第2話

ずばびし!ぴしゃごろーん!

ずばびし!ぴしゃごろーん!

ずばびし!ぴしゃごろーん!


町外れで今日も朝早くからマルスは指さしと効果音の練習をしていた


毎朝3000回の日課により、指さしの的にしている良い感じの見た目の縦に長い岩は、少しずつ掠れ、完全に割れるまで後一歩だ


毎朝の鍛錬により、磨きのかかった指さしは、少しのブレも無く完成された芸術品だ


足を踏み出し、素早く指を前へまっすぐ伸ばす

ただそれだけの動作


力強さがあるのに、自然体


筋肉は力を入れすぎるとプルプル震えてしまう


それでは指先も震えてしまう


しかしマルスの指はヒタリと静止する


何万回の試行の中で至った指さしの極地の自然体


何万回でも同じ位置に収まる必然


最初のうちは3000回をこなすのに、

朝日が昇ってから陽が沈むまで掛かってしまっていた(途中、食事昼寝おやつトイレお風呂コーヒー休憩を含むものとする)


一回一回何分も掛けた日々が懐かしい

しかし、今や秒だ!秒!

朝飯前の日課だ


今日の仕上がりにマルスは重々しく頷きスラム街に戻る


指さし練習と効果音で魔力はだいたい使い切るので、残り滓で通りすがりの人を助けて金をせびるのがマルスと言う男の生き様だ


おっと金を持ってそうなお嬢ちゃんだ


マルスの鋭い眼差しは、聖女マリアンヌの指先のささくれを見逃しはしなかった


「な・おーれ!」


「やめなさい!そのダサい詠唱!」


マリアンヌの指先強い光に包まれ、ささくれが治った


処理されていた甘皮も元通り!


毛色の色素が薄いから分かりにくいが、指毛もしっかり生え揃ったはずだ


偽物であっても聖女として20年以上を過ごした実力は本物なのだ


「やはり貴方が本物の聖女なんだわ」


マリアンヌがなんか言ってる


男が聖女なわけあるめぇ


「治療費払ってとっとと帰りなお嬢ちゃん」


頭の方に回復魔法掛けたら、変なこと言わなくなるかな?


「そうはいかないわ!」


コイツ治療費を踏み倒すつもりか!?


「金が無いなら支払いは少し待ってやっても良いんだぜ?」


マルスは心優しい男であった


もちろん借用書は書いてもらうし、金利はしっかり取るつもりだ


「治してなんて言ってないわ!」


おっとコレは知ってる


「ツンデレ…か

悪いが素直じゃ無い女は苦手なんだ」


ツンツンされたら童貞の繊細なガラスハートはすぐにひびだらけだ

やはりチョロインこそ至高


「ふざけてないで、一緒に魔王を倒しに行くのよ!

あと、お祈りもちゃんとしなさいよ!貴方が祈らないとこの国ヤバいんだから!」


魔王…か、

有名人みたいだけど会った事ないし、男みたいだから興味はないな


しかし、後半は聞き捨てがたい


「ちゃんと祈ってるぞ

効いてないなら、やはり俺は聖女じゃないんだろう」


「回復魔法を見れば本物なのは分かるのよ!

追い出された腹いせに適当にやってるんじゃないの!?」


この聖女さんはカルシウムが足りてないのか、常に怒ってる

カルシウム…か

今朝ゴミ箱に魚の骨が入ってたな

しかしそのまま食べさせるのは流石にダメなのはマルスにも分かる

火を通した方が衛生面上良いだろうか?


「ちょっといつも通り祈って見せなさいよ!」


「ああ、今朝はまだ食ってないから祈るのはコレからだな」


「どういう意味?」


「食べる前にしっかりお祈りしてみせるから、まあ見てな」


片目を瞑ってみせる


「まさか!ご飯前にしか祈ってないの!?

どおりで国が荒廃していく割にはご飯が毎日美味しいわけよ!」


神聖な祈りに包まれたツヤツヤご飯万歳!


ずがーん!


恐ろしい音がして、人々のキャーキャーワーワーという悲鳴が聞こえる


「封印がとけたぞー!」「目覚めるぞー!」

人々が音と反対方向へ我先にと駆けていく


「これは!?」


聖女マリアンヌが音のした方を見る


マルスが人々の向かう先を見る


「バーゲンセールでも始まったのか!?」


急がねば


人々の波に乗り遅れない様、全力を尽くすべくクラウチングスタートの姿勢をとる


「ふざけてないで音のした方に行くわよ!」


聖女マリアンヌがマルスの頭を叩き、そのまま片手で頭を鷲掴みにして音の方へ向かって走っていく


良い脚をしている

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