第3話 人が落ちてきた!?
落ちこんでぼーっとしてたから、変なところに迷いこんじゃったのかな……。
でもここ、庭みたいなものなのに?
この山の頂上には私の家があって、丸ごと一山が私の家の土地。
驚いたでしょ?
なんでも、丑寅家は、四大夜行士の一家なんだとか。
なんか特別なことしてるらしいんだけど、私は知らないんだよねぇ。教えてもらえないし。
その由緒正しい家の娘がこんなんとか……申し訳ない……。
「ん?」
何気なく空をあおいだときだった。
アレ、もしかして人……?
ほぼ崖ともいえる、傾斜がキツめの坂の上で、誰かがこっちを見ている……気がする。
ぐぬぬぬぬ……逆光だし遠いしで、あんまり見えない……。
私が目を細めてガン見していると、人影はサッと身をひるがえして、奥へと消えた。
「違う……アレは、人間じゃない……」
身をひるがえしたときに見えた、異様に膨らんだ腰回り。
アレは、尾だ。
授業で習った。獣の妖魔は、人型になっても耳と尾が出てしまうって。
つまりアレは、妖魔……!?
ドッドッと心臓が体を揺らす。
全身から汗がふき出して止まらない。
私は、夜行の実技もDだ。
襲われてたら、危なかった……!
「う……」
倒れていた人が、うっすらと目を開ける。
気がついた……!
「ここは……」
「あの、大丈夫ですか?」
「ん、アンタは……」
「私、丑寅紡っていいます」
「そう、か。俺は、陽火だ」
陽火は、体が痛むのか、顔をしかめながら起き上がる。
日に透ける、金色のサラサラな髪。
キツネみたいにツンとつり上がった瞳は、吸いこまれそうなほどに、深く澄んだ黒色。
体つきは、骨と皮だけなんじゃないかって思うくらい細い。
改めて見ると、アニメから出てきたみたいなイケメンだなぁ。
綾瀬もイケメンだって騒がれてるけど、陽火は神秘的なカッコよさだ。
「……えっと、俺の顔になんかついてる?」
「え? あっ、いやいやいや何も! 何もついてないよ!?」
「ならいいけど……」
うわああああ、何じーっと見てんの、私!
絶対不審に思われたよ!
私は慌てて目をそらし、熱くなった頰を両手でおさえる。
すると、次は陽火がじっと観察するように見つめてきた。
「あのさ、紡って、人間だよな?」
「? そうだけど、なんでそんなこと聞くの?」
「それは……」
私が首をかしげると、陽火は迷うように瞳を揺らして、口を閉じてしまった。
人間だよなって、他に何に見えるんだろ?
人間じゃないとしたら、妖魔とかだけど、もしそうだとしたら、角とか尾とか羽とか、何かがついてるはずだ。
私は手を回したり、全身を目視で確認したりするけど、何もない。いつもどおりの体だ。
じゃあなんで、そんなヘンなこと聞くんだろう?
「……いや、いい。なんでもない」
陽火は、ふいと目をそらした。
なんか、言えないこと隠した……?
すっっっごい気になるけど、会ったばかりの私がつっこんでくのもな……。
グウウウゥ。
「ん?」
お腹が鳴る音?
私じゃないってことは、陽火?
私が陽火をまじまじと見ると、彼は恥ずかしそうにお腹をおさえて、ちっちゃくなっていた。
耳まで真っ赤だ! かわいい……!
お腹がすいてるみたいだけど、あいにく迷子だからなぁ。
「ごめんね、陽火。私今、何も食べるもの持ってなくて。……そうだ! もうこんな時間だし、陽火の家の人も心配してるよね。
「……ない」
「え?」
「帰るところなんて、ない」
思わぬ言葉に、私は耳を疑った。
……帰るところが、ない?
パッと思い浮かんだのは孤児だけど、それこそ、こんな山の中に入ろうなんて、思うかなあ。
険しい山道より、きっと平坦な路地のほうが、楽だし暖かいよね。
陽火の表情は、長い前髪が隠して見えない。
だけど、不安そうにくちびるをかんでいるのが見えて、私はハッと息をのんだ。
何かにおびえてる……?
なんとなくだけど、昔から独りなわけじゃなさそうだ。
どっちかっていうと、今独りになったみたいな感じが強いかな。
ん? ってことは、この山に、す、捨てられたとか……!?
山に子どもを捨てるみたいな話は、聞いたことがある。
まさかそれ!?
迷いこんだんじゃなくて!?
まじか……なら、あおさら放っておくなんて、できないぞ……!
「あ、あのさ! じゃあ、私の家にこないっ?」
行くあてがないなら、作ってあげればいいんだよ。
幸い、
名案じゃない!?
私が陽火をキラキラ見つめると、彼はあきれて半眼になった。
「アンタ、さっき迷ってるって言いかけただろ。まず、帰れるのか?」
「うっ」
「しかも、俺は会ったばっかだ。そんなヤツを家に上げていいのかよ」
「ぐっ」
「親の許可は? 迷惑かもしれないだろ」
「…………」
「おい……。もう少し考えてから発言しろよ」
「オッシャルトーリデス……」
うぅ、いいと思ったんだけどなぁ……。
陽火は大きくため息をつくと、地面に手をついて立ち上がった。
「行くぞ」
「……え?」
「探しものは得意なんだ。紡の家だって、すぐに見つかる」
陽火は優しく目を細めて、手をさしのべてくれる。
……キレイだ。
夕日に透ける髪と肌。
光を受けてきらめく瞳は、宝石みたいだ。
もし陽火が悪い妖魔だとしても、私はついていってしまうかもしれない。
だって、怖くないから。
「……紡?」
「っごめん! ボーッとしてた!」
……ダメだ。陽火がカッコよすぎて見とれちゃう……!
このままじゃ、ヘンな人だと思われるよ!
私は、待っててくれる陽火の手を、慌てて握る。
「へっ?」
ふわっと浮いた感覚に、思わず声がもれる。
ひざの裏と背中に回った、腕の感触。
手を伸ばせば触れられそうなほど近い、陽火の顔。
「少しだけスピード出すからな。首、つかまっててもいいぞ」
「えっ、いやいや! 自分で歩けるから!」
「はやいほうがいいだろ。行くぞ」
「だから……うわあああぁあぁあ!」
陽火は地面をけると、ジェットコースター並みの速さで走り出した!
速い速い速い速い速いぃぃぃ!
その辺に生えてる木とか草とか、もう判別できないって!
絶対に一般人じゃない……!
しかも、お姫様だっことか! 初めてなんだけど!
手がカラッポじゃあ、落ちそうで怖いよ……!
ほぼ無意識に陽火の首にすがりつくと、彼は一瞬だけ身をこわばらせた。
けど、絶賛パニック中の私は、そのことに気がつかなかった。
「ついたぞ」
「うぅ、怖かった……」
陽火は少しずつスピードを落として止まると、そっと私を地面におろす。
今の速さ、夜行士みたいだったよ。
綾瀬よりも速いかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。