第5話 決断
少し前、王の執務室。
「そうか。すでにそこまで強く」
腕を組み、うむうむと納得をする王。
横に立つ宰相は、顎をさすりながら命令を下す。
そう、王に対して。
「それでは、使いになるのか確かめ、駄目そうならご決断を」
「そうじゃな。あまり強くなると、脅威にしかならぬ」
そんな話があり、目的が決まる。
『第一の試練。隣国の村を襲おう。奴らが使え無かったり、反抗するなら殺してしまえ』
そんな作戦が実行された。
当然国境の村。
近くには、兵の詰め所が存在をする。
ここを治める隣国の辺境伯も、バカではないのだよ。
だが、物見が確認をして走ってきたが、すでにソドムート王国による狼藉は起こり、村人が殺されていた。
「ええい。ソドムート王国め。我が国へ侵略をして、狼藉までしおってぇ」
ソドムート王国は、相対的に水気。つまり、雨が少なく、農業に適した土地を求めていた。
そのため、勝手にここは我が国の土地宣言を行い、他国に侵略を行う。そして実効支配による、土地を広げる政策を進めていた。
そう、はっきり言って、屑国家である。
今攻撃を受けている、農業が主産業のオリエンタルムだけではなく、西の工業国インダストリアパトリアにも攻撃をしていた。
南はさすがに火山と山脈が有り、遠征ができないようだが、その軍備と兵糧で莫大な負担を民に課していた。
そして、多方面への同時侵攻は、意外と負担が大きい。
奪い取っておしまいではなく、奪い返されないように守らねばならない。
思っていたより負担が大きくなり、彼らも、じり貧になってきた。
そのため、眉唾だと思いながらも、古文書に書かれた儀式を行う。
だがそれが、幾度目かの実験の時、上手くいってしまった。
現れた者達は、あっという間に強くなり、魔法まで簡単に使う。
そして今度は、強くなってくると、当然だが恐れが出る。反抗されると逆に脅威となるからだ。
今ならまだ、兵達で殺すことが出来る。
そう言った軍団長の言葉を信じて、いきなり実戦へと投入。
してみたのだが……
だが、彼らは命令があっても、呆然として動かない。
「うむむ。どう判断をする?」
村の外れ。少し高台に構えて全体を見ている隊長達。
矢が主力だから、高台の方が躱しやすい。
「新兵のかかる臆病風では?」
「確かに、初めて人を殺すとなれば怖いものだが、目がな」
「目ですか?」
「命令に従い。ただ行動するものとは違い、見ておるよな」
「そうですね」
そんな会話の向こうで、相手の兵が叫ぶ。
「ソドムート王国め。いつもいつも、勝手に我が領地に侵略。
そう。無辜の民とは罪のない者という事。
最初に見たとおり、ここは他国の農村。
奴らは、そこで生活をしている、罪無き人達を襲っていた。
壊されていく平穏。
平和な暮らし。
声を上げ、逃げ惑う村人。
その事を、俺達は見て理解をする。
どう見たって、こちらが悪だ。
盗賊が村を襲っているとしか見られない。
それを呆然と見ていたが、頭の回らない状況から少し冷めてき始めると、頭の中と気持ちが怒り側へと振り切れた。俺はそう…… 怒り、魔法を使う。だが怒りにまかせた攻撃は、上手く手加減が出来ず、つい村人を襲っている味方の兵達を焼き尽くす。
―― そこまでする気は無かった。
だが、上手く制御が出来なかった……
一瞬で大惨事。
なんとか叫ぶ。
「やめろ。話し合え。どう見たって、ここは普通の村だ」
そう叫んだ瞬間、味方の矢が俺に殺到する。
無論周りには、一緒に転移してきた人達も。
「必殺、無敵シールド」そう叫ぶ。
いや単純に、氷の壁を生成して周囲を囲んだ。
俺には、良くあるシールドの原理が理解できなかった。
俺の魔法の原点は、すべてラノベやアニメの知識。
理解できない物は使えない。
最初樹脂を精製とか思ったが、組成を知らないんだもの。
それに解除するにも困りそうだし、良くあるシールドの雷が流れるようなエフェクトはなんだろう?
