第16話
「信じない。貴方にとって私は貴方が生きてきた長い時間のほんの一瞬通りがかっただけの人間でしょ?」
何故か自分で言って少し悲しい気持ちがした。
「それは間違いないかな。
といより…むしろ、ほんの一瞬ですらない程の瞬きだよ。
でもね、その瞬きが眩しくて美しいと感じることも事実なんだよ。
だから…。別に信じてくれなくてもいいよ。
悪魔の言葉なんて、でも僕の心が少し本当に揺らいだりする事ぐらいは僕の自由でしょ?」
彼の声はとても嘘を言っているようには聞こえない。
でも彼は悪魔。
そういう事が平気でできる事が悪魔。
「まぁ…。出会いだったことは事実だね。だから何ってわけじゃないのも事実だし、貴方もどうせそうなんでしょ?だから私もここでのことはいい思い出にしておくから、もう良いよ、嘘つかなくても。現世に戻ることを…考えなきゃ…だしね?」
何となく話題を変えたくて私は話を戻した。
「それでいい。
信じてくれなんて言える立場じゃないし、僕が人間か天使だったらね…。君に愛される奇跡もあったかもしれないのになぁ。ハァ…」
おどけるような、諦めるような声でそう言った彼の声に心が締め付けられたが、ゆっくり呼吸を整えて彼の真意を問うのはやめようと決めた。
「でさ…?どうするの?どうやって現世に…」
そう言いかけたとき。
っ!!!
気がつけば彼の少し濡れたまつ毛が顔に触れる距離にいた。
ちょっといきなり何?
体を仰け反らして彼を押し除けようとした。
…が、そんな抵抗は無だった。
柔らかい唇が私の唇を撫でた。
驚きで体は動かなかった。
逃げたいのに逃げられない。
きっと人間なら温かいはずだけど、その唇は氷のように冷たくて、その感覚に少し覚えがあった。
トラックと衝突した後の何も感じなかった時間。
その後に私の体を包み込んだ冷たい感覚。
あれはこの人の体温だったんだ。
きっとこれが悪魔の誘惑なんだ…。
分かっているでも抗えない…。
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