第8話 情報収集と方向性

 インダストリアパトリアの王都へ近付くにつれ、街道沿いに外灯などが立っていた。


 馬車内は、あれから二人の距離感が近く暑い。

 それでも、色々妙な気遣いをしなくてよくなり、楽と言えば楽だが。

 そう、あの後。もうコイツは、お姫様として扱わないことを決めると非常に楽になった。

 あやも、何か振り切ったようだし。

 今じゃあ、年の離れた姉妹のようだ。


 さて、王都の中へ入ると、かなり近代的だった。


 これまでは、石積みの家だったが、壁が塗られていて、ガラス窓が普通にはめられている。

 屋根も板型だが、焼き物のようだ。


「へえ。板ガラスが使われているな」

「大きな水晶が取れるのね」

 エレオノーラが顔を出してくる。


「水晶じゃない。ガラスだ」

「どう違うの?」

 きょとんとして聞いてきた。

 あら、えーと…… 組成は同じだったか? 改めてそう聞かれると、答えに詰まってしまう。


「水晶とガラスの明確な違いは、構造的に結晶しているか、結晶していないかだけだったと思う。水晶を融かして固めるとガラスになるんじゃ無かったっけ?」

 あや先生が教えてくれた。


 さてこの国は工業都市とかがあり、有名だと聞いたが、俺達の思う工業とは基本的なものが違う様だ。

 魔法の国と言った方が良い。

 だが、町中に耳の大きなネズミはいない。


 あふれかえる魔導具。

 こんな国が、どうしてソドムート王国に好き勝手されるのかと思ったが、例の伝承。

 人を殺す武器は禁忌とされ、推奨されていない。


 一歩まちがえれば、人すべてが死に絶えると。


 なかなか立派な考えだが、普通の道具だって、奪われたとき相手が平和利用をするかは不明だ。

 だけど国境で見たエグい武器は??


 後で分かるが、あれは武器ではなく、モンスター用の罠らしい。

 あのどうしても、殺す気満々のものが武器じゃない?

 へりくつだ……


 さてそんな国で、伝承を調べつつ帰る手段を探す。

 そう、帰るための魔法陣とかそう言うもの。そして、この世界のどこかに、希望の門があることを知る。

 だが……


 エレオノーラは、希望の門的なニュアンスで言ってくるが、その門の名前。何回聞いても俺達には『冥界の扉』と聞こえる。


「なあ、あや。どう聞いても門の向こうには黄泉比良坂よもつひらさかが待っている気がするんだが」

「そうねぇ。お嬢ちゃんが言うには、希望の門的なことを言っているけれど、あなたにも『冥界の扉』と聞こえるのね」

「なあに? ほらほら、たどり着けば何でも望みが叶うんだって」

 そういって、嬉しそうなエレオノーラ。

 どっちにしろ準備をする。


 そして俺達は、少しこそくなことをして金を稼ぐ。


 知りあった魔導具師に概念を伝えて、エアコンを製作。

 石膏ボードと、断熱材を作って、家全体の温度管理システムを構築。

 すごいことに、魔導具だと冷媒などが必要が無い。

 回路板、冷却と風魔法の組み合わせでいける。

 

 重要会議だと魔道士がこの仕事をしているらしい。


 ちなみに冷蔵庫はあり、なぜ今までエアコンを作っていないんだとオッサンまで驚いていた。

 ついでに、羽無しの扇風機と温風機も絵図を描いた。

 箱形のオイルヒーター的な暖房具はすでにあったから、温風機だ。

 こっちも安く売るらしい。


 そうして、俺達が金策をしていた頃。


 いや話は、俺達が抜けたところまで少し戻る。

「行っちまった。どうする?」

 高校生達がこそこそと相談をする。


 そして、山口さんに田島さん。横山さん。

 それに女性陣。

 女性陣は、殺伐とした戦場の様子を見て、まだ復活をしていない様子だが、実は男より強く強か。すでに色々と考えていた。


 あの攻撃が起こる前、平和な村を襲った味方の兵。

 それはどう見たって、一方的な暴力。

『やめて』『たすけて』

 そんな声が聞こえていた。

 そして、周りを見たとき、そう、誰も動けなくて、止めることも出来なかった。


 この世界、どう見たって日本での常識は通じず、その暴力が何時自分に向かってくるかも分からない。

 そうだ、盗賊がいるとも言っていた。


「どうされます?」

 声を出したのは、大石さん。

 形は違えど、いじめという一方的な暴力で去年仕事を辞めた。

 その時、周りに人は居ても助けてはくれなかった。


 上司への相談。だが……

『君はそう言うけれど、彼女も大人だから、ひどくはならないだろ』

『君にも原因があるのじゃないのか?』

『気にしすぎだよ』

『様子を見て、駄目なら移動も考慮しよう』

 相談はした。だけど……

 一応、答えは貰った。だけど……

 結局、なにも変わることはなかった。


「課長達に言っても無駄よ。ハラスメント対策員て言ったって名前ばかりだし、労基に言った前の人は、それで首になったし。首だと再就職が面倒らしいわよ」

 そんな話まで。


 まあそれで、仕事を辞めた。

 嫌みを言われながら。

 『近頃の子は』

 『何かあるとすぐやめる。努力が足りない』

 まあ他にも何か言っていたが、その後。心は軽くなったが、何もやる気は起こらず…… そして考えた。何かあればやめやすく、時間の調整が出来る派遣を選択をした。


 そしたら、ここへ来てしまった。

「派遣されるなら、前もって言って欲しかった」

 今回の事は、多分彼女が登録をした会社も把握をしていない、野良派遣だろうが、つい…… 来たときに彼女はそうぼやいた。


 そう、とりあえず動かないと、周りは何もしないことを知っている彼女。

 だがこの世界は危険。

 一人では駄目。仲間はほしい。


 高校生達は強いけれど、人間的に不安。

 なら誰を?

 あの時、二人に付いて行けば良かった。

 そう思ったが、まだ決断が出来ず、動けなかった。


 ならだれを。年を取っているのは横山さんだが、たまに他の女の人を見る目がエッチ。それに訓練時の動きも悪かったし、手をぬいていた。

 女性陣はそれこそ、わたしだめぇという感じだったし。


 そう、やはり真面目だったのはあの二人。

 長尾さんと斎藤さん。

 仲が良さそうに、行ってしまった。


 後は、二人。

 山口さんに田島さん。

 人当たりはよく、生き抜くために、もし付き合う…… 体の関係となるにしても、この二人ならいいかも。

 そんなことを、彼女は考えた。


 だが、表に出さないだけで、当然他の人達も色々と考えていた。

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