぁ…」


 中には想像よりも人が沢山いた。そして中はやはり広く全体的に木製。何というか酒場みたいな雰囲気がある。

 「これみんなギルドの人たち?」

 「違う。正式メンバー自体は少ない」

 「え?そうなの?じゃあここにいる人たちは?」

 「皆んなギルド入りしたがってマスターにお願いしに来た人たち。冒険者にとってギルド入りしてるのは一人前の証。

 フリーでも冒険者はできるけど、ギルド入りした方が仕事は紹介して貰えるし安定してる」


 ギルド入り…。見ると中にはヤケ酒してる人もいる。

 「カー!なんだってんだよ!せっかく俺がギルドに入ってやるって言ってんのによ!くそ!」

 そんな中でも特に荒れてるオッサンがいる。


 頭は照明の光を反射して光っていて口周りに黒い髭が生えている。目つきはかなり鋭いし酒を飲み過ぎたのか座っている。そして頬は真っ赤だ。

 しかも体は巨体であり見るからに強そうに見える。あんな人でも入れないのか…。


 「ギルド入りって大変なんだな」

 「…大変というか…マスターの趣味にもよる」

 「へ?趣味?」

 「うん。あの人は絶対マスターの趣味ではない。寧ろ真逆。…うん…多分ね?ソーマならいけると思うよ?ドストライクだと思う」


 趣味ってなんだろ…もしかしてゾンビフェチとか?何かやだなぁ…。

 俺とリンがコソコソと話しているとオッサンが今度は酒を配膳してる女性の腕を引っ張った。


 「ちょ!は…離してください…」

 「るせぇ!こっちはイライラしてんだよ!少し俺の相手しろや!」

 「い…いやです!やめてください!」


 女性は頑張って逃げようとするがオッサンはニヤニヤとやらしい笑みを浮かべている。

 …は?


 「ソーマ?」

 俺はついその男のところにいき、女性を引っ張るその腕を掴んだ。

 「な…何だよてめぇは…」

 「それはこっちのセリフですけど…その女の人嫌がってますよね?離してあげて下さい」


 オッサンを睨みつけて話すとオッサンは舌打ちした。その瞬間俺の腹に衝撃が走り吹っ飛ばされた。

 「がは!」

 俺は壁に激突した。


 「るせぇんだよ!クソガキが!俺の邪魔すんじゃねーよ!」

 と俺の元にやってくる男。だが


 「は…はは…」

 「あ?」

 「アンタさ?ゾンビってどう思う?」

 そう俺が問うと男は機嫌が悪そうな顔をし始めた。


 「あ?何だそのセリフ。頭打ったか?」

 「良いから答えてよ」

 「ちっ…答える義理は…」


 その男が言いかけた瞬間。俺は近くにあった酒を自身の頭にぶっかけた。その瞬間俺の体からメイクに使ったファンデなどが流れ落ちた。

 

 「で?どうよ。ゾンビの体を触った感触は…」

 「な…なな…」

 「嗚呼そうだ。アンタにだけ特別に見せてやんよ」

 俺は右目部分を周囲に見えない様に隠しながら包帯を外す。そして固まる男の至近距離にいき、目を覆っていた手をどかすと男はひっと引き攣るような声を出した。


 「なぁ…俺にアンタの目ん玉くれよ…。なくて心細いんだよ…なぁ?」

 「あ…ああ…」

 男はどさりと尻餅をついてそしてガクガクしながら帰って行った。


 よかったぁ…この世界においてゾンビは嫌われてる。ドン引きされる存在だ。それに加えて俺は右目がないショッキングな顔をしているし、珍しく人語を話すタイプのゾンビらしいし…でもフレイアに折角メイクしてもらったのになぁ…。


 ああいう相手には例え正論をぶつけても返ってヒートアップさせるだけ。無駄な時間だ。ならば逆に相手が引くぐらいの訳わからない行動をとった方が効果的と考えた。

 

 因みにこの経験は昔、大はずれの親戚で頭が沸いてるみたいな…ちょっとあんなオッサンみたいな奴がいて、周りの人たちが正論言っても引かないどころか逆ギレしてる姿を見た事から培ったのである。

 そして分かったのだ。相手は相手で自分の世界で生きてるのだ。否定しても無駄なのである。だからこそ相手のまだ正常な部分に刺激を与えるのだ。


 まぁあのオッサンがもっと頭がやばい奴なら今の俺の行動も無駄なんだろうけど…。


 というか…

 「え…あいつゾンビなの?」

 「何でゾンビがギルドにいるんだ?」

 「おい…誰か追い出せよ」

 ヒソヒソ ヒソヒソ


 この空気どうすっかな…。ハァ…。

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