第9話 決断と目的

 判りやすいのは、横山だった。


 ここは、マジでやばい世界だ。

 人が殺されても普通。

 あの時、俺達にも矢が飛んできた。

 このまま召喚者として王国にいれば、人殺しをするか俺が殺される事になる。


 すれていない、ばかなこっちの人間を騙して、女のところに転がり込むか、知的で使える、一緒に来た女……

 かれは、周りを見る。


 佐藤さんは駄目だな。

 確か、自己紹介のときに四十五だとか言っていた。


 萩原さんは、一個下で世代は一緒だが、子持ちでずっと事あるごとに子どもが心配とうだうだ言っていた。

 面倒だ。


 後は、北村さんが年が近いが、言動を見れば分かる。

 単に口やかましいお局さんタイプ。

 きっと口癖のように、普通はとか、常識でしょうと、持論を押し通すタイプ。

 途中でもなんだかんだと、人のせいにしていたもんなぁ。

 切り捨てられるなら切り捨てる方が、みんなのためだな。


 うーむ。こう考えると、やはり良い子だったのは、斎藤さんだったなぁ。

 畜生。


 そうして、年は離れるが坂本さんか、大石に的を絞っていた頃。


「どうした方が良いですかね?」

「このまま王城へ帰っても、連絡はすでに入っているだろう」

 山口さんと田島さんは、ため息混じりに話し合っていた。

 正和との会話で、文化レベルは中世ヨーロッパだろうと聞いていた。


「日本の戦国時代とか江戸のイメージ。国境には関所があって、貴族とかがいる世界ですよ」

 まあ二人もバカではない。

 ある程度歴史は知っているし、イメージはつかめた。


 日本でも、ヨーロッパでも人の命が軽かった時代。

 無礼打ちや切捨御免などのように、一般民など、簡単に殺されヨーロッパなら吊るされる。


 立ち回りを考えないとまずい。

 そして、俺達の黒髪と黒目が目立つことも判っている。


 全員で一緒にと言うのは理想だが、命よりも優先すべきではない。

 残念だが、自分が死にたくないと思うのは、仕方が無いだろう。


「話を聞いて、目的がばらければ別れましょうか?」

 その提案を聞いて、少し考えたようだが、田島も頭は悪くない。

 山口が考えたこと、何処までかは不明だが理解はしてくれるだろう。

「さ……」

 さてみんなと声をかけようとしたとき、機嫌が悪そうに竹中 光一が叫ぶ。

 そう、高校生の勇者君ぽい奴。

 魔法の威力もかなりすごかった。


「ここに居ても仕方が無いし、帰ろうぜ」

 それを聞いて、山口が……

「俺は……」

 俺は別行動をと言おうとすると、佐藤さんがお年寄り枠でつまらないことを言ってしまう。


「まって、あの人が味方を殺しちゃったのよ。そのまま帰っても捕まったりしない?」

 思わず、山口と田島さんは顔を見合わせ、やれやれと細かに顔を振る。


 だが救世主。

 竹中君は無敵だった。

「大丈夫でしょ。俺達勇者だし。殺したオッサンはもう抜けちまったんだ」

 そう、根拠のない。妙な自信を撒き散らかす。


 まあ、ありがたい。

 そう言われただけで、佐藤さんは黙ってしまう。


 さてと……

 それを聞いて、山口達は黙って馬車の準備や、食料などを確認をする。

 来るときは兵がしてくれていたので、少し手間取るが、攻撃前にこちらに遠征装備が残され、必要最小限で戦場へと行ったのが良かった。ほぼそのまま利用が出来る。


「さあ準備が出来たぞ。こっちに食料や薪。テントなども積んだ」

 高校生達が乗り込み、皆が渋々乗り込む。

 協調性を重んじる日本人、誰かが言い出せば、少しくらいなら個人の思いを飲み込み、したがってしまう。


 俺達は、駐在の兵に王都までの案内を頼み、任せる。

 小分けしたテントなどを、自分たちの分だけ積み込まずに街道の端に寄せる。


「では出発いたします」

 兵が声をかける。

 手を振る俺達。


「乗らないんですか?」

「ちょっと調べたいことがあってね」

 そう言って笑顔で、声をかけてきた大石さんに手を振る。


 だが、俺達の予想に反して彼女は、飛び降りる。

 俺の胸に向かってきたので、受け止めながら少し驚いた。

 まだ鎧装備中で、ゴスという感触だったが。


 すると、やり取りを見たのか、坂本さんまで飛び降りてきた。


 すでに馬車は動き始めている。

 だが、意外と身軽にスチャッと着地。

 問題は、この二人。荷物が無い……


 馬車の中で、二人が降りるのを呆然と見送った横山はぼやく。

 畜生、残ったのは、外ればっかじゃねえか……


 彼はこっちへ来てから、『車の知識なんて、こっちじゃ役に立ちませんね。ははは』。などと言っていたが、有名な大手の中古車販売店。店長クラスだった。

 社員教育のおかげか、少し性格が悪い。


「チッ。仕方が無い。すべての責任を長尾の奴に負って貰おう」

 なかった事でもあったことにするくらい簡単。彼はストーリーを考え始める。

 この世界、ドラレコも監視カメラもないのだ。


『おらあ。よく見ろ。ここにへこみがあるじゃねえか。どうせ保険なんだ。写真を撮ってきっちり直せよ』

 考えながら、楽しかった日々を振り返る。



「さてと、どっちに向かうのでしょうか?」

 あっけらかんと聞いてくる大石さん。


 少し考えて、彼女を試す。

「どっちだと思う?」

 すると彼女は笑う。


「意地悪ですね。攻撃をしちゃったし、オリエンタルムに行けば、きっとすぐ殺されます。彼、長尾さん達。どうこう言っても、普通に王都へ向けて行ったでしょ。リスクを踏まえても、向こうへ行くなら、何か意味があると思うんですよ」

 彼女はそう言いきった。


「ほう。そうだね。馬車でたらたらせず、急いで追いつきたい。君達荷物はどうするんだ?」

「えっ、必要なものは、兵士さん達のがその辺りにありますし。問題はお馬さん乗れるかなぁ」


 少し時間はかかったが、彼らは正和を追いかけはじめた。

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