氷や土の壁なら、なんとなく分かる。
火は派手だけど、エイヤと気合いで突き抜けられそうだし。
ともかく、へなちょこな矢は、氷の壁。それですべてはじき返す。
氷を溶かすと同時に、命令をした隊長ごと攻撃をする。
いやな感触だ。
なんだか自分の中で、気持ちを切り離し攻撃をする。
まるでゲームのような感覚。
意識的には、見えているのは単なる映像。
だが、これは現実。
俺自身が人殺しなのは、理解をしなければいけない。
―― そう、こいつらを生かせば、またこの村は襲われる。
まあやってしまってから、背後を振り返れば……
確か、仲間のはずだが、召喚者達の俺を見る目が変わっていた。
一連の行動で、俺は恐怖の対象へでも変わったようだ。
そうだよなぁ。
この一瞬で、この数週間一緒に訓練をした兵。奴らを殺した。
高校生達。そして、一緒に来た、お姉さん達。
マジカヨコイツ。人を殺したぞ。
目がそんな事実を訴えてくる。
恐怖、異端、奇異……
だけど別の目も。
あやは、見ていた。
村人を追いかけていた兵達は、突然燃え上がり倒れていった。
ひどい光景。
逃げていた村人さえ、驚いて立ち止まった。
そして、それが起こる少し前。私たちは、同じ台詞を聞いた。
そう、敵だと言われた、あの兵が言った言葉。
「ソドムート王国め。いつもいつも、勝手に我が領地に侵略。
それが真実? それは分からない。ただ、その言葉は、彼の心からの言葉だと分かった。
でも…… 私たちは、それを聞いても、どうしていいのか判らない。
私たちはこっち側。
襲っている方……
だけど、動けない私たちの代わりに、正和が動いた。
躊躇のない攻撃には、少し引いたけれど、思いは同じ。
だけど、今の状況でも、どっちの言い分が正しいのか。
どうすればいいのか……
この時の私には、判らなかった。
気が付けば、味方の兵は全滅。
そう、五十人ほどの人が死んだ。
私たちは、向こうの兵から敵として追われるまま、とりあえず、この場を後にして王都へ帰る。
そして、今朝出発をした町で話を聞いた。
「大昔この辺りも俺達、王国の土地だった。歴史の中で奪われて、他国のものになった。俺達は返してもらうのさ」
国境の町。駐留兵は多い。
食事のために立ち寄った店で、酔っているのか声高に村を攻撃をする理由を教えてくれる。
どこかで聞いた話。
そんなことを言い出せは、歴史の中にあった約束事など無くなってしまう。
そんなものを理由に、今の時代に、一方的に人を殺して奪っていい理由にはならない。
こっち側だけではなく、反対側にもこの国は攻撃をしているらしい。収穫時期なら物資も奪う。
四方八方にこの国は戦争を仕掛けて、その戦力として、私達は呼ばれた。
「俺は逃げる。あんたらはどうすんだ?」
彼が皆に問う。
だけど皆は、答えを出せずだんまり。
「そうね。どう聞いても悪いのはこっち。人殺しはいや」
そう言って、私は彼の手を取った。
「でも、どうすればいいの」
奥さん方や、高校生はそこから、しばらくは泣き言合戦。
色々言っているが、要約すれば、どうすればいいの? をひたすら繰り返す。
―― 怖がられているが、丁度良い。
「戻れば、俺達は殺される。そうで無ければ、また何の落ち度もない人を襲うために、派遣をされるだけだ。俺達は伝説の武器らしいからな」
そう言って伝え、おまけの懸念も伝えておく。
「王国からすれば、制御が出来ず、従わないなら廃棄だろうな。殺されるのがいやなら、戦うしかない。何処とどう戦うのかは自身が決めろ」
俺は、呆然としている皆にそう言い捨てると、あやと一緒に馬に乗る。
鞍も付いていないが、少し乗ったら乗れた。
なんと便利な体。
二人が居なくなった後も、しばらく悩んだ彼ら、動き出したときには、もう二人の姿は見えなかった。
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