第10話 無事に……

 そして、丁度騒ぎが起こる前に山口達は城へと着いた。

 こそこそと、忍び込んでいると、兵に見つかり声がかけられる。

 そして、奇妙な質問をされる。

「君達は、長尾殿の連れか? それとも勇者殿の先触れか?」


 そんな問いかけに、ふとみんなと顔を見合わせて、つい素直に答えてしまう。

「長尾さんは何処に? 追いつかないと」

 その答えを聞いて、二人の兵は答える。


「ふむ。ではこちらへ」

 山口達でも、一般の兵相手なら勝てる。

 やばそうなら…… そう考えながら腰にぶら下げた剣に、手を掛けたまま付いていく。


「公爵様、お仲間のようでございます」

 通されたのは結構立派な部屋。


「ふむ。お荷物はこの中にあるかね」

 城で使っていた、自室へ置いていた荷物が、この部屋に持ち込まれていた。


「これです」

 各自荷物を受け取り、中身を確認をする。


「では送っていけ」

「はっ」 

 普段使わない通路を使い、城の裏手へと回り込む。

 馬車を貰い、路銀まで貰う。

 俺達はそれを貰って、案内されるまま町から出ていく。


 それを見送る公爵は、ぼそっとつぶやく。

「後の者達は、敵かのう?」

「不明ですが、帰ってくる前に事を済ませましょう」


 そう、城内での騒動時、敵に回られるとやっかいなのが召喚者。

 公爵は、抵抗せぬなら逃がした方が便利。

 王達に味方をされれば、無駄な犠牲が増えてしまう。

 話を聞けば、残りの者達は馬車で帰ってくる様子。ならば数日は猶予がある。


「それでは、始めるぞ」

 その日、公爵による粛正。おかしくなっていた王国の正常化が行われた。

 一般的には、謀反とも言うが、騒ぎの最中、ずる賢い者達は逃げ足も速い様だ。

 

 公爵は王達を取り逃がしてしまう。

「ええい。さがせえぇ」




 その頃。

「なんだあんた…… 結構好き者だなあ」

「違うの。考えると辛いから。していると考えなくて良いし。ほら、まだおっぱいも出るの飲む? ふふっ。んっ。ああっ」


 ここは、移動途中の宿。

 野営では安心できないが、今日は町へ来たため宿に泊まった。


 湯を貰い体は拭いた。

 飯を食って落ち着くと、また彼女はグジグジと言い始めた。

 どうも萩原さんは、酒を飲んだようだ。

 ミード蜂蜜酒が普通にある。

 そしてこの酒、意外と強い。


 それを聞き、うんざりした様子の高校生。

 そして、ウザさよりも欲求が勝った横山は、みんなに愛想笑いをしながら、ぴらぴらと手を振り、彼女を部屋へと連れて行く。

 後ろから、支える感じで彼女を連れて階段を上る。


 背中から回した手で、ちょくちょく胸を刺激するが嫌がらなかった。

 そしてまあ、なる様になった様だ。

 そう、彼女は彼女で、こっちへ来てからしていなかったし、旦那だけしか知らないわけではない。

 少しタイプでは無いが、少しくらいなら我慢をする。

 使い物になるかは、してみて判断をするようだ。


 そうして、高校生達と残りは、北村と佐藤。

「こんな時に酔っ払うなって、それに何時までも、こどもがぁーってやかましい。子どもがいない人だって居るんだから、気を付けてくれれば良いのに。そう思いません?」

 北村は、階段を上る二人を見てぼやき始める。


「そうねぇ。でも彼女の事も理解ができるわ。手が離れたと言ってももまだ三歳。大変なときに残してきてしまったんですもの」

 子育ての記憶がある佐藤は、いない彼女をフォローをする。


「それにしたって……」

「三歳でしょ。自分が居ないと何も出来ない子ども。当然食べなければ死んじゃうし…… 自分がこっちに来たことで、見えないところで子どもが死ぬかもしれない。辛いと思わない?」

「おおげさな。子どもだからって…… お腹が空けば、何でも食べるわよ」

 ケッという感じで、吐き捨てるように北村は言う。

 その言葉を聞いて、この人は物事を知らないということを佐藤は理解した。

 そして、想像力も無いことを。


「そうだと良いわね」

 そう返しながら、考える。


 ここに居て良いのだろうか?

 なんとなく、流れでここに居る。


 王都に行って、本当に大丈夫なの?

 自分たちは、王国の兵力として呼ばれたと言っていた、なら使い物にならなかった私たち。そして止められなかったと言っても、あっという間に五十人あまりも兵を殺した。

 そう、そんな力を持った化け物なのよ……


 私なら一緒にいるのも怖い。

 そう、その気になったら、何も持たないであっさりと自分たちを殺す脅威。

 私たちは、存在が爆弾みたいなものなのに……


 そして、彼女は気が付く。

 抜けていった…… そう、行動を起こした人は、比較的まともそうな人達。

 残りは?


 ―― 此処で、かの女は気が付いた。

 ここは、予測の出来ない異世界。

 みんな自分自身に余裕のない世界で、そう…… 私たちは、足手まといとして彼らに切られたのでは?

 幾度も、選択するタイミングは有った。


 でもその時、思い及ばず、行動が足りず、動けなかった。

 そう、ここに残っているのは、きっとそういう部分の能力が低い者達……


 言っては悪いが、北村の態度と考え方を見て、思い至ってしまった。

 残っていたのは、高校生と…… 目付きの悪い横山。

 そう、彼は和やかだけど、目がよくない。

 彼はきっと、信じてはいけない人。


「ちょっと見てくる」

 そう行って彼女は、二階へ上がる。

 部屋を見て回ろうかと思ったが、中世の安普請。

 躯体のみ。

 壁の中に断熱材も吸音材も何も入ってはいない。


 彼女は廊下にいて、すぐに中の様子が分かった。

 一応抑えているのだろうが、こぼれる嬌声。

 そして、リズミカルに軋む音。


 ああ、これはもう仕方が無い。


 佐藤 美早紀。

 彼女は、その日。

 夜明け前の薄闇に姿を消した。


「あれえ、おばさんがいない」

 佐久間 千尋さくま ちひろは、朝になり彼女がいないことに気が付く。

 彼女は意外と佐藤のことを頼っていた。

 丁度母親に近い年。柔らかな物腰。


 同級生の二人では補えない大事な人。

 だけど、彼女はまた捨てられたことを理解する。

 確かに、拓や光一とはいつも一緒だったけれど、安心という点では彼女が一番だった。だからこそ、綺麗な部屋を見て彼女が攫われてとかではなく、自分たちが置いて行かれたのだと理解をした。


「ひどいよ。美早紀ママ…… また……私は」

 一声言ってくれれば…… 確かについては行かなかっただろう。でも……

 黙って置いて行かれる寂しさは、彼女の心。

 その奥底を壊していく……

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