しおりんと占い

 ある日の放課後、栞と扇華は街角に新しい占い屋を見つけました。


「あ、新しい占い屋さんだ! 入ってみない?」


 扇華が興味津々で提案します。

 一方、栞は眉をひそめます。


「占い? 扇華ってそんな非科学的なものに興味があるの?」

「もう、しおりんったら。そんな固いこと言わないで、たまには肩の力を抜いて楽しもうよ」


 扇華に半ば強引に引っ張られ、栞は渋々占い屋に入りました。



 占い屋の中は、かすかなアロマの香りが漂い、薄暗い照明が神秘的な雰囲気を醸し出しています。栞と扇華は、赤いビロードの椅子に座り、占い師の前に手を差し出しました。


 占い師は、深いシワの刻まれた顔に鋭い眼光を宿し、ゆっくりと二人の手のひらを覗き込みます。


「ふむ……」


 占い師は低い声で呟きました。


「まずは御前さまからでござるな」


 扇華の手を取り、占い師は語り始めます。


「これは珍しき相でござる。御前さまの人生線は、まるで大樹の枝のごとく、数多の枝分かれをしておりまする。多くの人々と出会い、縁を結ぶ相でござるな」


 扇華は目を輝かせて聞いています。


「さらに、知恵線と感情線が深く交わっておる。聡明でありながら、人の心をよく理解する方でござろう」


 次に、占い師は栞の手を取りました。


「こちらの御前さまは……」


 占い師は一瞬驚いたような表情を見せます。


「これはまた稀なる相でござる。頭脳線が極めて深く、しかも星のような印がございまする。並外れた知性の持ち主にござろう」


 栞は無表情を装っていますが、その目には少しばかりの興味が浮かんでいます。


「しかしながら、感情線はやや薄め。御前さまは、時として感情よりも理性を重んじる傾向がおありかな?」


 占い師は二人の手を見比べ、にっこりと笑みを浮かべました。


「そして、驚くべきことに、御両所の運命線が不思議なほど似通っておりまする。まるで糸で結ばれたかのごとく。御両所の縁は、まことに深きものと見受けられまする」


 扇華は嬉しそうに栞の方を見ますが、栞は少し困惑したような表情を浮かべています。


「されど、御前さまがた」


 占い師は真剣な表情で続けます。


「未来は常に流動的なもの。この手相は可能性を示すのみ。真の運命は、御前さまがたの行動次第でござる」


 扇華はずっと目を輝かせて聞いていましたが、栞は腑に落ちない表情です。



 占いが終わり、店を出た後、扇華は興奮気味に話します。


「ねえ、すごく当たってたよね! しおりんのこと、頭がいいって言ってたし」


 栞はため息をつきます。「それは単なる一般論だよ。誰でも言えることを言っているだけ」

 栞は続けます。


「扇華、ちゃんとした占いは統計学に基づいているの。例えば、星座占いなんかは大量のデータを分析して、確率的に当てはまりやすい内容を書いているだけなんだよ」


 栞は真剣な表情で説明します。


「それ以外の占いは、ただのまがいものだよ。科学的根拠が全くない」


 扇華は首を傾げます。


「でも、そんなに厳密に考えなくても良いんじゃない? 占いはエンターテインメントだよ。何も考えずに楽しめばいいんだよ」


 栞は少し考え込みます。


「でも、そういう非科学的なものを安易に信じると、重要な判断を誤る可能性があるから」


「そんな深刻に考えなくても」


 扇華は笑います。


「占いを100%信じて人生を決める人なんて、そうそういないでしょ。ちょっとしたアドバイスや励ましとして楽しむだけでいいんだよ、しおりん!」


 栞はまだ納得していない様子です。


「それでも、科学的思考を養うためには、こういった非合理なものを排除すべきだと思うんだ」


 二人の議論は平行線をたどりますが、やがて扇華が提案します。


「じゃあ、こうしてみたら? 占いを楽しみつつ、その後で科学的に分析してみるの。占いの言葉がどういう心理効果を持つか、とか」


 栞は少し興味を示します。


「それは……少し面白いかもしれない」

「でしょ?」


 扇華は嬉しそうに言います。


「占いを通じて、人の心理や統計学を学ぶんだよ。楽しみながら科学する、ってことで」


 栞は少し微笑みます。


「まあ、そういう観点なら、占いにも意味があるかもしれない」


 なんだかんだとありましたが、結局栞は扇華に興味をもったようでした。



 栞と扇華は夕暮れの街を歩いていました。

 二人の間には、少しの沈黙が流れています。


「ねえ、しおりん」


 扇華が静かに話し始めました。


「占い師さんの最後の言葉、覚えてる?」


 栞はわずかに頬を染めて答えます。


「うん……運命線が似ているとか、そんなこと」


 扇華はくすっと笑います。


「そう、私たちの縁が深いって」


 栞は少し考え込むような表情を浮かべます。


「まあ、科学的には意味のない話だけど……」

「でもね」


 扇華が栞の言葉を遮ります。


「占いが当たってるかどうかは別として、私たちが親友であることは事実だよね」


栞は黙ってうなずきます。


「それに」


 扇華は明るく続けます。


「これからも一緒にいろんなことを経験して、似たような思い出を作っていけば、ますます運命線が似てくるんじゃない?」


 栞は思わず笑みを浮かべます。


「扇華らしい発想だね。でも……確かにそうかもしれない」


二人は顔を見合わせ、笑い合います。

 そして、自然と手をつなぎました。


「さあ、帰ろっか」


 扇華が言います。


「今日のおやつ、何にする?」

「うーん、どうせなら?」


 栞が冗談めかして提案します。

 扇華は驚いた表情を見せますが、すぐに嬉しそうな顔になります。


「しおりんったら! でもその案、大賛成!」


 こうして二人は、軽やかな足取りで家路につきました。占い師の言葉は、彼女たちの絆をより意識させ、その友情をさらに深めるきっかけとなったのです。夕焼け空の下、栞と扇華の笑い声が街に響いていました。

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