第3話 王城での生活

「あっまた。長尾さん、自傷の癖とかあるんですか?」

 そう言ってしゃがみ込んだのは、斎藤 あやちゃん。


 看護師で、同じ年。

 訓練後、そっと浄化魔法を使って、にまにましていたらバレた。

「お願いします。私にも…… やって」

 そう言われて、手を掴まれた。


 それでまあ、自己紹介をしたら、夜な夜な俺の部屋に来る関係に……

 そう、下着と体の洗浄。

 日本人に風呂無しは、やはりきついようだ。


 いい加減、周りの奥さん達に怪しまれているようだが、まだ言っていないようだ。

 無論、浄化魔法のことだが。

「まっ。も……」

「ちょっと待っていますから、大丈夫です」

 せっかく、絶景を楽しんでいたのに、勘違いをして彼女はベッドの方へ。


 そう、倒れていたから、彼女は部屋へ入り、俺の顔をまたいでいた。

 防具がてらの服は小脇に抱えて、来たときのシャツとスカートだった。

 待って、もう少し見せてと言ったのに……


 いや…… 聞こえなくって正解だったのか。

 意識がもうろうとしていたから、やばいことを口に…… やばかったな。

 完全セクハラ。


「ぐっ」

 気合いで起きる。

「チョー回復。いっぱーつ」

 深く、深呼吸をする。

 だが、それも一瞬。へにょへにょとへたり込む。

 彼女はベッドに座っている。つまり、ベストはこの角度なのか? そう思いながら耐えきれずまた床へ。


 なんとなく、細胞レベルで魔力が浸透をするのが判る。

 そう呼吸。空気と一緒に取り込んでいる。

 深呼吸は、魔力切れからの復活に有効だ。


 うおおーという感じで拳を突き上げていたら、横で笑われた。

「長尾さんっておかしい。子どもみたいですね」

 そう言って彼女が笑う。


『良いのかい? 男におかしい人っていうのは、好きというのと同義だぜ』

 無論口には出さないが、どこかで読んだ台詞が頭に浮かぶ。


「どうしました?」

 じっと見ていたのが判ったのか、彼女が聞いてくる。


「ああいや。かわいい…… あー」

 つい口に出た。

 彼女は思いっきり驚く。

 だが二十八歳。

 ガキではないのだ。


「今のは、私に対してですよねぇ。ありがとうございます。んーと、吊り橋効果ですかね」

 そう言って、彼女はてれてれと、赤い顔になり困っていた。


「そうですね。付き合います? 丁度、新しい世界だし、良いかも……」

 後で聞いたら、彼女はあの数日前、振られたばかりだったようだ。

 仕事のタイムスケジュールでは、デートがうまく出来ず。患者さんの状態では集中できなかったりして、上手く行かなかったようだ。


 そりゃね、担当患者が何時死ぬか判らない状態で、彼氏とエッチなど。

 まあ普通なら辛いだろう。


 そんな話をしていたら、廊下でガシャガシャと音が聞こえる。

 ノックなどはなく、扉が開かれる。

 兵士は武装をした五人。

 そして女の子。


 何か合図をすると、兵士が俺の工具箱を持っていた。

「あっ、おれの」

「無礼者。姫様を寝転がってお迎えするなど、斬り殺すぞ貴様」

 先触れもなく、いきなり来たのにそれかよ。


 状態を考え、斎藤さんを帰す。

 浄化もせず、返事も返さず。

 俺は激おこだった。


 無礼な口をきいた兵は、斎藤さんがいなくなった部屋で、二メートルほど空を飛んだ。


 振り向きざまの一発。

 魔法による身体強化。

 拳もカバーをされて問題ない様だ。


「きっ、きさま」

「やかましい。夜に先触れもなく来ておいて、無礼だぁ。無礼なのはそっちだろ」

 そう俺は、そんなにおとなしい性格じゃない。


 かと言って本職や、相手を探して徘徊するような性格でもないが、一方的な理不尽が嫌い。


 だが兵達が、剣を抜く。


 さっきぶっ倒れたばかりで、あまり回復をしていないが、呼吸と魔素の練り込みでなんとかあと四人。いけるか??


「おやめなさい」

「しかし姫様」

 口答えをした兵を睨む姫様。


「はっ。おい」

 ぶっ倒れている兵を外へ担ぎ出す兵達。


「ねえ、教えてくださらない?」

 そう言ってみせるのは、俺の工具箱。


「人の物を、勝手に持っていくのは感心をせんなぁ」

「また。きさま」

「確かにそうよね。勝手に持って行かれれば、機嫌も悪くなるわよね」

 また姫さんが、フォローをしてくれる。


 工具箱を受け取り、中身を確認をする。

 ニッパやワイヤーストリッパー。パイレンにドライバー類。

 テスターに、圧着工具やモンキー。

 電池式半田ごて等々。


 無論電工ナイフやカッターもある。

 すごいだろ、今時電工ナイフを持っているんだぜ。

 まあここでは使わないものだろうが、モンキーは今必要かもしれない。

 殴るには手頃。


「それで、これは何?」

 姫さんが聞いてくる。

「うん? 工具だ。俺達の世界では主に電気というものを使っている。ここじゃ魔法のようだが」

 

 兵が松明を持って、部屋の中に居るんだよ。

 光の玉を創り、空中に浮かべる。

 波長は六千ケルビン、千ルーメンほどの光の玉。


 良くあるLEDのランタンくらいの明るさ。


「なっ。なんだこれは」

 兵達があわてる。

 なんだ? 無いのか、こんな魔法。


 大抵は、松明。モンスターや獣除けにもなる。

 魔力を使って明かり。

 魔導具でもないと、そうだな、必要の無い魔法だな。


 だがまあ、明るいところで見ると、姫さんが、若くてかわいいのは判った。

 そして、風呂に入っていないのも判った。

 つい言ってしまう。

「臭い」

 その言葉に、姫さんは反応をする。


「あなたたち、外に出ていて」

「はっ、いえそれは」

 兵は当然嫌がる。だが姫さん容赦ない。


「どうせ居ても、すぐにのされるじゃない」

 腰に手を当て、指先はびしっと廊下を指さす。


「はっ、それはそうですが。一週でまさかここまでに」

「出て行って……」

 睨まれて出て行った。


 それで俺は、何も言わずに浄化を掛ける。

 うーん。三度ほど。


「周りに言うんじゃ無いぞ」

 姫様は、体や口の中。何かを確かめている。


「すごい。気持ちが良い」

 そう言った瞬間、ドアの前でガタッと音がする。

 俺、今晩。姫さんが帰った後に切られそうだな。

 つい俺は、そんなことを考える。

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