第11話 夢見なんかじゃない

 ドオオォオオオン……ッ!

「お母さん!」

 すごい衝撃だ……!

 お父さんに抱えられてる、私まで吹っとびそうだよ……!

 巻き上がった土煙が、炎に呼応するように晴れる。

「『王』……! くそっ! 総員、攻撃準備!」

 お父さんが、同じく後退した夜行士たちに指示をとばす。

 ザッと一気に殺気立った彼らは、それぞれの夜行具を構える。

「開始!」

 矢やら弾丸やらの遠距離武器が、線になってすぐ横を通りすぎていく。

 それにまぎれるように、近距離派の夜行士たちが、紫炎へと駆けていく。

 すごい数の攻撃だ!

 さすがの『王』でも、これはよけきれないんじゃ……!?

 『王』は、そんな彼らを冷たく見下ろすと、ぶわっと毛を逆立てる。

 ボボボッと、抱えきれない大きさの火の玉を無数に出現させると、全部こっちにとばしてきた!

「ツムちゃん! 手、離して!」

「え? あっうん……!」

 そっか。私が夜行具に触れたままだと、お父さんが使えないんだ。

 慌てて手を離すと、お父さんは私を体でかばうように引いて、すっと手をつき出す。

 開いていた手を力強く握ると、私たちの方向にとんできていた三つの火の玉が、圧縮されるように消えた。

 すごい……。

 アレを、一瞬で……!?

 ぽかんと口を開けて見ていると、お父さんは私を抱え直して、近くの木陰に移動した。

「ツムちゃんは、ここで隠れてて。いい? 絶対に出てきたらだめ……」

「やっぱり私だって! 私だって戦える!」

 私は、必死でお父さんの服の裾を引っぱる。

 私だって、こんなにすごいお父さんの娘なんだ。

 やったことなくたって、少しくらいは……。

「いい加減にしなさい!」

 バッと、たたくように手が払われる。

 眉をつり上げて私をにらむお父さんは、上からおさえつけるような圧を放っていて、思わず一歩後ずさる。

「ここは戦場だ。しかも、相手は妖魔界最強の『王』。実績もないのに、デキるかもなんていう不透明な夢を見るんじゃない。命を落とすかもしれないんだよ」

 デキるかもっていう、夢見……?

 命を落とす……?

 そんなんじゃない……けど、危ないのは事実だ。

 それくらい、私だって分かって……。

「し、ぬ……」

 口にしてみると、胸の中がかき回されるみたいにザワついて、背中にゾッと悪寒が走る。

 やば……急にリアルに……!?

「僕たちは、ツムちゃんが大事だからね。ムリなところには、絶対に放りこみたくないんだ。だから……ね? 待ってて」

 お父さんは念をおすように私の頭をなでると、夜行士モードをといて、ふんわりと笑う。

「うわああああっ!」

「後衛! 負傷者! 負傷者の保護を!」

 紫炎の火の玉が雨のようにふりそそぎ、悲鳴やら奇声やらが絶え間なくとびかう。

 お父さんはさっと身をひるがえすと、とぶように走りさってしまった。

 行っちゃった……。

 デキるかもっていう夢、か。

 たしかにそうかもな。もしかしたら、私が活躍して、みんなの力になれるんじゃないかって。

 あの夜行士みたいに、陽火を笑って助けられるかもって。

 ……でも、落ち着いて考えれば分かる話。

 いくら全能だからって、いきなり実戦はムリだ。

 今までずっと、デキない子だったから、何かデキるんじゃって思った瞬間から、冷静じゃなかったんだろうな。

「『王』と戦うなんて、聞いてねーよ。夜行具壊れんの、何回目だ?」

「んー……うちは三回目。前衛は特に消耗が激しいからねー」

 小走りにすぐそばを駆けていった、二人の夜行士。

 夜行具って、壊れるんだ。

 そりゃそうか。特注っていっても、使えばモロくなるもんね。

「グァオオォオオオ!」

 『王』が高らかにほえ、思わず手をついた木にまで、振動が伝わってくる。

 急にどうしたんだろ?

 だいぶりきんでたみたいだけど……。

「っ!」

 木の陰から奥をのぞいた私は、はっと息をのんだ。

 余裕そうに夜行士たちをけちらす『王』。

 その足元で、ボロ布みたいに転がっている夜行士たち。

 次々と現れる火の玉は、後衛を狙っていて、前衛の援護が全くといっていいほどにできていない。

 よく見ると、後衛よりも後ろには、傷を負った夜行士たちが!

 お母さんたちがいても、この苦しい状況。

 劣勢だ……!

 ここまでおされてるんじゃ、私を参加させたくないのも納得……。

「アレは……?」

 『王』の背中の上で、なんか動いた……?

 フラついて落ちそうにも見える……人?

 あの炎、熱くはなさそうだけど、食らった人の様子がおかしくなってるからなあ。

 ソレをまとってる『王』にくっつくなんて、なかなか勇気のある夜行士……。

「……違う。アレは……陽火だ!」

 認識した瞬間、私はいても立ってもいられなくなった。

 夜行士じゃないじゃん……!

 お母さん、陽火が『王』の背中にって言ってたのに!

 私はを探して、ダッと走り出す。

 あの人たちはこっちのほうに……。

「……あった!」

 私は超高速でソレに駆けよると、さっと数個選んで身につける。

 みんな、『王』への対応で手一杯で、きっと陽火のことは頭からぬけてる。

 でも、陽火が『王』の背中に乗ったから、『王』がパワーアップしたんだよね?

 なら、陽火を離せば、少しは戦況がよくなるはず。

「……暗視ゴーグル、オッケー。夜行具も攻撃系ばっかだけど、問題ナシ」

 ぐっぱっぐっぱっと、手を握って開いて……うん。思ったよりも震えてない。

 大丈夫。戦闘はしないから。

 お父さんのを使った感覚でいけば、夜行具だって使えるはずだ。

 陽火を救出する。ただ、それだけ。

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