第6話 ゾンビの辛さが分かる話聞く?

 取り敢えず俺とリンは洞窟から脱出した。

 「うわぁ…眩し」

 暗いところから出てきたから目が慣れない。


 外は晴天で暖かい。洞窟内のひんやりしてジメジメしたあの空気がまるで嘘の様だ。

 「ここを真っ直ぐ行くと私のギルドがある"レイングラス"の町があるの。まずはそこへ行こう?」

 ギルド…アニメとかでたまに出るけど結局どういう場所なんだろ?


 「なぁリン?ギルドって何する所なんだ?俺の世界ではあまり聞いたことないけど…いやでも俺だけなのかな知らないの…」

 「ん?えっとね簡単に言えば同業者の人同士のグループ?なんか組合みたいな奴だよ。詳しいことはまた説明するね」

 「ん…そうしてくれると助かるわ」


 俺とリンはそんな感じでダラダラと駄弁りながら歩いていく。リン曰く此処らの草原にいる魔物は大人しくて、こちらから襲わない限りは無害らしい。

 

 「ねぇソーマ。ソーマの世界…ニホン?だっけ。どういう所なの?」

 「…うーん…この世界と違って魔法とか無いしバケモンもいない」

 「…いいなぁ…」

 「そうかな?俺は偶々日本だから良かったけど他の国なら普通に戦争とかあるし…結局人同士で潰し合う。いいかって言われると分かんねーや…」


 俺からすると魔法が使えるこの世界の方が良いと思う。何ならまださっきのバトルの感覚が忘れられなくて痺れてくる。

 「ソーマは元の世界に帰りたい?」

 「いや?別に」

 「どうして?」

 「俺親いないしかえって俺が戻ると俺の親戚が困るから。多分今頃厄介者がいなくて喜んでんじゃね?」


 散々タライ回しにされてきた。何なら闇金にまで手を出した両親の息子ってだけでやな目で見られたり虐められたりもしてたから…

 今頃俺がいなくなってお祭り騒ぎだろう。


 というか今の俺ゾンビじゃん。戻ったらパニックだろ。下手したら実験対象にでもされそうだ。そんな俺にリンが食い気味に

 「…じゃあ戻らない?」

 「まぁ今のところ戻る気はないかな…」

 「ムフフ…そっか…良かった」


 何故かムフフとニヤけてるリン。何なんだ一体。正直嫌がられるより良いけど

 「ソーマは私の友達。ずっと一緒」

 「友達なのは良いけど重くね?」

 「重くない。ソーマが来てくれて嬉しい」


 と目をキラキラさせながら言ってくれるリン。美少女にこんなセリフ言われたのは生まれて初めてだし、俺がいて喜んでくれる相手がいるのってこんな幸せなんだな…。


 「そっか…ありがとうリン。俺もリンと出会えて良かったよ」

 「ムフフ…それは良かった」

 リンの髪の毛がぴょこぴょこ動く。なんか可愛く見えてくるな…癖になる。


 「ソーマもうすぐ着くよ」

 「お!マジで?」


 なんか喋ってたらあっという間だ。俺達の目の前には大きな煉瓦の門がある。そしてその先には賑わう人々の姿や沢山の家や店が並んでる景色。まるで外国に来たみたいだ。

 「この門を抜ければ町。まずは依頼人に会おう」

 「嗚呼!」

 俺は動かない胸を高鳴らせて街へ足を踏み入れた。



 ◇



 で…喜び勇んで入ったのはいいけど…

 「…何か視線が痛い…」

 何だろ…何が道を通ると人々が俺をモーゼの如く避けてくし何かめっちゃジロジロ見てくる。

 しかも好意的な方では無い。


 「俺なんかした?」

 「してないよ」

 「じゃあ何で皆んな俺を避けるんだよ…。地味に傷つくんだけど…」


 俺は此処に来てからただリンの後ろをついてるだけで特に目立ったことはしてない。するとリンがあ…と声を出した。

 「…そっか…ソーマがゾンビだからだ」

 「は?」

 「ゾンビには最悪の3Kがつく」

 「あー何だっけ?怖い・汚い…え〜腐ってるだっけ?」

 「違う。臭い」


 そういえばそんな事言ってたな…。ん?待てよ…

 「もしかしてさ?ゾンビって世間的には嫌われてる?」

 「うん」

 とリンがやけにあっさりと首を縦に振る。


 「えぇ…やっぱりかぁ…じゃあ俺どうすればいいんだよぉ…」

 折角異世界転移したのに人に嫌われるとかどうすればいいの?俺の知り合いマジでリンしかいないじゃん!


