第13話 成功!?
陽火の雰囲気が変わったから、希望を感じてつい……!
「……俺には、そんな冒険ができるほど手放せるものがない。『王』に捨てられたら、俺は……」
また独りだ、と陽火が声にならないままつぶやく。
彼の瞳が、おびえるように小さく震えた。
「独りじゃないよ」
陽火が、すがるものを探すような、ウツロな目で私を見る。
独りじゃない。そう、独りじゃないよ。
今まではそうだったかもしれないけど、これからは違う。
私、知ってるんだ。
陽火は優しくて、周りがすごく見える人だって。
大丈夫だよ。陽火のそばにいてくれる人、たくさん見つかるよ。
だから⋯⋯歩みよるのをやめないで。拒まないで。
「私も、陽火の冒険につき合わせてよ。離れたりなんかしない。独りになんかしない。私と一緒に、新しい挑戦、してみようよ」
「っ!」
服をつかんでいる陽火の腕を、両手で包みこむように握る。
びくっと体をこわばらせた陽火が、泣きそうに顔をゆがませた。
「分からなくても受け入れろ、なんて……。紡はムチャ振りしてくるな」
「ムチャじゃないよ。みんな、分からないものに囲まれてるし」
お母さん、お父さん、綾瀬、クラスメイト……。
思えば私、みんなのこと、あんまり分かってないなって。
陽火はへにゃりと眉と目じりを下げ、泣き笑いの顔になる。
「ああ……うん、そうだな。分かってるって思ってても、それは思いこみだったりするのかもな。分かってるつもりっていう」
そう言って私から手を離した陽火は、切なそうに『王』の後頭部を見つめる。
やっと、『王』に利用されてるって、気づいてくれた?
『王』が陽火をどう思ってたとしても、生気を吸って、危険な状態に追いつめるのは、陽火のことを大切に思ってない証拠だし。
独りになるのが怖いならって、『王』じゃなくて私がそばにいるよって言ったけど……やっぱり、さっとは離れられないか。
『王』がどんなでも、陽火にとっては、初めて自分を認めてくれたんだもん。
当然、思い入れもあるよね。
陽火が、ぬいつけられた糸を断ち切るように、真っすぐ私と目を合わせる。
さっきまで揺れまくってた瞳とは正反対に、快晴の満月を思わせる、澄んだ瞳だ。
「俺、紡と行くよ。今まで俺とは違うってさけてきた世界に触れて、知って、わくわくしてみたい。その……だからって、『王』の恩を忘れることはできないけど、今は『分からない』で片づけたくないから」
陽火が照れたように、首に片手を回す。
「……紡が、いてくれるし」
「っ!? うん……うん……っ! ずっと一緒にいるよ!」
会ったばかりのときみたいな柔らかい雰囲気に、じわっと視界がにじむ。
いかんいかん、こんなところで泣くんじゃない。
敵の大将の背中の上だぞ。
……でも。
これって、陽火の説得成功ってことだよね!?
うわあああ、これで、全部解決するんだ……!
陽火が死んじゃうことはなくなるし、お母さんたちだって、戦いやすくなる。
私にも、デキた……!
陽火を助けて、みんなの役に立てたんだ……!
「行こう、陽火!」
「うん」
伸ばした手に、陽火がためらいなく手を重ねる。
今度は、振りほどかれたりしないように、ぎゅっと手を握った。
嬉しいなあ。あとは、陽火を『王』から離すだけなんだ。
手も握り返してくれて、離さないよって、陽火も同じ気持ちなのが伝わってくる。
「『王』の背中から一気にとびおりるから、せーので同時にジャンプして……」
「…………ぅ」
ドサッ。
つないだ手が、ぐんっと後ろに引っ張られて重くなる。
「陽火?」
不思議に思った私は、後ろを振り返る。
そこには――うつぶせに倒れて動かない陽火がいた。
「陽火っ!? 大丈夫……じゃないよね」
なんで!? あとちょっとなのに……!
私は、動かすよーと声をかけながら、陽火をひっくり返す。
「っ!」
顔色が、すごく悪い。
さっきの比じゃない。
血の気がなさすぎて、青みがかって見えるくらいだ。
その額には大粒の汗がびっしりで、滝みたいな勢いで流れ落ちてる。
呼吸も苦しいのか、肩や胸が絶え間なく上下してる。ひゅーひゅーいってて、リズムもぐちゃぐちゃだ。
「陽火、しっかりし……」
「ガァアアアアア!」
『王』のほうこうに、ゴオッと炎の勢いが増す。
と同時に、陽火がふっと動かなくなった。
ウソ……!?
さぁっと血の気が引いて、陽火の手を握る。
脈はあるけど、すっごく冷たい。
けっこう危ない状態だ……!
「でも、なんで急に……」
言いかけて、バッと『王』の後頭部を見る。
聞いてたんだ、私たちの会話。
症状の悪化から察するに、『王』は生気を吸う量を増やした。
それによるパワーアップだと思うけど……陽火が自分から離れるから、全部吸いとろうって?
陽火の生気がつきたら、死んじゃうのに?
……ひどすぎるよ。
「な……っ!?」
突然、大蛇のようにうねって、紫炎がこっちにつっこんできた!
え……え?
今まで、そんな動きなかったのに……!
陽火をかばうように抱え、右手をつき出す。
私だって、『王』と接触するのに、なんの準備もしてこなかったわけじゃないんだから!
手首にはめた、鉄製のブレスレット――夜行具を使うタイミングを見極めるように、目を細める。
3、2、1……今だ!
夜行具から、シュッと鋭い光線が放たれ、紫炎の真ん中をつらぬく。
光線から風が吹いたみたいに、フッと紫炎が散って消えた。
よしっ。
炎って物理攻撃じゃムリだから、効くか心配だったけど、予想通りだ。
この調子で紫炎は払って、陽火を抱えていけば、『王』からおりられるかな。
……いや、やるしかないんだ。
悩んでる間にも、陽火は生気を吸われてる。なら、もたもたしてられない。
私が陽火のわきをくぐって、立ち上がったときだった。
今まで座ってたところの紫炎が、陽火の足をからめとり、そこから一気に火柱を上げて包みこんだ!
「陽火!」
まずいまずいまずいまずい……!
せっかく手の届くところまで来たのに、陽火の重みが感じられなくなった……!?
さっき紫炎を散らせたのは、夜行具が紫炎を妖魔の一部として認識したからで。
実際はこの紫炎、熱くない炎と同じなんだ。
どっちかっていうと、霧とか煙とか、そんな感じに似てて、私たちを遠ざけるなんて、物理的にムリだと思うんだけど……。
違う違う! 今はそんなことじゃなくて!
陽火をとり戻さないと!
紫炎につっこんだままの左手に、異常がないのを確認し、息を止めて火柱にとびこんだ。
「……あれ?」
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