第7話 鍛冶屋の兄ちゃんの話聞く?

 俺達はザックに家に案内されている。俺に集まる視線とか考慮してくれてるのか人目が少ない道を選んでくれている様である。

 「あの…ザックさん?」

 「ザックでいいよ。敬語もいらねぇ。どした?」

 「んじゃあザック。どうして俺のこと嫌わないんだ?他の人達は俺を避けるのに…」


 ずっと気になってた。あの様子だと普通ゾンビに進んで声かける人なんていそうな感じがしない。なのにザックは普通に話しかけてくれて、その上優しくしてくれる。


 俺の質問にザックは頬をぽりぽり掻いて、

 「だってソーマは別に他の奴らに危害とか加えてねぇだろ?嫌う理由がない」

 「でも世間的にはゾンビって悪いイメージあるじゃん」

 「まぁわかるけどさ?じゃあソーマ…もしも自分の大切な人が死んでその人を他の奴らに悪く言われたらどうする?」


 大切な人…まず両親は該当しない。俺を捨てた親をどうも愛せないし顔も覚えていない。けどそうだな…俺は引っ越しばかりするから転校はめっちゃしてきた。それでも俺と連絡を取り合ってくれてた友達とか、俺のことを可愛がってくれた親戚とか、そしてリンとか…


 もし死んでしまって他人に悪く言われたら

 「許せないかな…」

 「だろ?お前だって誰かにとって大切な人だ。お前が死んで悲しむ奴もいるのにその人達に顔向けできねぇ。何より死んじまった人間を冒涜するのも俺の趣味じゃねぇ。

 ま!要は変わりもんってわけだよ!」


 ザックはそう言ってニカっと笑った。変わりもんか…でも少し安心した。

 「ザックありがとう」

 「お?どした?可愛い奴め!」

 そう言ってザックは俺の頭をグリグリと撫でる。だから首もげる!


 因みにリンはというと

 「…むー…」

 俺の腕を掴んで頬を膨らましている。なんだ?

 「…ソーマは私の友達なのに…」

 としがみついてる。え?まさか…


 「あはは!何だ嬢ちゃんヤキモチか?」

 「…ん」

 ザックがニヤニヤと笑いながら揶揄ってきた。するとリンもザックをじっと見てコクリと頷いた。


 ヤキモチ…だと?未だかつて女子にそんな独占欲…どころか彼女すらいなかった俺にとうとうヤキモチを焼いてくれるような女子が現れただと!?

 しかも…ヤキモチの仕方が可愛すぎる…。やべぇ…なんか嬉しい…。


 「おーおー!安心しろよ?俺は可愛い女の子が好きなナイスガイだからな。ま!でもソーマもソーマで可愛い顔してるけどな」

 「どう言う意味だよ?」

 「ソーマは渡さない…」


 可愛い顔は初めて言われた。平凡な顔してるけども…可愛くはねーだろ…。リンはリンで友情に対して重い感情を持ちがちの様である。

 先程のビクビク怯えてた様子はどこへやら今は俺にしがみつきながらザックを猫の様に威嚇している。

 ザックはザックでそんな俺とリンを微笑ましく見ている。


 「ハハ!仲良さそうで何よりだ。ほら?そろそろ着くぜ。あれが俺の家だ」

 ザックが指差した先を見ると二階建ての建物がある。一回は鉄筋かな?なんかの小さい工房みたいな感じ。なんかゴツい。


 そして2階の方は何やら一階とミスマッチな感じがする柔らかいクリーム色の木製の壁でできている。外側に緑の階段があってそこから登ってくみたいだ。

 2階の外側には植木鉢があってナチュラルなんだけどちょっとオシャレな感じ。


 「2階と1階…なんかイメージがチグハグな感じがするけど…」

 「ああ、俺の工房が一階。んで二階は俺の妹がやってる美容室だぜ」

 「へぇ…妹さんがいるのか」

 通りで面倒見が言い訳だ。


 そんな感じの会話をしながら俺達はザックの家に到着した。



 ◇



 「ようこそ!"俺の工房"へ!あ…因みに店の名前が俺の工房って名前だからな?」

 ザックに案内されて工房にお邪魔するとむわんと熱気が伝わってきた。


 「あっつ…てかリン?あんまひっつくなよ。熱いし…ていうか年頃の女の子が男に引っ付くのはあんまり…」

 「ソーマの肌冷たくて気持ちいい」

 確かに死んでるけど…俺からするとドキドキものよ?リンめっちゃくっついてくんだもん。

 そりゃあま…可愛い女の子に引っ付かれるのは嬉しいけど…。なんかいい匂いするし…いやてか…


 「お前…こう言うコミュニケーション苦手って言ってなかったか?しかも男相手は無理って」

 「ん?ソーマは特別」

 「…」

 要は男として意識されてない訳か…別にガッカリしてないけど。


 「おーいお二人さんいちゃついてねぇで依頼の品出してくれ!」

 「あ!悪い悪い。リン?例の…」

 「ん…」


 リンは懐から例の"魂喰の奇石ロスト・ソウル"の入った箱を取り出してザックに渡した。ザックは早速箱を開けて

 「おお…この怪しい輝き!いやぁ…引き込まれるなぁ…!」

 とキラキラした目で石を見つめる。そしてすぐに仕事に使うのかな?グローブを嵌めて石を持ち上げている。


 さっきは暗い場所だったし直ぐにリンに渡したからよく見てなかったが、明るい所でじっくり見るとその石はまるで宇宙を閉じ込めた様な青と紫のグラデーションに中に銀色の粒が散りばめられている様に見える美しい石。ザックの言う意味が分かる気がする。