 「どうしたの?大丈夫?」

 「…大丈夫じゃないぃ…リン俺の目見える様にしてくれたじゃん…あれみたいにできないの?」

 「無理。あれはただソーマの目の動きを少し操作しただけ。血色とか戻すのは難しい」

 「そんなぁ…」


 俺はぺたりと地面に膝をついた。そんな俺の背中をリンは不思議そうに見つめている。

 どうしよ…幾らリンがいるとはいえ、こんなに人に嫌われて生活するとかキツい…。だって俺何もしてないやん…何で嫌われないとあかんのだ…。


 「あれ?何やってんだ?んなとこで」

 そんな落ち込む俺とリンに誰かが話しかけてきた。

 リンはコミュ障を発動させてか、ひっとひきつるような声を出して俺の服を掴み隠れた。


 「お?よく見たら俺の依頼受けてくれたお嬢ちゃんだな?んでこっちの兄ちゃんは…偉く血色悪いけどゾンビか?

 すげーなこんなにしっかり自我持ってるゾンビ初めて見たぜ!」


 とケラケラと笑う人物は20代くらいの男性である。

 逆だった赤い髪の毛をタオルで巻いていて固定している。顔立ちは彫りが深くて…所謂ソース顔って感じの濃い顔だ。顎からは赤い髭が生えている。


 体格が良くて背も高い。そんな男性。服装はツナギを着ているが、上半身を覆う部分を腰に巻いていて上は黒地に赤いうさぎの顔がデカデカと描かれたTシャツを着ている。


 「…うう…そうだよぉ…俺は最悪の3Kが揃ってしまった嫌われ者のゾンビだヨォ…畜生…」

 「マジか!こんな喋るゾンビいるんだ!…てか別にお前…怖くねぇし、臭くねぇけど?あ…でも土で汚れて少し汚ねぇかな?」


 何だコイツは失礼な奴だ。人が落ち込んどるのに…。するとリンがそっと俺の耳元に小声で話しかけてきた。

 「…この人が私の依頼人」

 「え?そうなの!?わぁ…すみません失礼な態度を取ってしまって!」

 俺はすぐに謝罪した。一応リンは俺の主に当たる。その主の依頼人に失礼な態度を取り続けるわけにはいかない。


 「いいよ!気にすんなよ!俺は"ザック・クリムゾン"。鍛冶屋をしてるんだ。お前は?」

 「俺はソーマ・シラヌイと言います」

 「ソーマか!よろしくな!いやぁしかしお前のご主人様すげぇな!こんなすげぇゾンビ使役してるなんてな!アッハッハ!」


 そう言ってザックは俺の頭をグリグリと撫でる。…首もげるぅ…。

 「んでその後ろにいるのがその俺のご主人様のリン・フェルナンドです」

 「…」

 さっきからビクビクしてひっつき虫のリンの代わりに挨拶する。するとザックは


 「おお!知ってるぜ?確かに最初の時は他のねぇちゃんと一緒に来てたな…すげぇべっぴんの…」

 そう言ってザックは何かを思い出したのか鼻の下を伸ばし始める。だがすぐに我に帰り


 「わりぃわりぃ!つい…んで依頼の品は…ん…此処じゃあれだし俺の家の来るか?」

 「はい…その方がいいかなって…視線が痛いし…」


 俺に集まる冷たい視線を察したのかザックは苦笑しながら家に招待してくれた。流石の俺も居た堪れなくてお言葉に甘えることにした。

 一方のリンは俺にくっついて一言も喋らなくなった。

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