第4話 好奇心の塊。

 この姫様は、第二王女エレオノーラ。一六歳。

 十歳以上も年下。


 俺達の持ち物は、一切合切いっさいがっさい、すべての荷物を引っくり返して調べた様だ。


 ―― だが、よく分からなかったのだろう。

 紙幣や硬貨は別にして、スマホなど認証が必要だし、名刺などのものは文字が読めない。

 そして、素材すらよく分からない。

 紙幣が何か判らなくとも、その印刷技術が王国のレベルとは桁が違い、硬貨にしてもその造りは……


 そんな、理解不明なものがゴロゴロしている。


 お姫様は興味を持ったようだ。

 一体、俺達が住んでいたのは、どんな所で、どんな文明で、どんな暮らしをしていたのか?


 どう客観的に見ても、王国よりも進んでいる。

 その中で、比較的判りやすく、道具を沢山持っていたのが俺だった。

 素人目にも、工具の工作精度はすごいものだと分かる。

 宰相達は何か、うだうだ言っていたが、自分たちのプライドを保つためには仕方が無かったのだろう。


 そう。王達にしてみれば、俺達は力があるだけの蛮族でなくてはならない。

 それを飼い慣らして、王国の力として使う。

 そうそれが、王国の目的。


 もし自身達より優秀で、扇動でもされれば、力がある者達。

 それは、避けねばならない。

 まあ、それはそうだろう。


 そんな話をペラペラと姫様はしゃべってくれた。


 そのかわりに俺は教えた。

 ちょっとした道具で、皆が空を飛び、遠くまであっという間に移動が出来る。


 この世界は、惑星と呼ばれる小さな土の塊で、外に行けば宇宙が広がっている。

 そんな所にも、俺達の世界では国が創られ、人が暮らしている。


 あるとき、指導者が気に入らない奴が、その住むための人工物を、星に落としたりすることがあること。

 コロニー落としは、歴史の転換点だと……


 太陽系の図を書き、ここは、銀河の腕の一つ。

「人間など、ちっぽけなものなのさ」

 ふっ。

 などと、ほらを吹いてしまった。

 もう、後戻りは出来ない。


 いくつかのアニメが混ざった世界が、俺達の住んでいたところだと姫様は信じた。

 多分だが……

 高度に発達をした、近未来。

 それに関わる、電気系の修理屋が俺の職業だ。


「世界を構成する物質。それが持つ電子の流れ、それを取りだして、俺達は生活に役立てている」

「ああ、それでなのね。掛けてくれたのは浄化でしょ? 神官が使う魔法。すごいわね。慣れているのね」

 そう言って喜んでくれた。


 その日からちょいちょい、兵も連れずにやって来る。

 一度綺麗になると、周りの人達の匂いが気になり、自分も臭くないかと思うらしい。綺麗にするために、神官に浄化をたのむと叱られたらしい。


 病気や、魔を祓うためのもので、体を綺麗にするためなどに使ってはいけないと。

 冬に水浴びをすると、魔を引き寄せ病気になる。それと同じなのですと、よく分からない説教まで喰らったらしい。

 そう言って、言い上げに来た。


 そして俺は、ほらを吹く。

 世界には、目に見えない病原体がうようよ居るんだと。

 説明しようとして、無理だとわかり、彼女にヘルプをたのんだ。

 そう、専門家の看護師さん。


 そして姫様から、向こうでの普段していた生活を聞かれて困ったらしい。

「皆が適当に空を飛ぶって、あれは青い狸が持っている道具の話ですよね」

「猫だ猫」

 彼女の目が、間近で何かを訴える。


「脳みそを機械化してるというのは?」

「ロシア辺りじゃ、ありそうだろ」

 そう言ってごまかす。


「宇宙ステーションはあるけど、コロニーを落とすって」

「中国が落としたじゃないか」

「あれは、ステーション。たしか、制御不能で……」


 まあまあ、何とかあわせてもらった。

 俺も、そんなに大きくは、嘘をついていない。


 そして姫様は、衛生教育を聞いて驚く。

 この王国でも数年に一度、インフルエンザやペストに似た病気などが、やはり流行るそうだ。

 そのたびに、当然だが、多くの人が亡くなる。


 そちらでも、教会の嘘。

 と言うか、迷信がはびこり、お札おふだだったり、祈りいのりだったり鞭うちだったりで、体の中の病魔を祓うことがあるらしい。

 治らなければ、信心が足りない。

 そんな事を言われ、病気が治まるまでその家族は隔離される。

 むごいが、その隔離は有効なそうだ。


 そんな話を、少し姫様はまとめて、対策法の中へ混ぜるそうだ。

 お湯による器具やリネンの消毒など、使えそうなもの。

 変なことを書くと、本気で病人を茹でることをしそうだから、気を付ける必要があるようだ。


 そんなお嬢さん。

 俺の部屋に入り浸り、斎藤 あやちゃんも入り浸る。


「だって未成年の子と二人、ベッドでゴロゴロしているんですもの」

「彼女。エレオノーラは、一六歳で成人をしているらしいよ」

 そう言うと、あやちゃんはふくれっ面。


「お人形さんみたいで、かわいいですものね」

 彼女はそう言いながら、ふくれっ面のまま、ベッドでゴロゴロ。


「そんな格好をしてると、襲っちゃうぞ」

「うーん。良いですよ。私なら…… 未成年じゃないですし…… ごめんなさい。経験もありますから」

「まあ、それなら良いのか?」

 そんなキャピキャピ生活を、俺は喜んでいた。

 そう、その時はこっちへ来て、よかったと思っていた。


 だが刻は、そんな状態を許さない。

「貴様らが使えるかどうか、討伐に行く」

 そうその時から、キャピキャピ異世界生活は少し変わった。


 遠征。

 それは遠くへと行くこと……


 すっかり臭くなった、お臭さん達。いや、お姉様方や兵達。

 流石にお嬢様は来ていない。


 二日が経ち、十日が経ち、ゴロゴロと馬車は移動をしていく。


 手前の町で準備をして、こそこそと行軍をしていく。


「よし、あそこの村。あそこが目標の集落だ。奴らは盗賊であり、我が国の土地を不当占拠をしている。目標全滅だ。かかれぇ」


 そうは言われても、どう見たって平和な農村。

 楽しそうに走り回る子供達。

 ひっそりと、木陰でエッチをしている村人達。

 

 俺達は動けなかったが、兵達はわーとか言いながら襲い始める。

 襲い、奪い、抵抗するものは、容赦なく斬り殺される。

 残虐。そこに容赦などは無い。

 風に乗り、漂ってくる血の匂い。


 俺達全員が、その光景を現実と思えず呆然としていた。


 だが、近くに駐留をしていたのか、別の格好をした兵達が、現場に押し寄せてくる。

「ええい。敵だ。貴様らナニをしておる。いけぇー」

 相手方。髭を生やした隊長が叫ぶ。


 そして、こちらにも矢が飛んでくる。

「きゃ」

 とか言って、頭を抱えて、蹲るお姉さん達。


 高校生も、千尋ちゃんを守る二人。

 訓練では、はっちゃけていた無謀な光一君だったが、人殺しには参加をしなかった。

 だが…… そんな事は許されない。

 俺達は、兵器として召喚されたのだから……

 そこから、少し? のんびり、いちゃいちゃ異世界ライフは狂い始める。

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