 「なぁザック。その石どうすんの?」

 「仕事で使うんだよ。依頼でな?けどこれ想定よりでけぇな!もう一個ぐらいできそう!」


 依頼してそしてまた依頼して、なんか伝言ゲームみて〜だな。すると何やらザックが俺が腰に携えてた剣をじっと見つめている。

 「…ソーマ?その剣見せてみ?」

 「ん?いいよ」

 ザックに言われて剣を渡した。ザックは剣をじっと見てそして渋い顔をしている。


 「こりゃあダメだな…。刃はボロボロだし錆びてる。これどうしたんだ?」

 「ソウルイーターのいる洞窟で拾ったんだよ。俺ゾンビになった時武器持ってなかったから…」

 「成程な…取り敢えずこれは没収な?」

 

 ザックは剣を何処かへ持って行ってしまった。

 「えぇ…でも俺武器ないよ?」

 「安心しろよ。明日になったらいいもん用意しとくから。ってあ!そうだ依頼の報酬な!

 ほらよ。限定品のドクハキガエルのカップと金だ」


 ザックは何やら紫の四角い箱とじゃらじゃら音を立てる袋を取り出してきてリンに渡した。

 「おお!」

 リンは夢中で箱を開け始めた。中からは紫のカエルのイラストと見たことない字が書いてあるカップが出てきた。


 「こ…これぞ!お宝!依頼受けて良かった」

 とリンはお金よりもカップを気に入った様でスリスリと頬ズリしている。そんなにその紫のカエルが好きなのか?

 

 「ハハ!気に入ってくれてよかったぜ!ソーマへの礼は明日渡すもんでいいか?」

 「全然いいけど…いいのか?」

 「いいってことよ!何より…明日渡すやつはお前だからこそ扱えると思うんだよ」

 俺だからこそ?その言葉に首を傾げた。


 すると

 「お兄ちゃん?何か話し声聞こえるけどお客様?」

 と女性の声が聞こえた。工房内にも鉄でできてる階段がありその上から聞こえる。


 「おおフレイア!ほら、例の依頼を受けてくれた奴らだ!」

 ザックはそんな声のする方目掛けて大声を上げる。


 その声に反応してか声の主が工房に降りてきた。出てきたのは俺より少し年上って感じの女の子だ。歳は多分高校生ぐらいだと思う。


 ザックと似た色合いの赤い髪は長く艶があり三つ編みにしている。顔立ちは目は穏やかそうな垂れ目で優しそうだ。頬にはそばかすがあり丸いメガネをかけている素朴な感じ。


 体型の方は背丈はリンより高くて俺と同じかそれより低いぐらいかな?そして…その…言いにくいが中々のナイスバディだ。ボンキュボンである。服装は赤や黒、白を基調としたワンピースを着用している。体育会系のザックと比べて大人しそうな女性だ。


 「そうなんだね。えっと兄のお願いを聞いてくださりありがとうございました」

 「あ!いえいえ。仕事なので」

 またしても俺の後ろに隠れたリンの代わりに俺が喋る。それに対して女性はニコニコと優しく微笑んでいる。どうやらザックと同じでゾンビに嫌悪感はない様だ。


 「こいつが俺の妹の"フレイア"だ。フレイアこいつらが俺の依頼を受けてくれたリンとソーマだ」

 「リンさんとソーマさんですか。フレイア・クリムゾンと申します。二階の方で美容室を営んでます。宜しくお願いします」

 「此方こそ。因みに俺のご主人様のリンは…その人見知りが激しいのでお気になさらず」

 とぺこりとお辞儀するフレイア。俺もお辞儀し返す。リンも俺の後ろに隠れながらぺこりと挨拶した。


 「ふふ。そうなんですね?大丈夫ですよ?少しずつ慣れてくだされば…それより」

 フレイアは此方に歩いてきてそして俺の肌に触れた。年上のお姉さんに突然触れられて驚く。この世界の人たちボディタッチ多くない?


 「ふむ…肌自体はきめ細かいし、綺麗なのに勿体無いわ…。血色が悪い。ふむ…お兄ちゃん。リンさん。ソーマさんお借りしますね!」

 「え!?ちょ!」


 フレイアが俺の腕を引っ張り二階に連れて行く。何なんだ一体…。

 「ソーマ?」

 「嗚呼…フレイアのめんどくせぇ性格出たか…。しょうがねぇリン?茶出すからゆっくりしてけよ。お茶菓子に貰い物のカエル饅頭あるから」

 「カエル饅頭!?ほ…欲しい!」


 なんて会話が後ろから聞こえる。しかしフレイアの方は気にせず俺の腕を引っ張っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る